謎の部屋 謎の少女
「迷った……」
誰もいない廊下で一人、ウェンディは呟く。
そこに至る経緯は、遡ること二十分前――――
「それじゃあ私たちは先に言ってるね」
「うん。また次の授業で」
御前の授業を終え昼食を摂ったウェンディは、午後にある特別授業の前に用を足しておこうとラマたちと別れていた。
「ん? 何、この看板?」
無事に用を足し、集合場所へ向かおうとした際に通路に不思議な看板を見つけて立ち止まる。
看板には人の上に線の入った円が描かれており、意味ありげに分かれ道の片方を塞ぐように立っていた。
「ていうか、こんな道あったっけ? ……こっち通った方が速そうなんだけど……」
看板の意味が分からず進む勇気が持てないウェンディは、必死に頭をひねり考える。
そして、閃いた。
「分かった! 隠し通路だ! こんな看板で罠を隠す落ち葉と同じ効果は出すなんて、すごいな魔術!」
野生的回答を。
魔術もろくに知らないがために、大胆な仮説も”魔術なら出来る”で成り立ってしまった。
「遅刻しそうな子のために誰かが先生に黙って作ったのかな?」
そんなことを言いながら、無警戒のまま看板の置かれた通路へ足を踏み入れる。
――――そして、今。
「もしかしてアレ、通るなって意味だった?」
後の祭りではあるが、看板の意味の正解へとたどり着いていた。
――どこの角を曲がっても見覚えのある通路にたどり着くし、走ったところで振り切れるか、どうか。
――……仕方ない。
顎に手をついて考え込んでいたウェンディは、現状の打破を考え付くと、その手を強く握りしめる。
「ふんっ!」
そして、全力で壁を殴りつけた。
「……へ?」
「ん?」
ぶち破ったコンクリートの先には廊下でも教室でもない空間が広がっており、そこに置かれたソファで団子を食べていた少女が突然の侵入者に驚き固まる。
破片がゴトゴトと床へ落ちる音を互いに清聴すると、少女はうまく回らない口で話し出す。
「え……あ……誰?」
「はじめまして。境界科、新入生のウェンディです。迷子です」
「あ、ああ。そうなんだ。……ん? 新入生?」
新入生という言葉を反すうした少女は、その怪訝な顔を歓喜の表情へと変えていく。
「やった!! ようこそ新入生、境界科へ!」
満面の笑みを浮かべ団子を机へ置いた少女は、ソファから跳躍し飛びかかってきた。
恐怖から回避を試みるも、少女はウェンディの腕を掴み引き寄せる。
「良かった良かった! てっきり一人も来ないんじゃとっ。本当に良かった!」
背丈はウェンディと同じくらいだが、はしゃぐその姿は年下のようだ。
瞳と髪が暗い色なあのも相まって、突然ハイテンションになった相手にウェンディは驚きを隠せない。
――えーと……この人、誰?
「あ、そういえば君、迷子なんだっけ。なら案内してあげる!」
言うが早いか少女はウェンディの手を放し、残していた団子を食べつつ壁の方へと歩いて行く。
そのまま手を壁に触れると、何もなかった場所に扉が出現した。
「さ、行こっか」