レイヤー23 古代魔法の存在
昔の言葉って難しいよね
封印は維持されていた。
禁呪は閉じられ、管理され、
逸脱は抑えられている。
だが、その外側があった。
「分類できません」
研究員が資料を差し出す。
既存の体系に当てはまらない。
評価も、実績も、生成も、
どの経路にも乗らない記録。
洋蔵は目を通す。
「発動していますね」
「はい」
「条件が不明です」
一拍。
「再現できません」
静かな報告。
紙に書かれているのは結果だけ。
極端な効果。
異常な持続。
負荷の記録なし。
「……観測値が足りないな」
「取れませんでした」
研究員は首を振る。
「測定が効かない」
洋蔵は資料を机に置く。
「構造は」
「解析不能です」
即答。
「読み取れないのか」
「読めます」
一拍。
「意味が分かりません」
沈黙。
既存の術式は、すべて分解できる。
構造に落とし込み、再構成できる。
だが、これは違う。
「既存系ではないな」
「はい」
洋蔵は頷く。
「系統外です」
紙に新しく線を引く。
既存の円の外側。
禁呪のさらに外。
そこに書く。
古代魔法。
研究員が小さく息を吐く。
「禁呪とも違うのか」
「違います」
即答。
「禁呪は延長です」
「これは断絶です」
静かな区別。
洋蔵は別の資料を開く。
断片的な記録。
石板。
壁面刻印。
風化した媒体。
「媒体も違うな」
「はい」
「劣化しても発動しています」
研究員が目を細める。
「通常はありえない」
「はい」
「媒介が機能していません」
一拍。
「にもかかわらず成立しています」
洋蔵は図を描く。
術式。
媒介。
媒体。
その三層が崩れている。
だが、結果は出ている。
「別の原理だな」
「可能性が高いです」
静かな肯定。
研究員は腕を組む。
「扱えるのか」
「扱えません」
即答。
「再現できません」
「封印は」
「できません」
短い答え。
「分解できないためです」
沈黙。
洋蔵は紙の端に新しい枠を描く。
閉じない形。
「分類のみ行います」
「触らないのか」
「基本は」
一拍。
「観測に限定します」
研究員は頷く。
「関わると危ないな」
「はい」
「影響範囲が不明です」
別の資料。
古代魔法が発動した地点。
周囲への変化。
時間差での影響。
記録に残らない現象。
「……遅れて効いているのか」
「可能性があります」
「因果がずれている?」
「断定できません」
静かな説明。
洋蔵は小さく息を吐く。
「基準にならないな」
「はい」
「比較できません」
だが、完全に無視もできない。
一枚の紙を差し出す。
そこには既存術式の改善履歴。
「影響を受けています」
研究員が顔を上げる。
「どこで」
「発想です」
一拍。
「似た構造を試しています」
「結果は」
「一部成功しています」
完全ではない。
だが、近づいている。
研究員は小さく笑う。
「真似ているのか」
「はい」
否定しない。
「理解はできません」
「ですが、模倣はできます」
静かな言葉。
洋蔵は円を見る。
通常の循環。
禁呪の封印。
その外側に、開いた領域。
古代魔法。
繋がっていない。
だが、影響はある。
「……手を出すなよ」
研究員の声。
「出しません」
即答。
一拍。
「ですが、見ます」
短い言葉。
魔法は体系化された。
だが、すべてではない。
理解できるもの。
制御できるもの。
封じるしかないもの。
そして——
理解できないもの。
後美洋蔵、45歳。
異世界出向中。
仕事は境界に来ていた。
内側を整え、
外側を認識する。
それ以上は踏み込まない。
終わりはない。
古いものは残っている。
失われてはいない。
ただ——
まだ、解釈されていないだけだ。
言葉の意味がわからないと
そこに込められた想いは伝わらない




