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片翼の英雄と飛べない花嫁  作者: ayaペンギン
第一部

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1

初の長期連載に挑戦します。

ストックがある間は、毎日21時頃に更新します。

ブックマークをしてお待ちいただけますと幸いです。

よろしくお願いいたします。

「ラナを呼んできてちょうだい!」

遠くから異母姉であるレジーナの金切り声が聞こえる。

離れにある自室の窓から本邸の窓を確認すると、使用人がレジーナの部屋から慌てて飛び出してくるのが見えた。


今日のレジーナは機嫌が悪そうだ。

また私で憂さ晴らしするつもりだろう…

使用人の手を煩わせるのも申し訳ないので、レジーナの部屋へ向かって歩き出す。


レジーナの部屋へ向かう途中、先ほどの使用人とすれ違う。

「レジーナ様がお待ちです。」

何も言わずレジーナの部屋の方へ向かう私を不思議そうな目で見ながら、用件を伝えられる。


私は内心知っていると思いながら、

「かしこまりました。」

と返事し、再びレジーナの部屋へと急いだ。


「ラナ、遅いじゃない!…まぁいいわ。今日もお茶会に参加させてあげる。これに着替えなさい。」

レジーナの部屋に到着すると、不機嫌そうに背中の羽を逆立てたレジーナから早速指示が飛ぶ。

レジーナの指先にはドレスと呼んでいいのか迷うほど貧相で古びたドレスがあった。


今日は笑い物になる日か…

思わずため息が出そうになったが、それをぐっと飲みこんだ。


レジーナはたびたび私を茶会の席へ呼びつける。

鳥人族の中でも滅多にお目にかかれないような貧相な翼をもつ私を憐れむ優しい姉を演出したいらしい。

「はい。承知いたしました。」

行くのは面倒くさいが、行かなければもっと面倒くさいことになる。

端から私には拒否権などないのだ。


「友人たちがもうすぐ到着するわ。お客様が見えたら私に教えなさい。」

レジーナはそういうとドレスとともに私を部屋から追い出した。


いったん自室に戻ってドレスに着替えた後、急いでエントランスの前へと向かう。

すれ違う使用人たちはまるで私が見えていないように通り過ぎていった。

家族から疎まれているが、一応現伯爵の血を引く私に極力関わりたくないのだろう。

それは賢明な判断だと私は思った。


エントランスに到着すると、じっと遠くを見据える。

私はこの家に住む鳥人の中で最も目がいい。

遠くまで見通せるこの目のおかげで、客人をいち早く見つける役目を押し付けられることが多かった。

まだ馬車は確認できない。


じりじりと照り付ける太陽にじっとりと汗がにじむ。

今日は食事が与えられるだろうか?

母の作るシチューが食べたい…

私はぼうっとする頭で考えた。


母は元気にしているだろうか?

