エンカウントは目前で、決意を固めその時へ近づく
「・・・・ありがとう・・・・ね」
不意に、壁にもたれかかって休んでいた雫が礼を言ってきた。
「な、何さ、急に」
突然の感謝の言葉に、思わず僕はたじろぐ。
「ここまで協力してくれるとは、思わなかったから」
「ああ、そんな事か。言ったじゃん、僕は君に惚れてるんだよ。だから、協力したくなっちゃうの。それに、雫の目的も立派なものだったしね。僕が命を懸ける理由は十分だ」
「・・・・ごめんね」
「?何で謝るの?」
「・・・・だって、そこまでしてくれてるのに、私はあなたの気持ちに答えられない」
「あ~~~、まあ、今はいいさ。でも、ひと段落付いたら、もう一度よく考えてみてよ」
「・・・・いや、そういう問題じゃ――――」
―――――パリンッ
そこまで言いかけて雫の言葉は止まった。
グラビティツリーの下から、氷を割ったであろう音が聞こえたからだ。
僕――――シルクハットボーイの表情も険しいものへ変わる。
まあ、仮面で表情は見えないが。
「警官か?あんなに罠を仕掛けてやったのに、もう来たのか」
僕は立ち上がり、雫に手を差し出す。
「悪いね。どうやら、休憩はここまでらしい。立てる?」
「・・・・ん。大丈夫。行こう」
雫は僕の手を取り、立ち上がった。
*
「何やってんだ、杉林!」
俺は、今更怒ったところで無駄だとは分かっていながらも、小声で怒鳴りつけた。
「す、すいません」
杉林は転んでいた体を上半身だけ起こし、誤る。
辺りには、氷漬けのガラスの破片が散乱していた。
―――――そう、先ほどの音は杉林が凍った地面に足を滑らせ、氷漬けのガラスに激突し、粉々に砕いた音だった。
普通であれば、その程度でガラスが砕けるなどあり得ないが、何分、凍り付いたガラスだ。
本来よりも、格段にもろくなっているのは、仕方の無い事だった。
「ちっ、これで確実にシルクハットボーイ達にばれたぞ」
今は真東京中の機能が停止している。
普段は鳴りやむ事の無い車が行きかう音も、人が歩いたり、話したりする事で生まれる雑音も、ありとあらゆる音が真東京から消えているのだ。
しかも、温度が低いと、音が良く響く。
例え、地上六白三十四メートルの展望台にいるとしても、聞こえた可能性が――――、いや、ここは聞こえたと断定して動いた方が確実だ。
「突撃部隊はまだ到着しないのか?」
俺は突撃部隊が来るであろう道を振り返るが、影すら見えない。
これは暫くかかりそうだ。
「ど、どうしましょう石神さん?じ、自分のせいですけど、ばれたかもしれませんし、ここは一度隠れて、体制を立て直した方が・・・・」
杉林がこんな不安な事を言うのも仕方が無いのかもしれない。
俺だって、不安になる。
この巨大な建造物、グラビティツリーが全て、余す所無く、氷漬けになっているのだ。
改めて間近で見て、その異様な光景に目を奪われる。
明らかに人知を超えた現象に唖然とする。
一体、自分達はこれから、どんな化け物と戦おうというのか?
「いや、このまま進もう」
だが、俺は心の不安を全て振り払い、このまま進む事を決断した。
確かに、相手は人知を超えた化け物かもしれない。
しかし、それならなおの事、逃げる訳にはいかない。
こんな化け物を野放しにしておくなど、有り得ない。
奴らに時間を与えるべきではない。
そう、判断した。
俺の決意を、杉林も再確認したのだろう。
「・・・・分かりました」
顔に決意を込め、頷き、俺の後について歩き出した。




