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僕は雫から逃げ出した

 クソッ!クソッ!!クソッ!!!

 勝てねえ!!何をどうしても勝てる気がしねえ。

 分かり切ってたけど、こりゃあ、俺死んだな・・・・・。

 はあ・・・・・、せめて最後に杉林の敵くらいは取ってやりたかったんだけどな・・・・・。


 ――――仲間の警官達が殺されて数日。

 その家族に誤って回っていた時、俺は耐えきれなくなって逃げ出した。

 行く当ても無くなって、バー『フィレット』に入って、人和とやけ酒をしたっけ・・・・・。

 そんな俺を杉林はあの日、ずっと探してくれていたんだよな・・・・。

 はあ・・・、こんな事になるなら、照れずにしっかり礼を言っとけばよかった。

 あいつは弱そうに見えて、『鬼の石神』なんて呼ばれてる俺なんかよりよっぽど強い。

 そして・・・・・・、優しい。

 ・・・・まあ、いいや。

 後悔なんて俺らしくもねえ。

 あっちに行っても杉林に礼なんか言ってやるもんか。

 また、偉そうな態度であいつを振り回してやる。


 人和も気がかりだが・・・・、まあここまで教えてやったんだ。

 あとは自分で何とかするだろ。

 そこまでしてやるほどの仲じゃねえし。

 あとは勝手にやってくれ。


 ああ、あっちでも杉林と一杯やりてえなぁ・・・・。


 天国にも、酒があるといいんだけど――――――


 *


 それが最後だった。

 石神さんは凍り付いた。

 雫の『氷塊』だ。

 身動きすら取れなくなった石神さんを、雫はめんどくさそうに払いのける。

 雫が少し押しただけで。

 ただそれだけで。

 石神さんはぐらりとかしぎ、倒れていく。

 ガシャァンッ

 倒れた石神さんは、人が倒れたとは到底思えない音を立てながら、粉々に砕け散った。

 コロコロと。カラカラと。

 僕の前には、石神さんの頭だった部分が転がって来た。

 ふと。

 凍り付いたその顔と、目が合う。

 ―――――ああ。

 僕は、理解した。

 この時初めて、理解した。

 今、一人の人間が死んだんだ。

 凍り付いた頭。その一部分はかけて、頭蓋骨の中が見える。

 皺が刻み込まれた豆腐の様な部位が見える。

 それが、むき出しの脳だと理解するのに、暫く時間が掛かった。

 首はぽっきりと折れ、その断面をさらけ出している。

 しかし、そこから血は出ない。

 中まで全部凍っているんだ。

 凍り付いたその顔は、決して揺るがぬ正義を貫く決意を感じる凛々しい顔だ。

 その表情が、もう二度と変わる事は無い。


 不意に、一際強い風がグラビティツリー頂上を吹き抜けた。

 また、コロコロと。カラカラと。

 石神さんの頭は転がり、地上へ落ちて行った。


「・・・・ごめんなさい、人和。『氷結世界』をするのに、今のでまた妖力を溜め直さないと、いけなくなちゃったわ」

 人が死んだというのに、雫はそんな事は気にした様子も無く、申し訳なさそうに苦笑した。


「う、うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 僕はその場から逃げ出した。

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