歓迎
「それで? お姉さんの行きそうな所は?」
窒息死させられそうになった状態からなんとか抜け出したウェンディ。
自身も自己紹介を済ませ、探し人のの手がかりを隣を歩くラマに尋ねる。
−−−−闇雲に探すよりは、まぁマシだよね。
「行きそうな所。そうだなぁ……」
顎に手を当て、少し思案するラマ。
そして、何かに思い至ったのか目を見開くと、輝かしい笑みを見せた。
「自殺場所!」
「ウソでしょ?」
飛び出してきたのは、とんでもない一言。
流石に冗談かとウェンディは一瞬考えたが、ラマの瞳からそれが嘘はないと理解させられる。
「お、そんなこと言ってたら、ちょうどいい路地裏が! お姉ちゃんが居るかも!」
見つけた路地裏に向けて小走りで向かうラマと、その後を追いかけるウェンディ。
路地裏は人が二人並んで歩いても窮屈に感じない程度には広く、ラマは少し先を歩いた。
「……そう言えばさ。なんでウェンディは魔女の学校に入ろうと思ったの?」
薄暗い空間の中、ラマが唐突に尋ねる。
ウェンディがそれに答えを返せずに口を開けては閉じを繰り返しているのを見て、楽しそうに、少し申し訳なさそうに笑った。
「言い辛い? だよね。堂々と言えちゃうような人なら、わざわざ『境界科』に入んないもんね」
それはどういう意味か。
その言葉を出すよりも速く、続く言葉が発される。
「こことは違う世界、鏡の向こう側の世界を調査することを目的とした特別学部。生きて帰って来れる保証は無く、栄誉も褒賞も全く無い。……その代わり、入学前に多少の"ワガママ"が許される」
そこまで言ったところでラマは振り返り、ウェンディの顔を見た。
今までとは真逆の、悲しそうな顔で。
「暗殺者に狙われてる同級生って、やっぱり嫌……かな?」
耳を疑う言葉は本日二度目だが、今度は訝しむことはなかった。
なぜなら、その証明が直後に行われたのだから。
「!」
ウェンディとラマの間に突然現れる、黒いマントに身を包んだ者。
体格からして男のように見えるが、マスクとゴーグルをしているため確信は持てない。
そんな怪しすぎる何者かは、懐からナイフを取り出してラマに急接近した。
流れるような走りと、慣れた刃物の扱い。
それを見たウェンディの脳裏に、先程聞いた『暗殺者』という単語が浮かび上がる。
「……!」
ラマはギリギリその刃を回避すると、後ろに飛んで距離を取った。
「あっ!」
目を見開き発される声。
その視線は、暗殺者ではなく、ウェンディでもなく、さらにその後ろ。
視線を辿って振り返ったウェンディの腹部に、何かが刺さる感触が走った。
「ッ!」
「ウェンディ!」
突き刺さったナイフに伝う、体外に溢れた赤い血。
ウェンディの背後から現れたもう一人の暗殺者はそのナイフを抜いて−−−−
「?」
否。抜けない。
抜こうとするその手を、ウェンディの右手がしっかりと掴む。
そして、もう一方の手で、暗殺者の方を掴んで引き寄せた。
「え?」
マスクの下から呆けた声が漏れたのは、突然目の前に迫った頭部に理解が追いつかなかったからか。
あるいは、まさか刺した相手から反撃されるとは思っていなかったからか。
どちらにせよ、回避も防御も出来ず、暗殺者はウェンディの放った頭突きをもろに喰らうこととなった。
「……!」
言葉もなく、暗殺者は膝から倒れる。
その光景に呆気に取られるアズともう一人の暗殺者の方を振り返って、ウェンディは口を開いた。
「いいよ、別に」
それは、少し前の質問の答え。
追われる身の同級生が居たっていいという回答。
「私も、もう会えない……死んじゃった友達に会うために、ここに来たんだ」
一歩前へと踏み出す。
それに反応して、暗殺者は一歩、恐れるように後ずさる。
「師匠が言ったんだ。鏡の向こうの世界へ四回行けば、願いは叶えられるって。……それを手伝ってくれる仲間なら、追われてようが何だろうが大歓迎です!」
はっきりと、大きな笑顔で告げた言葉に、ラマは困惑した表情を見せる。
だが、直ぐに同じく嬉しそうな笑顔を浮かべると、前方へと駆け出した。
「!?」
ウェンディもまた走り出し、前と後ろから挟まれる形となった暗殺者。
咄嗟に防御の姿勢を取るが、訪れる結末は変わらなかった。
二人の拳が防御を抜け、暗殺者の背中と顎を捕える。
そして、片割れとおなじく、力なく地面へと倒れ込んだ。
「良いの? 知らないよ、どんな迷惑がかかっても」
「魔術の練習台になるでしょ?」
二人の魔女は互いに笑い、掌を軽く叩き合う。
そのまま、寝ている二人が起きないうちに、その路地裏を後にした。
「そう言えば、お腹、大丈夫なの?」
聞かれてウェンディはお腹をさするが、既に血は止まり痛みはない。
「すご。回復速くない?」
「まぁ、治せるからね」
「へぇー、トカゲみたいな感じ?」
「植物の方が近−−−−」
「あ! 居た!」
ウェンディの言葉を遮ったのは、道の向こうから現れたラマによく似た少女。
ラマより少し身長が高く、髪は濃い青色だ。
−−−−もしかして。
「お姉ちゃん!」
−−−−やっぱり。
「勝手に居なくなるんじゃありません」
「ぐえ……ッ。すみません……!」
姉に飛びついたラマは顔面を鷲掴みにされ、痛みに悶えながら謝罪する。
その言葉を聞いて姉であるノアは手を離し、ウェンディへと視線を移した。
「……もしかして、同級生?」
「は、はい!」
「−−−−そっか。ありがとね、ラマと一緒に居てくれて」
ノアは小さく微笑むと、頭のてっぺんが見えるほど深々とお辞儀する。
−−−−礼儀が……ある!? ラマの姉なのに!?
「ねぇ、今失礼なこと考えてなかった?」
お仕置きから解放されたラマが疑う視線を向けるが、直ぐにウェンディは「気のせい」であると否定し視線を逸らす。
「何かお礼でも−−−−」
そんな二人の様子を見て、笑いながら顔を上げるノア。
何かお礼をさせてもらえないか。
そう提案しようとして、突然聞こえてきた奇怪な音に止められた。
「…………いや、その」
それは、ウェンディの腹の音。
真っ赤になってお腹を押さえるウェンディを、ノアは、今度はおかしそうに笑った。
「……ご飯、行く?」
「………………お願いします」
「……それで、ご飯食べて、三人で楽しく観光してたら、いつの間にか夜になってたと。初日から門限破りとは度胸あるねぇ」
夜。
たどり着いた学校の寮の扉の前で、ウェンディたち三人は正座していた。
そして、その前には目の笑っていない笑みを浮かべる女性が一人。
「誰この人?」
「教師って役職の人じゃない? ……あれ? 寮長だっけ?」
「担任かつ寮の管理人。アザリエ先生だよ」
叱られてる立場でありながら堂々とヒソヒソ話をする三人に、アザリエは呆れたようにため息を吐く。
「あー、なんでここに来るヤツはこう、我が強いのか。あー、もういいよ。初回だし。さっさと入りな」
立ち上がるようジェスチャーをし、歩き出す先は寮の扉。
それを両手で押し開け、アザリエは丁寧な所作で三人を迎え入れる。
「ようこそ。魔女の学校へ」




