女の凍える様な瞳が僕を見つめた
『杉林!!』
石神さんが僕に向かって叫んだ言葉が頭の中を駆け巡る。
あの言葉には、僕を信じて任せるという強い信頼が感じられた。
『鬼の石神』にあんな言葉を掛けられたら、頑張らずにはいられない。
「はっはっはっ・・・・!!」
荒い息を上げながら、僕はグラビティツリー上部、ゲイン塔内部の階段を駆け上がる。
普段は所々に設置された照明が照らしているであろう、一般人立ち入り禁止の整備メンテナンス用の階段だ。
外の明かりが全く入らないこの階段は、東京中が凍り付いた事によって、照明が失われ、完全な暗闇と化している。
僕が手に持つライトだけが、足元を照らしている。
第二展望台から、ゲイン塔デッキに続くこの階段は、二百メートル近い高さを誇る。
そこを一気に駆け抜けるのだから、僕の息は切れ、中々に苦しい。
でも、あの石神さんに頼まれたんだ。絶対に白装束の女が、これ以上何かをする前に捕まえたい。
長い階段。が、そんな長い階段も、無限に続く訳では無い。
やがて、僕の視界の先に淡い光が見えて来た。
月明かりだ。
「はっはっ、つ、着いた・・・・」
僕はゲイン塔デッキ一階に到着した。
このゲイン塔デッキは二階構造になっており、スカイツリーが揺れて倒れない様にする為の装置が設置してある。
白装束の女がグラビティツリーの最上階に上ったのだとすれば、この装置を狙っているのではないかと予想していたが、ここに白装束の女の姿は無い。
てことは・・・・、二階か!
僕はライトをしまい、代わりに拳銃を握って二階へ上った。
が、そこにも誰もいない。
一階にも、二階にも、白装束の女の姿は無かった。
もちろん、上って来る途中、階段で見かけてもいない。
となると、考えられる場所はもう一つしか残されていない。
僕は近くに梯子を見つけ、頂上に登った。
頂上―――グラビティツリーの売りでもある地上からの高さ、六百三十四メートル地点。
頂上へ頭だけ出した僕は、吹き付ける風に顔をしかめた。
元々、人が立つ事を考えて作られていないし、そうでなくとも今は強風が吹き荒れている。
何とか全身を外に出すが、立つ事すら出来ない。
普通なら、とてもじゃないが立ち入りたくない場所だ。
しかし、立ち入らなくてはならない。
なぜならば――――
「見つけたぞ、女・・・・」
そこには探していた白装束の女がいたから。
僕には気付いていないのか、僕に背を向け、空に向かいブツブツと何かを呟いている。
な、何だよこの女・・・・・。
その光景に僕は恐怖した。
女は涼しい顔をして立っていたのだ。この強風の中を。
こ、こいつは想像以上にヤバいんじゃないか?
い、いや、元々ヤバいのは分かっていた。
どんな方法を使ったのかは知らないが、真東京を丸ごと凍らせた時点で、こいつらはヤバすぎる。
でも、それでも、どうやって立っているのかも、何の目的があるのかも分からないこの女は、改めて僕を恐怖させた。
得体の知れない者は怖いものだ。
僕は強風の中、何とか片手だけは地面から放し、拳銃を突き付ける。
「もう、逃げ場はない。大人しく、投降しろ」
白装束の女はそこで、初めて僕に気付いたのか、ゆっくりと振り返った。
銃を突きつけられているというのに、その顔に恐怖は微塵も無い。
女の顔に有るのは、疑問、それだけだった。
「・・・・ひと・・・、シルクハットボーイはどうしたの?」
ああ、シルクハットボーイが倒されたのかと心配になったのか。
「下で、石神さん・・・警官の一人が、今頃逮捕している頃だよ。分かったら、お前も大人しく投降しろ」
が、白装束の女はそれを聞くとむしろ安心した様に胸を撫で下ろした。
「・・・・そう。それなら問題ない。シルクハットボーイがただの警官一人に負けるはずないもの」
「・・・?どういう意味だ?」
が、僕の質問に女はまたしても意味の分からない答えを返して来た。
「・・・・だって、彼はマジシャンなんだもの」
それだけ言うと、もう女は僕と話す気も無いのか。
「さて、そうはいっても、ここまで来たあなたをほっておくことも出来ないわね・・・・」
女の凍える様な瞳が僕を見つめた。




