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願いは届かず、石神さんとの戦いが始まる

「――――で、どう?もう『氷結世界』は使えそう?」

「・・・・うん、何とか。でも世界に影響を及ぼす技だから、ここよりももっと高いグラビティツリーの屋上に行かないと・・・・。それに、詠唱にも相当の時間がかかるし」

「そっか。分かった。まあ、警官達はこっちで足止めするよ。雫は屋上に行って、使える様になったら使ってくれ」

 そう言う僕に雫は不安げな表情を向けた。

「・・・・大丈夫、なの?」

「ふはははは!心配はいらない!策はある!!」

「・・・・なら、いいけど」

 それでも、なお不安げな表情を崩さない雫に対して、僕は、グッと親指を立てて見せた。

「任せろ、雫の願いは必ず叶える。約束だ」

 僕はニッと笑って見せた・・・・あっ、仮面してるから雫には分からないか。

「・・・・ん。分かった。行ってらっしゃい」

 でも、それで雫は安心したのだろう。いや、安心したふりをしてくれたのかもしれない。

 答える様に片手を小さく振り、屋上へ続く階段を上り始めた。


 *


「さて・・・・・と」

 僕は真っ直ぐに下へ降りる階段の方に走っていた。

 第二展望台と、第一展望台を結ぶ二機のエレベーターは凍り付いて使えない。

 もはや、この展望台へ上がって来る手段は、真柱と呼ばれるグラビティツリーの中心の柱の中にある非常階段を上って来る他なかった。

 これは僕としては好都合だ。

 間違いなく、階段を警官が上って来るだけでも相当な時間稼ぎになる。

 恐らく、上り始めてからここに辿り着くまで、数十分はかかるのではないだろうか。

 さらに、細い階段では、相当な数の警官が上って来たとしても、一度に戦闘出来る人数が限られるので、戦いを有利に進められるはずだ。

「ま、この距離だし、上って来るまでに雫の準備は終わるだろうけど」

 言ってしまえば、『八角氷雪陣』が発動した時点で、僕らの勝利は約束された様なものだ。

 こりゃ、思っていたよりも簡単に世界を氷漬けに出来そうだな。

 その内に、階段が見えて来た。

 まあ、必要ないとは思うが、念には念を入れて、この階段に時間稼ぎの罠を仕掛けておこう。

 僕が、どこに罠を仕掛けようかと階段を見回していると、


 ガッシャアアアン!!


 背後に凄まじい音が響き渡った。

「何だ!?」

 慌てて振り向くと、グラビティツリーの巨大なガラス、その一枚が粉々に砕けていた。

 そして、そこから二人の男が展望台内部に侵入するところだった。

「「「・・・・・あっ」」」

 侵入してきた二人と僕は、互いに顔を見合わせ、茫然とした。

 僕としては、まさか階段を使わずに外から侵入してくるとは思いもしていなかったのだから、当然だ。

 て、あれ?その内の一人、石神さんじゃね?

 え?外から侵入してきたの!?


 ―――――ここ、地上四百五十メートルだぞ!?


 しかも、雫が『八角氷雪陣』を行った為に、大気中の温度が下がり、気圧が不安定になっている。

 つまり、今、外には強風が吹き荒れている。

 そんな中、この二人は階段を使わず、外から侵入して来たのか?

 バカか?いや、それ以前にどうやってそんな事したんだよ!

 予想外の出来事に僕の動きは鈍る。

 が、警官――――石神さんと杉林からすれば、今、この場で僕と出くわすのは想定内の出来事だろう。

 その事実が、二人を僕よりも早く動かしたんだと思う。

「杉林!!」

 石神さんは、一言、杉林に向かって叫んだ。

 それで、言葉の真意を杉林は理解したらしい。

「ご無事で!」

 杉林はそう石神さんに告げると、上へ続く階段の方へ走っていく。

 きっと、僕と一緒にいるはずの雫が、この場にいない事に違和感を覚えたのだろう。

 そして、今も雫が階段を駆ける音がここからでも僅かに聞こえる。

 杉林は雫を追うつもりなんだ。

 ゲイン塔デッキと呼ばれるグラビティツリー最上階を杉林もまた目指していく。

「させるかっ!」

 が、僕だってそんなの黙って見過ごせる訳が無い。

 杉林を止めようと、手を伸ばす。

 バンッ!!

 が、伸ばした手の先を弾が掠め、コンクリートの地面に着弾した。

「うおっ!?」

 実際に手に当たった訳では無いが、実弾が目の前を掠めたという事実は僕を怯ませるには十分だった。

「行かせねえよ。シルクハットボーイ、お前はここで俺と遊んでいけ」

 僕は弾が飛んできた先を睨みつける。

 石神さんは不敵に笑い、握っていた拳銃を構え直した。

 拳銃を向ける相手から目を離す事など僕には出来ない。

 だって、めっちゃ怖いし。

 別に僕は戦闘のプロじゃないんだ。

 杉林が階段を昇っていく音が遠ざかる。

 しかし、僕にはどうする事も出来ない。マジで石神さん怖いし。

「くそっ、またあなた達ですか。先日、僕を逮捕しそびれたお礼にでも来たんですか?ヤクザみたいですね」

 僕が人和だとは気付かれてはいないだろうから、なるべくこう・・・・、シルクハットボーイらしく石神さんに話しかける。

 話しかけながら、僕は懐からステッキを取り出した。

 折り畳み式のステッキだ。

 それを伸ばし、先端を石神さんに向け突き出す。

「僕らの邪魔ばかりして・・・・、いいですか?僕らは世界を平和にしようとしているんです。その僕らの邪魔をするという事は、あなた達は世界を破滅へと導く大罪人以外の何者でも無いんですよ?」

 僕の言葉に少しでも共感してくれれば、ここで石神さんと戦わずに済むんじゃないか。

 そんな淡い期待を込めて言った言葉だったんだけど・・・・。

 が、僕の言葉を受けても、石神さんに迷いは無かった。

「御託はいい、犯罪者。警官の仕事はお前らみたいに訳の分からん事言って、世の中を混乱させるバカ共を逮捕する事だ。分かったら、さっさとお縄に付きな」

「御免ですね」

「そうかよ」

 会話はそこまでだった。

 石神さんと戦いたくはない。が、この状況ではそうも言っていられないだろう。

 暫く睨み合っていた僕達だが。


 ――――やがて、戦いは始まった。

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