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片翼の英雄と飛べない花嫁  作者: ayaペンギン
第五部

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エピローグ

ダグラス様と結婚式を挙げてから十年の時が経った。

二男一女の子宝にも恵まれ、賑やかな日々を過ごしている。

こんなに子沢山なのはアクイラ家の歴史をさかのぼってもまれなことらしい。

きっと私にも鷲の血が流れているからではないかとダグラス様は仰っていた。


「おとうさまー!おかあさまー!」

庭園でお茶を飲む私のもとにトテトテと次男のサイラスが駆け寄ってくるのが見えた。

その後ろからは乳母やメイドが追ってきていた。


目の前に座るダグラス様が立ち上がり、飛び込んできたサイラスを抱き上げた。

ダグラス様に高く持ち上げられ、きゃーっと歓声が上がる。

サイラスはダグラス様の色をそのまま受け継いでいた。

幼いながらも『将来はお父様のような軍人になる』と言って、ダグラス様に剣の稽古をつけてもらっていた。


「サイラス、お勉強は終わったの?」

「もちろんです!」

私が問いかけると、サイラスが自慢げに胸を反らした。


「おとうさま、おろして。」

サイラスはそう言うと、ダグラス様の腕から抜け出し私のもとへやってきた。

「おかあさま、あかちゃんみせて!」

そう言うと、サイラスは私の腕の中で眠る赤子の顔を覗き込んだ。

最近生まれた長女のピアはサイラスが傍で騒いでいても気にせずすやすやと眠っていた。

ピアは私の髪と瞳の色を受け継いでいる。

ダグラス様に似たほうが美人になっただろうにと少しだけ残念に思っていた。


サイラスがピアの頬をつつこうと手を伸ばす。

あと少しで指が頬に触れそうになった瞬間、ダグラス様がまたサイラスを抱き上げた。

「手を洗っていないだろう。それに寝ているのを起こしたらかわいそうだ。」

ダグラス様の言葉にサイラスも「ごめんなさい。」と素直に謝っていた。


そこへまた一人、家族が近付いてくるのが分かった。

この足音は長男のカイラスだろう。


「母上、ここにいらしたのですか。私との飛行訓練の約束をお忘れではないでしょうね。」

私たちのもとに到着するなり不満げに漏らした言葉に、カイラスとの約束を思い出した。

「あら、ごめんなさい。うっかりしていたわ。すぐに着替えてくるから少し待っていて。」

「もう、しょうがないですね。ではサイラスと遊んで待っています。」

私はピアをレーヌに預け、自室へと急ぎ戻ろうと席を立った。

実はレーヌも私と同時期に女の子を出産し、ピアの乳母を務めてくれていた。

レーヌは乳母と侍女の仕事に加えて、最近ではリンダの後継として勉強に励んでくれている。

そして、レーヌの夫はルーカスの後継として現在修業中らしい。

きっとリンダとルーカスのような息の合った夫婦となって、私たちを長く支えてくれる存在になるのだろう。


そして、レーヌのそばの揺り籠には彼女の子が眠っていた。

共に育つことになるその子はピアのよき友になってくれるに違いない。


「おにいさまがあそんでくださるのですか?」

飛び上がって喜ぶサイラスの手をカイラスが引き、二人で駆け出した。

私はそれを一目見た後、自室へと戻った。


自室へ戻るとフェリクスが足元にすり寄ってきた。

最近は寝ている時間が増え、体を動かすのも億劫なようだ。


アンヌに手伝ってもらい、飛行用の服装に着替える。

女性用の軍服を模して作られたこの服は、飛行や乗馬の際に愛用していた。


サリーは出産を控えており、今はアンヌが私の身の回りの世話を一人でこなしてくれている。

アンヌも料理人の男性と結婚したばかりで、新婚生活を満喫しているようだった。

時折聞かせてくれるのろけ話を聞くのが最近の私の楽しみでもあった。


着替えを終えて庭園に戻った私の目に飛び込んだのは、この短時間でどうしたらこんなに汚れるのかというほど汚れたカイラスとサイラス。怒る気も起きず、ただただ笑うしかなかった。

