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異界の魔女  作者: リーグス
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ここから

「いたた……ん? え、腕!?」

「あー、そっちに落ちてたか」


 驚きの声を上げた主に向けて、少女は申し訳なさそうな顔を向ける。

 その右腕は欠けており、断面から血があふれ出ている。


「あ、あああごめん! 私が巻き込んだばっかりに――――」

「え? ああ、大丈夫大丈夫。治せるから」

「え?」


 どういう意味かと尋ねられるよりも早く、少女は右腕へと力を籠める。

 その瞬間、出血はピタリと止まり、ゆっくりと欠けた部分が再生していった。

 わずか数秒。その数秒で腕は完全に元通りになり、何も起きなかったかのように傷一つない。

 

「うわぁ……ヤモリ?」

「トカゲじゃない? あるいは木の枝」


 ――ていうか、そんな場合じゃないし。

 少女は右腕に送られてくる視線を無視し、空を見上げる。

 二人は別の建物に飛び移る直前で攻撃され、地面へと落下した。

 おかげで即座の追撃を避けられた訳だが、追撃事態が無くなった訳ではない。


「……来た!」

「え? うおっ!」


 叫びから一瞬遅れて白い刃が地面へと突き刺さり、二人はギリギリでそれを回避する。


「あっぶな! ホントしつこいな、アイツ!」

「やり返さないの?」

「お姉ちゃんに人間は食べちゃだめだって言われてるから……」

「……? 食べなきゃいいんじゃ?」

「ころしたらちゃんと食べたい」

「あー。なるほど」


 ――つまり、うっかり殺すのが嫌だと。なら……。

 続く形で落ちて来た残り二つの白い刃を交わしつつ、少女は同じ制服を来たもう一人の少女へと語り掛ける。


「えーと……名前なんだっけ!?」

「え? ラマです、よろしく!」

「よろしくラマ! じゃあ協力するよ!」

「はい! ……はい?」





「……死んだか?」


 足場の一部が崩れ落ちた屋上で、覆面の男が地面を覗き込む。

 その男の元へ地面に突き刺さっていた白が上昇し、再び雲のような状態となって周囲を漂う。

 

「死体は瓦礫の下か? 仕方ない、おりて探————ッ!?」


 その内の一つへ乗ろうと足を踏み出す、その瞬間。

 傷一つ無かった白が、大きな音をたてて爆ぜた。


               ―――—「私がコレを爆弾に変えるから、それに驚いた隙をつく」


 それは、少女がラマと立てた策。

 

               ――――「いいの? これ以上巻き込んじゃって」

               ――――「もちろん。腕一本分、全力で殴る!」

               ――――「ははっ! いいね、ノった!」


 誤って殺してしまわないよう、一発で決めることを絶対とした作戦。

 その結果は――――


「がっ!?」


 爆発を合図に跳躍した二人の拳が、男の仮面を砕いた。






「イエーイ!」

「い……いえーい?」


 騒ぎになった屋上から逃げた二人は、離れた場所で互いに手を叩き合った。

 パァンという音が鳴り響き、道行く人の視線を合わせる。

 

「いやー、よかったよかった! 狙い通りに気絶で済んだね!」

「そ、そうだね。うん……」


 命の危険が伴った状況では問題なく喋れていたものの、冷静になると感じ始めた緊張に、少女の口が堅くなっていく。

 ——え、どうしよう。このまま解散の流れかな? せめて道教えてもらいたいけど……あ、でも一緒に行くつもりだったら断ってるみたいになるのか。でも、もし「またね」って言われたら引き留められる自信が……。

 

「ラマ!」

「あ、お姉ちゃん!」


 モンモンと悩み続ける耳に届いた、第三の声。

 声を追って視線を移した先には二人と同じ制服を来た少女が走り寄って来ており、ラマはその少女へ元気に手を振る。

 ――あれが”お姉ちゃん”。……あんまり似てないな。

 

「ん、そっちの子は?」

「あ、そうだ! 紹介するね、さっき友達になった…………あ、名前聞いてないや」


 「名前なんだっけ?」そう尋ねている顔であることは、緊張しきっている少女でも理解できた。

 だが、少女にはそれよりも優先しなければいけない思考がある。

 ――とも……だち……?

 ”友達”。

 その二言に、少女の脳裏に過去の記憶が駆け抜けだす。

                

      ――――「学校で何をするのか? そうだな……やっぱり、友達作るのが良いんじゃない?」  

      ――――「というか、作るべきでしょ。友達を理解しないで何を話すつもりなのさ」

      ――――「()()の友達なんだから、君は」


 ――……そうだ、日和ってる場合じゃない。

 息を吸い、拳を握りしめ、少女は一歩前へと踏み出す。

 そして、顔を真っ直ぐ正面へと向けると、大きく口を開いて声を出した。


「ウェンディ! たくさん教えてください、私に、色々!」

「お、おお……私はノア。よろしく。……元気な子だね?」

「そうだよー。さっきも一緒に刺客を殴ったんだから」

「は?」

「はい! 全力で殴りました!」

「は??」







「…………で、そのあと遊びまくって門限に遅れたと」


 数時間後、三人は無事学校へとたどり着いた。

 そして、門限を完全に忘れ、寮の前で整列させられ、事情を説明した現在へと至る。


「初日からルール違反とは……いい度胸してるね」

「誰、この女の人。あと、いつまで私たちここに立ってるの?」

「さあ? お姉ちゃんが立ち止まってるから……いつまで? お姉ちゃん」

「んー、君らが拳骨もらうまで?」

「「え?」」


 説教を食らっているとは思えない三人の態度に、女性は大きなため息を吐き、少し笑ってから背を見せた。


「まぁ、初日くらいは不問にしよう。つぎから気を付けたまえ。それじゃあ――――」



「ようこそ、魔女の学校へ」

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