斎藤美由紀の決意(美由紀視点)
プロダクションの人とは、すぐに会うことになった。
「初めまして、アロープロの飯島です。」
渡された名刺には「タレント統括マネージャー 飯島せつ子」とある。アロープロといえば、あの大物ミュージシャン下山芳樹をはじめ多くの売れてる芸能人の所属している芸能事務所じゃん。
アタシが驚いている間も飯島さんの話は続く。
「ウチの人気モデル木崎真里亜を中心としたバンドを創ろうと思ってるの。そのメンバーを捜しているの。あなたメンバーにならない?」
話は分かるけど、アタシのやりたい音楽とは違うかもしれない。けど直感はメンバーになれと言っている。
「いきなりこんなこと言われても戸惑うのも当然。とりあえず皆に会ってみて。」
飯島さんはそう言って、アタシを連れだした。
連れて来られたのは、普通の民家だった。住宅街に建つ二世帯住宅、この立地なら結構な価値があるはず。
飯島さんは挨拶すると、自分の家のように中に入っていく。行き着いた部屋の扉だけ普通の家には似合わない作りだった。
扉の向こうには本格的なレコーディングスタジオ。どうしよう、少し興奮してきた。
だけどそこに居たのは綺麗な女の子と子供が二人。違和感がすごい!
女の子は木崎真里亜だろう。彼女は録音ブースでベースの練習をしていて、子供が指導しているようだけど・・・
もう一人の子はミキシングブースにある応接セットで勉強している。なんで?
「平嶋くんこんにちは。何しているの?」
飯島さんが子供に話しかけた。平嶋っていうのか・・・なんで、あなたは勉強してるの?
「こんにちは。山下くんが新曲を創って来たから、合わせようって。真里亜さんにベースラインを説明してるから、僕は宿題をさせてもらってます。」
宿題か・・・小学生時代に存在する敵だな。この子はスラスラ片づけているから優等生だな。
「山下くんみたいに学校にいる間に済ませればいいんだけど・・・僕は時間が掛るから。」
なんと、アタシには強敵だった宿題が、この子にはザコ敵であっちの子には敵にすらならないとは。宇宙人か・・・
「平嶋くんはキーボードのパートを確認しなくていいの。」
飯島さんの疑問はもっともだ。
「山下くんが真っ白な状態で合わせたいから、僕らはいつも初見で弾くことにしています。真里亜さんは初心者だから、そうはいかないけど。」
この子たちは楽譜を見れば演奏できてしまううんだ・・・基礎がしっかりしてるんだな。
半信半疑ながらも感心していると、録音ブースの二人がアタシたちにきがついて出てきた。
「飯島さん、その人誰ですか?」
聞いてきたのは木崎真里亜ちゃんだ(可愛い!なるべく平静を装う)。平嶋くんという子も気になっていたのだろう、ウンウン頷いている。
「この人は斎藤美由紀さん。あなたたちと組めないかと誘ってきたドラマーの方よ。」
「まだどうなるか分からないけど、とりあえずよろしく。」
練習場所や機材にはこれ以上無い位恵まれているけど、メンバーが子供ばかりではこの先続いていくのかも分からない。簡単に決めるわけにはいかない。勿論、アタシが採用されないことだってある。
山下って子が楽譜を持ってアタシに近づいてきた。
「まずは一緒にプレイしましょう。基本的なアレンジしかしてませんが、どうですか?」
渡された譜面は本当に単純なアレンジで、これを叩き台にアレンジを進める前提のものだった。これなら、いきなりでも叩けそうだ。
「そうだね、まずはやってみよう。」
4人で録音ブースに入って機材をチェック。こんなトコで叩いたこと無いから、密かにテンションが揚がる。
ボーカルは真里亜ちゃんで、歌詞はまだ仮らしい。
アタシのカウントでセッションがはじまる・・・・
短いようで充実した時間だった。真里亜ちゃんも他の二人に子も満足そうに笑顔を見せている。
心は決まった・・・
「飯島さん、このバンドすごいポテンシャルだよ。参加させてもらえるなら、こっちからお願いしたいね。」




