第四話 文芸部の決断
「それで、来月の文化祭だが――」
部長が教壇に立ち、皆を見回して眼鏡をあげる。そして虚空に指をさし、キザなポーズを決めて言った。
「オリジナルの脚本で、演劇をやるぞ!」
その言葉に、俺は首をひねった。
「え……演劇?文芸部が?」
部長は大真面目な顔で頷いた。
「ああ、演劇だ。」
さらりとした少し長い髪が揺れる。スイが小首を傾げて問う。
「……なにゆえ?」
部長は得意げに答えた。
「ふん、お前にしてはいい問いだ久遠。ここには僕の深遠なる計画があるのだよ!そもそも文芸とは――」
「長くなりそうなんで一言でまとめてもらっていいっすか?」
千夏が呆れてツッコミを入れた。俺もうんうんと頷く。
「……要するに、だ。普段本を読まない愚か者どもに、演劇で文芸の魅力を叩き込んでやろうというわけだよ!」
部長は再びビシッと虚空を指差し、眼鏡をあげて言った。
岩センが目を細め、足を組み直す。
「なるほどな?面白えじゃねえか。俺ぁ賛成だぜ。誰が脚本を書くんだ?」
部長が岩センに向き直って返事をする。
「はい、先生。僕がやります。文芸部で殺人事件が起こるミステリーの劇にしようと思って。探偵役は他に譲りますがね」
その時、岩センの手元からひらりと写真が落ちた。
「あ、岩セン。大事な写真落ちたよ……これ、一昨年の入学式? 今と制服が違う」
「おお、あんがとな。お前はよく気づくなあ」
岩センはにかっと俺に笑いかけた。
部長がこちらを見てわずかに目を細める。
「……よく分かったな、吹雪」
その言葉に俺は頷いた。
「はい。あと、この年の桜は遅咲きだったはずだから」
スイは演劇の話に興味を惹かれたようで、少し目が輝いている。
「……私、演出とか……やってみたいかも。」
「ふん、お前に出来るのか?せいぜいお遊戯会程度のクオリティを期待しておくか」
部長は相変わらず冷たい。しかし、スイに向けるその顔はどことなく普段と違った。
千夏も元気に賛成した。
「じゃああたしはセットとか作りますよ! 機械いじり得意なんで任せてくださいっす。それに、お芝居も楽しそうじゃないっすか?」
俺はその様子を手を頭の後ろで組んで眺めていた。演劇なんて、俺みたいな不運体質が関わったら碌なことにならないだろう。
彼らに迷惑をかけないためにも、俺はバイトに専念して――
「おい、何を他人事のような顔をしている?」
「へ?」
部長に突然鋭く声をかけられる。
「演劇には人数が必要だ。お前にも手伝ってもらうぞ。……自覚していないだろうが、お前は無駄に観察力があるからな」
「……いやいや!俺の不運のこと忘れたんすか?」
俺は慌てて言い返した。自分のせいで楽しい文化祭が台無しになったら目も当てられない。
「俺なんか、そんな頼りにされても困るって言うか……」
焦る俺に、岩センが椅子から立ち上がって笑いかける。
「まあまあ、落ち着けや。まずは真田の話を聞こうぜ。断るのはそれからだって遅くねえだろ?」
「で、でも……。」
部長は冷静に俺を見ている。その切れ長の目元はいつものように鋭かった。そして、彼は口を開く。
「吹雪。お前には――主役の探偵役を演じてもらうぞ。」
時が止まった。
「…………はあああああ!?」
俺の口から、人生でいちばんの絶叫が出た。




