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第十四話 現場の違和感

 スイが不思議そうに口を開く。

「……ファイルのおかしなとこはこれくらいかな。

 ……部長は階段を降りてきたところで写真を持った犯人に会って、殺されちゃった……ってことかな?」

「うーん……でもそれなら、もっと血痕が広がるはずじゃないか?」

 俺は周囲を観察しながら考えた。

「……あ、そこに本を運ぶ大きな台車があるぞ。あれなら、もしかしたら……死体を移動させられるかもしれない!」

「死体を、移動……?」

 俺はその台車を観察してみる。しかし、台や車輪に血の跡は見当たらなかった。

 それなら本当に階段下で死んだのか?もし死体が移動していたとしたら……犯人はどうやって運んだんだ?

「ぱっと見何も違和感ないんだよな……」

 そう言って俺は本棚にもたれかかった。その時、何かがちょうど腰に当たる。

「いって!」

 俺は慌てて後ろを振り返った。本棚の側面に大きな取っ手が付いている。また不運か?

「……それ、可動式の棚だね。キャスターで引き出す、中に本が詰まってるやつ」

「中に本が?」

 俺は試しにその取っ手を引くと、中の棚がガラガラと手前に出てきて中に本が入れられていた。

「この中はまだ調べてなかったな。」

「……そうだね」

 俺たちは一つずつ棚を開けてみた。キャスターの音だけが閉鎖的な書庫に響く。そして最後の一つの取っ手を引くと、それは想像よりとても軽く動いた。

「うわっ!」

 思わず後ろに転びそうになってしまう。可動棚は勢いよく外へ飛び出た。

 ――そこに、それはあった。

「ひっ……!」

 ぶちまけられた鮮烈な赤色。まだ新しい、木に染み込んだ血液だった。

「うわあああっ!」

 俺は思わず後ずさった。スイも固まっている。

 突然強くなった鉄臭い匂いが鼻をつく。無機質な書庫でその可動棚だけが圧倒的に異様だった。

 俺は呆然としたまま、ぽつりと考えを口にする。

「……そっ、か。本が入ってない、棚板も外された空っぽの可動棚。この中で部長は……」

「……うん。そう……だね」

 生々しい現場を目の前にして俺は視界が暗くなっていくのを感じた。

 一度深呼吸をして、恐る恐るその可動棚を観察する。

「……よく見ると、思ったより血の量が少ないな。」

「……うん。もしここで襲われたなら、床にも血が飛び散ると思うけど……犯人が拭いたのかな」

 俺は一歩下がって周囲を俯瞰した。

「……あとは、凶器がないよな。犯人が持ち去ったのか?」

「……確かに。どこかに隠されてるとか」

 それからしばらく凶器を探したが、結局見つけることは叶わなかった。

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