母の作る料理はとてもおいしく、シチューは特に絶品だった。

一緒にクッキーを作ったこともあったっけ…

でも、掃除洗濯は苦手だったのよね。

母との優しい日々を思い出し、少し笑みをこぼす。


伯爵家へ引き取られた2年前のあの日、必死の抵抗の末に床に強く叩きつけられて意識を失った母の姿が忘れられない。

母は無事だろうか…元気に暮らしていてほしい。

私の願いはただただそれだけだった。


表向きは哀れな娘を引き取り育てる良い家族を演出している。

私が呼ばれるのは、こうして見世物にされる時くらいだ。

なんともうんざりする毎日であった。


しばらくして遠くの方から馬車がこちらに向かってくるのが見えた。

あれは今日のお客様が乗る馬車だろう。

私は近くにいた使用人にお客様が間もなく到着すると、レジーナへの伝言を頼んだ。


どんどんと近づく馬車を見ながら、今日もまた始まるのかと諦めにも似た気持ちになる。


ガラガラと聞こえる馬車の音がだんだん大きくなっていく。

そして屋敷の前に停車すると中から一人の女性が下りてきた。

レジーナの取り巻きの一人だ。


私はエントランスの扉を開き、頭を下げる。

その女性は扇子を広げて、まるで汚らわしいものを見るような目でこちらを一瞥した後、そのまま扉を潜り抜けていった。


何度かこのようなお迎えを繰り返した後、最後にお茶会の場へ向かう。


「ラナ、遅かったじゃない。さ、こちらへお座りなさい。」

お茶会の場に付いた私にレジーナが自分の隣の席を指す。


「レジーナ様はお優しいですわね。あんな貧相な翼を持つものを隣に座らせてあげるなんて。」

「そうですわ。私だったらこんなのが妹だなんて恥ずかしくて誰にも見せられませんわ。」

その場にいたレジーナの取り巻きたちから声が上がる。


「皆様、そんなにいじめないであげて。こんな翼でも可愛い妹なのよ。」

そんな取り巻きたちに満足そうな笑みを返しながら、心にもないことを言うレジーナ。


「あら?お優しいレジーナ様にお礼はないのかしら?貧相な翼の上に、礼儀もなっていないのね。」

取り巻きの一人が不満そうに愚痴る。

「私は大丈夫だから…。」

レジーナはそう言って悲しげに微笑んだ。

そんなレジーナを慰めつつ、私への侮蔑の言葉を並べ立てる取り巻きたち。


私は口を噤んで下を向き、この時間が過ぎるのをただただ待った。

ここで反論することはもちろん許されない。

もしそんなことをしたら、食事を抜かれるか…機嫌が悪ければ鞭打ちされるかもしれない。


鳥人族は翼が大きいほど尊ばれる。

伯爵の血を引いているにも関わらず、私の翼は平民の中でも小さい部類に入る。

貴族なら当たり前にできる飛行すら満足にできない。

嘲笑の対象となるのも当然だった。


心を無にして、じっと息をひそめる。

1時間ほど茶番を見せられた後、もう飽きたのか離席するよう言われた。


やっと解放される。

この後はおとなしくしていよう。

私は無言で席を立つと、足早にその場を去った。


自室に戻り、いつもの服を着るべくドレスを脱ぐ。

「なんて貧相な体…それに痣もひどいわ。これで可愛がっているだなんて、とんだ茶番ね。」

自分の体を眺めて、思わず乾いた笑いがこぼれる。

いつか誰かが助けてくれるなどという夢は遠の昔に諦めた。


今日の伯爵夫人の機嫌はどうかしら?

私はそんなことを考えながら、離れの外へと足を向けた。

お茶会のような用事がないときは、概ね離れ近くの木々が生い茂るこの場所で一日を過ごす。

たまに飛んで逃げることはできないだろうかと練習もしているが、残念ながらまだうまく飛べたことはない。


ふと本邸を見ると鬼の形相で伯爵の書斎から出てくる伯爵夫人の姿が窓越しに見えた。

あ、まずいかも…急いで自室に戻ると、天井裏へ息をひそめて隠れた。


しばらくすると伯爵夫人のかなぎり声が離れに響いた。

「ラナ!出てきなさい!」

ドカン、バタンと乱暴に扉が開かれる音がした。


この天井裏は誰にも見つかっていない。

そう分かっていても怖いものは怖い。

のどが渇く、私は唾を飲み込んだ。


しばらく大騒ぎして部屋を荒らした後、伯爵夫人は、

「私は認めませんからね!あんな貧相な翼の娘を嫁にやるだなんて…!」

そう叫んで、離れを去っていった。


遠のく足音に、ほっと息を吐く。

それにしてもさっきのは何だったんだろうか?

一瞬気になったが、私の思考はすぐに今日の晩御飯をもらえるのかどうかという考えで塗り替えられる。

今日晩御飯を抜かれたら死んでしまうかもしれない…

空腹を訴える薄い腹を撫でながら、そんなことを考えた。


しかしその日の夜、私の手元にはパンとスープが届けられた。

伯爵夫人が機嫌の悪い日はいつも食事はもらえないのに…

不思議に思ったが、もらえるならまぁいいかと思考を放棄して硬いパンとスープをありがたく頂くことにした。

二日ぶりの食事を終えると、急に眠気が襲ってくる。


ベッドに横になった私は、今日も生きていることに感謝しながら眠りについた。


明日は静かに過ごせるといいな。

そんなささやかな願いが叶わないことも知らずに…

最後までお読みいただきありがとうございます。

もしよろしければ評価いただけますと幸いです。

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