第二十八話 ハルトくんが
スイが警察に連絡したはずなのに、随分到着が遅い。一体なぜ助けが来ないのだろうか。
彼女は俺を見上げている。その丸い目の奥で何を考えているのか、俺には分からない。
これで調べられる場所は調べ終わっただろう。会話が途切れる。先ほどからずっと感じてきた疑問が口をついて出た。
「なあ。お前……どうして俺についてくるんだよ?」
俺は彼女を訝しむように見つめた。
「お前だって犯人候補のくせに、俺と一緒に調査したりして。……自分は怪しくないって俺に思わせるつもりか?」
「いや、そういうわけじゃ……。」
スイは困ったように視線を彷徨わせる。
「……じゃあ何が目的だ?」
俺は尖った視線を向け続ける。幼馴染とはいえ、こんな状況ではもう誰も信じてはいけない。最大限に警戒しなければ。
「私、は……」
スイは一歩前に出て、俺の顔を見上げる。その瞳は少し潤んでいた。傷ついたような表情に心の奥がかき乱される。
「私は……ハルトくんの、力になりたい」
「ま、またそんなことを――」
その時、俺の言葉が止まる。はくはくと口が動いてしまう。
――スイが、そっと俺の手を両手で包み込んだからだ。
「……っ!?」
なんで今そんなことをする?俺を動揺させようとしているのか?
彼女の手は小さく、熱を持っている。
廊下に静寂が落ちる。聞こえるのは自分の鼓動だけだった。
「……ハルトくん。私のこと、嫌いになった?」
スイは不安そうに聞いた。
「あ、いや……き、嫌いとか、そういう問題じゃない。疑わしいってだけで……」
彼女と触れ合っているところが熱い。汗をかいていないだろうか。
「……岩井先生を殺したかもしれないのに。嫌わないなんて、やっぱりハルトくんは優しいね」
俺はその言葉に、眉を寄せて顔を逸らす。
「……誰が。話を逸らそうとしてるのか?」
「違うよ、ごまかしたいわけじゃない。ただ、どうしても話したいことがあって……」
離せというべきなのか?しかし彼女の体はわずかに震えている。俺には、彼女の手を振り払うことができなかった。
「……昔からずっと変わらないよね。ハルトくんのお母さんが、いなくなっちゃった日も」
「…………!」
俺の体が固まる。喉が締まって視界が揺れた。
「……あの事故で、お母さん……ハルトくんを庇って。
……私、隣にいたのに何もできなかった。ただ怖くて、ハルトくんが死んじゃうかもって思って……ずっと、震えてた。」
「あれは……お前は悪くねえよ。悪いのは……」
俺だ。俺の不運が、唯一の家族である母さんを殺したのだ。俺は拳を強く握りしめた。
スイは俺のそばでそっと俺を見上げた。至近距離で見るその瞳は涙に濡れている。
「あの時、決めたの。何があってもハルトくんのそばで、ハルトくんを支えて守るって……。
それからは、気づいたら目で追ってた。ずっと見てたの――ハルトくんが、好きだから」
そう言って、彼女は俺を見つめ続けた。上着の内ポケットにそっと手を添えるのが見えた。




