宝物は渡さない
この卵からは、ずっと寂しげな声がする。
閉じ込められて、出れなくて、外に助けを求め続ける、そんな声。
森の奥からその声が聞こえた時、私はなんでか、どうしても声の主を助けてあげたくなった。
「きっと君は、私なら助けられると思ったんだね……。だから、私にだけ声が聞こえた」
結晶のような殻は硬く、ちょっとだけ冷たい。
なでた手が冷えるのを感じながら、私は卵の中に居る子に語りかける。
「今、出してあげるね」
本当は、なんとなく分かってたんだ。
中身の出し方。
でも、それをしたらどうなるか分かんない。
もしかしたら、私が消えちゃうかも。
そしたら最初に見つけたお星さまがかな死んじゃう。それは嫌だ。
「だけど、今はそのお星さまのピンチだから。私は……大事な星は、両方助ける」
体の中心から卵の中心へ、手と殻の境目を繋げて道を作る。
それは昔、月を掴もうとして空にかざしたことで生まれた技。
そのときは突然周囲の空気が手に吸収され始めたのにビックリして止めちゃったけど……うん、問題ない。
この方法なら、殻を壊さなくても中身を取り出せる。
私の中に取り込む形で。
バチバチと、体の中で何かが弾けていく。
暑くて、寒くて、ひどく痛いのに辛くない。不思議な感覚。
溶けて、千切れて、体が内側から組み変わっていくよう。
ああ。すごいな。今の私なら――――
「いける気がする」
発光する右手を空へかざし、全身から溢れる力を手先の一点へと集める。
高揚に身を任せて放った光の砲弾が、怪物の巨大な体を縦に引き裂いた。
「あっはは!」
その光がまるで空へと昇る流れ星のようで、攻撃の反動で体のあちこちから血を吹き出してるのに思わず笑っちゃった。
あと、よく見たら体のあちこちから結晶が皮膚を突き破って出てきてる。痛いわけだ。
……よし、じゃあもう一回!
「――――初めて会ったときから、君はまるで月のように輝いてた」
独白と一緒に、もう一度手を夜空へかかげる。
腕も足もボロボロだけど、関係ない。
あと一発。あと一発撃てば、次は魔女さんが繋いでくれる。
だから、私はただ、この指先に全霊を込めればいい!
「渡さないよ、絶対」
射出した二つ目の流れ星は空へと昇り、邪魔な怪物を払いのける。
貫かれ、大きな穴が開いた怪物の体の向こうで、夜空に散った星屑が天の川のように輝いた。
「……頑張ってね」
あお向けに倒れながら、そんなエールを呟く。
空に浮かぶ黒い道を駆けていく、お星さまの友達に向けて。