これでは飛行訓練はできないと、今度はカイラスとサイラスが着替えに向かった。


「何があったのですか?」

「いや、特別なことはしていない。男とはそういうものだ。」

私の問いに、ダグラス様が真剣に答えてくれる。

その表情が妙に得意げで、思わず笑ってしまった。


しばらく待っていると、二人の息子たちがこちらへ向かって走ってくる。

「母上、早く飛行訓練しましょう!」

カイラスが期待を込めた目でこちらを見た。

「おにいさまばっかりずるい!わたしもとびたい!」

それを聞いて、サイラスが一緒に飛びたいと騒ぎ出す。


「サイラスはまだ小さいのだから無理だ。」

「そんなことないもん!がんばればできるかもしれないじゃないか…」

カイラスの言葉に、サイラスがズボンの裾を握りしめた。


「お母様を困らせるんじゃない。サイラスは私と一緒に待っていよう。」

見かねたダグラス様が仲介に入ってくれるが、それでもサイラスは納得できていないようだった。

ムスッとした顔で黙り込んでしまい、機嫌を直してもらうのはなかなか難しそうだ…

私とダグラス様は目を合わせて互いに肩を竦めた。

三歳になったばかりのサイラスは翼も未熟でまだ飛ぶことはできない。

どうしたものかと考えるが、なかなか妙案が思い浮かばなかった。


「おかあさま、だっこしてとんでください。」

ふいに言われた言葉に私は目を丸くした。

確かにそれならばサイラスも共に飛ぶことができるだろう。

強く否定する理由も見つからず、受け入れてしまおうかと考えたその時、ダグラス様が口を開いた。

「駄目だ。お母様の負担になるだろう。」

サイラスはダグラス様に諭されて、唇を噛み、静かに涙を流していた。

きっとわがままを言っている自覚があるのだろう。


「しょうがないわね。ひもで括り付けて飛びましょう。」

私はサイラスの悲しげな様子を見ていられず、そう提案した。

「い、いいのですか?」

サイラスが恐るおそるといった表情で私を見上げた。

私はサイラスの前にしゃがみ込み、彼に目線を合わせた。


「絶対に大人しくすること。約束できる?」

そう問いかけると、サイラスは涙を手で拭い、大きく一回頷いた。


「大丈夫なのか?」

ダグラス様は心配そうに私の肩に手を置いた。

「サイラスはまだ小さいですし大丈夫ですよ。すぐに戻ってきますから。」

「ラナがそう言うなら…」

ダグラス様は渋々といった様子で了承してくれた。


サイラスの乳母に飛行用の抱き紐を用意してもらい、その紐でサイラスの体を固定した。

「カイラス、待たせてごめんなさい。今日はサイラスと一緒に飛んでから、そのあと飛行訓練をしましょう。」

私たちのやり取りをじっと待っていてくれたカイラスに向き直る。

「仕方ないですね。わかりました。」

「おにいさま、おかあさまありがとう!」

弟の喜ぶ様子を見てカイラスも嬉しそうな表情を見せた。


私たちは庭園の開けた場所へ移動する。

カイラスと横並びに立ち、手をしっかりと握る。

「じゃあ飛ぶわよ。」

私が静かにそう言うとカイラスが握った手に力を込めた。


翼をはためかせると、自然と体が宙に浮いていく。

隣のカイラスもうまく羽ばたけているようだ。

カイラスに目で合図を送り、少し高度を上げた。

屋根ほどの高さまで飛び上がり、そこで旋回する。


サイラスの様子を確認すると、目を輝かせてきょろきょろと周囲の景色を見渡していた。

「一度、降りましょう。」

私がそう声を掛けると、カイラスが頷いてくれた。

二人で呼吸を合わせて下降していく。

庭園を見るとダグラス様が心配そうにこちらを見ているのが分かった。

ダグラス様の目の前へ慎重に着地すると、すぐに抱きしめられた。


「心配したぞ。サイラスは私が受け取ろう。」

私が固定していた紐を解くと、ダグラス様がサイラスを受け取ってくれた。


「母上、もう一度飛びましょう!」

カイラスに急かされるままに再び空へと舞い上がる。

先ほどよりももう少し高度を上げ、屋敷の周りを旋回した。

遠くの街には人々が楽しそうに生活しているのが見えた。

こうやって上空から周囲を眺めるたびに、この国を私たちが守っていくのだと痛感させられる。

カイラスやサイラス、ピアにもいずれはこの地を守る自覚を持ってほしい。

でも今はそんなことは気にせずに伸び伸びと育ってほしいと思う。


しばらく高度を上げ下げしながらカイラスの飛行訓練をして、地上に戻った。

そこにはサイラスと、ピアを抱いたダグラス様が待っていた。


昔は空に強い憧れがあった。

どこまでも自由に飛べたならどんなに幸せだろうかと、そんなことを考えていた。

今では飛行も上達し、どこまででも自由に飛ぶことができるだろう。

素直に嬉しいことではあるが、今の私はダグラス様の隣を離れるつもりは微塵もない。

可愛い子どもたちに囲まれ、少し娘に甘いダグラス様と共に人生を歩んでいく。

それが私にとっての一番の幸せだ。


子どもたちにもそんな幸せを手に入れてほしいと願わずにはいられなかった。

これにてラナとダグラスのお話は完結です。

最後まで読んで頂き、有難うございました。

もしよろしければ評価いただけますと幸いです。


また別の物語でお会いできることを楽しみにしております。

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