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何だか分からないけど、乾いた音が鳴り響き、パトカーは吹っ飛んだ

 僕を乗せ、警察署に向かい走るパトカーは、地面から浮いていた。

 それは僕にとって初めての感覚で、何だか落ち着かない。


 今、真東京で採用されているパトカーは試験運用段階の最先端のものだ。

 まずもって、注目すべきところは、タイヤが無い。

 地面から、浮いているんだ。

 それを可能にしているのは、昔の人間でも知っているであろう磁石だった。

 地面の中に埋め込まれた電磁石と、パトカーの底に取り付けられた電磁石が反発して、車体を浮かせているんだ。

 聞けば、簡単に思うかもしれないが、それは大変な発明だった。

 パトカーに乗り込むのは人。

 当然ながら、人数も、個々の体重も毎回変化する。

 その変化に対応しながら、パトカーは浮き続けなければならない。

 これは科学者からすれば、かなりの難題と言えただろう。

 が、その難題は見事、クリアされた。

 パトカーに電磁石を採用する事によって。

 常に一定の磁力を発する磁石と違って、電磁石は掛ける電気によって、ある程度、磁力のコントロールが可能だ。

 しかし、それを可能にするには常に計算を続けるスーパーコンピューターが不可欠。

 そんな物は車に積めるはずも無いので、外部に設置しておく必要が出て来る。

 それには、東京中どこを走っていても信号を受信できる高い塔が必要だった。

 その為、グラビティツリーは磁力塔としての役割も兼任する事になったんだ。

 磁力をコントロールするプログラムの作成には手間取ったらしいものの、完成すれば、その恩恵は計り知れない。

 浮いているのだから、地面との摩擦が無くなる。

 これはエネルギー効率を考えれば、余りに魅力的な話だった。

 さらに、電磁石を使用している事からも分かる様に、当たり前の様に電気自動車だ。

 排気ガスなど出る訳ないし、一度の充電で走れる距離も千キロ以上と圧倒的だ。

 これぞまさに、究極のエコカーと言えるだろう。

 まだ、地面に磁石を埋め込む工事が完了しているのは、首都である真東京だけだが、いずれは日本全国、パトカーのみならず一般の自動車もこの電磁石内臓式を採用する予定らしい。

 ただでさえ素晴らしい発明ではあるが、特に、地球温暖化がより深刻になっている昨今では、この技術に期待が高まるのは当然だった。



「あの~、ホント、仮面切断とか止めません?ほら、人を傷つけるのって、良くないと思うんですよ。やっぱり」

 そんな素晴らしいパトカーは走る。警察署に向かって真っすぐに。

 まあ、ぶっちゃけこれだけ説明したけど、パトカーとか僕的にはどうでもいい。

 このパトカーの詳しい経緯を知っていたところで、ここから逃げる役には立たないだろうし。

「ふんっ。じゃあ、人々が金と時間と労働力を掛けて建てたビルを爆破するのは許されるとでも?」

 後部座席に座る僕を、石神は横から睨みつけた。

 僕の両脇には、石神と杉林が。運転席と助手席には名前も知らない警官がそれぞれ座っている。

「許される訳ないよな?許される訳が無いんだよ。お前のしでかした事で一体何千、何万の人々が被害を受けたか分かるか?そこまでの大事件を起こした犯罪者に人権なんて、あるわけないだろう」

 日本の法律では、犯罪者にも一様、人権は認められているはずなんだが。

 しかし、石神個人としては僕の人権を認める気はないらしい。

 この男、自分個人の正義感や考えでもって行動するタイプなのかもしれない。

 そこにはきっと、何が正しく、何が間違っているのか、彼なりの明確な理由付けがされているのだろう。

 こういうタイプは頑固で何を言っても聞かない事が多いんだよなぁ。

 まあ、何かは言うけどね。言わないと仮面どころか僕の首まで切られそうな勢いだし。

「いやだから、あれは人々に笑顔を届ける『笑顔お届け活動』の一環で・・・・」

「何を訳分からん事言ってんだ?もういい。お前は黙っていろ。話は署でたっぷりと聞いてやる」

 はい、無理でしたーー。やっぱ、無理でしたーー!コンチクショウッ!!

 石神は顔を外に向け、もうこちらを見もしない。

「話を聞けって!聞いてください!!」

 しかし、僕が何を言っても石神が振り向く事は無い。

 元より、犯罪者の話を真面目に聞く気など無かったのだろう。

 他の警官達は元より僕と口を聞く気も無さそうだ。

「くそっ」

 僕は、舌打ちを一つ付くと、それきり話さなくなった。

 今ここで、何を言っても無駄だろう。

 車内には沈黙が広がり、電磁石内臓式パトカーならではの、フィーンという駆動音が聞こえるだけだった。



 ――――そうして誰も話さなくなってからどれほどの時が経っただろうか。

 まだ警察署に到着していない事からしても、実際にはそれ程経っていないのだろうが、僕にはもう何時間もパトカーに揺られている様に思えた。

 こういう絶望いっぱい、喪失感いっぱいの時は、時間の流れがゆっくりになるものなのかな?

 ハァーーーーア。何でこんな事になっちゃったんだろうなぁ~。

 って、あれか!空中歩行を失敗した僕のせいか!クソッ!!

 何かこう、都合よく誰か助けてくれないかな~。

 僕を助けてくれる友達なんて、いないんだけどWWW。

 いや、例えいたとしてもこの状況の僕を助ける事など不可能か。

 それこそ、かなり統率の取れた集団でなければ。

 もしくは、人知を超えた存在ならあるいは――――。

 って、ないない!希望が無さ過ぎて夢物語を妄想してしまったのか僕は。

 そんな存在、いる訳が――――


 パキイィィィンンッ!!!


 次の瞬間、何故か乾いた音が辺り一帯に響き渡っていた。

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