レイヤー97 行き先未定の出向
ひさしぶりにゆっくりとした休暇だ…
あるいは某国からの逃避行でもある。
忙しい時は気がつかなかったが
身体について妙なことがある。
爪は伸びる。
髪も伸びる。
夜になれば眠くなる。
腹も減る。
食べれば満たされる。
排泄もする。
人間としての生理現象は
いたって普通だ。
それなのに
肉体だけが
老化していない。
一年以上
時間が経っている。
それなのに
肌や筋肉。
内臓や血管。
身体の基礎的な状態が
ほとんど変わっていない。
髪や爪は伸びる。
傷も治る。
新陳代謝もある。
なのに
経年による劣化だけが
起こっていない。
「……なんだこれ」
老化とは
単純に時間が経つことではない。
細胞や組織が傷つき。
修復され
その積み重ねによって
身体が少しずつ変化していく。
そのはずだ。
だが
自分の身体では
その「積み重ね」だけが
存在しない。
まるで
転移した瞬間の身体を
基準にしたまま。
時間だけが
身体の外側を通り過ぎている。
もちろん。
不死ではない。
怪我はする。
病気にもなる。
身体に異常が起きれば
普通に苦しむ。
致命傷を負えば
死ぬ。
つまり
生命活動そのものが
止まっているわけではない。
「老化だけがない」
そんな状態だった。
洋蔵は
しばらく考える。
元の世界で
一度
死んだ。
そして
この世界へ転移した。
もしかすると
転移とは
単純に身体を
別の場所へ移動させる現象ではない。
死んだ人間を
この世界で成立する状態へ
再構成する現象なのかもしれない。
もしそうなら
自分の身体は
転移した瞬間に
一度
「完成した状態」として
固定された。
その後の生命活動は
普通に続いている。
だから
髪は伸びる。
爪も伸びる。
腹も減る。
傷も治る。
だが
身体そのものの経年劣化だけは
進まない
「……そういうことか」
完全なる蘇生とは違う。
死者を
死ぬ前の状態へ戻す魔法。
それには
因果律への干渉が必要になる。
だが
自分は
死んだ後に
別の世界で
別の法則の中へ
再構成された。
その結果
老化という
この世界の生命に存在する現象を
うまく引き継げなかった。
そう考えれば
説明はつく。
「そりゃあ……」
洋蔵は
苦笑する。
「研究対象にもなるわな」
異世界から来た。
一度死んでいる。
そのうえ
老化していない。
しかも
普通に生きている。
研究者からすれば
これ以上ないほど
興味深い存在だ。
不老不死の研究にも
蘇生の研究にも
因果律の研究にも
つながる。
自分自身が
研究材料そのものだった。
「……逃げなかったら」
洋蔵は
少しだけ考える。
「そのうち解剖でもされてたかもな」
冗談のように呟く。
だが完全な冗談とも
言い切れない。
だから
逃げた。
研究を放棄したわけではない。
魔法を捨てたわけでもない。
ただ
自分自身が
研究対象になることだけは
御免だった。
ロープレとかねゲームで
見れる自分のステータスって
よく考えたらおかしいよね




