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中心部の散策は翌日に回して邸へ戻ることになった。用意された部屋で一息つく。

開け放たれている窓から外を眺めると、美しい庭に面していた。木々の間をレンガの路が通っていて・・・そこで思い出した。以前早朝に鍛錬をしていた時ソフィアに声をかけられたあの庭か。今は生い茂る葉で上から眺めたのでは全くわからないが、確かバードフィーダーがいくつも下げられていたはずだ。明日確認してみようか。



持参してきた本を読んで過ごしていると晩餐の時間になったようだ。

執事に案内されホールへ向かう。ホールではドゥクティグ卿の他、女性と若い男性が私達を待っていた。

「殿下 ノシュール様 ご紹介させていただきます 妻と息子でございます」

ドゥクティグ夫人は、目尻に寄った皺が人柄を表しているかのような、人好きのする笑みを湛えた、亜麻色の髪を結った小柄な女性だ。

「ようこそおいでくださいました 前回ご訪問頂いた折はご挨拶も叶わずご無礼申し上げました この度お会いできましたこと誠に光栄でございます」


そして、いかにもこの夫妻の子と言った温厚を絵に描いたような青年。母親と同じ亜麻色の髪を後ろで短く束ねていて、父親譲りの知的なヘーゼルの瞳をした男が半歩進み出た。

「お初にお目にかかりますエドヴァルト=ドゥクティグと申します つい先日専科を卒業してこの町に戻ってきました」

『卒業おめでとうエドヴァルト 会えて嬉しいよ』

「どうぞエディとお呼びくださいませ」

『わかった エディあなたはこの町でお父上の補佐役を?』

「はい 王都で官職に就くことも考えましたが この町の変化を父と共に見守りたいと思い戻って参りました」

『そうか ここは王都から見ても そして私個人としてもとても大切な町だ 今後もよろしく頼むよ』

「はい お任せくださいませ」


そこで料理が運ばれてきた。

「まずはお食事に致しましょう」

最初に置かれた皿の上には海老とアボカドのカルパッチョ、それと白いムースのようなものが乗っていた。

「んー玉ねぎ!?旨いなぁー」

すっかりベンヤミンもこの邸の料理の虜になったようだ。

そのムースをひと匙掬って口に運ぶ。入れた途端すっと溶けるように広がっていく香りは確かに玉ねぎだ。クリームのようで濃厚、なのに後味がすっきりとしていてクセになる味だ。旨い!

「お口に合いましたか 料理長の自信作ですので喜ぶでしょう 後で伝えておきます」


次に出されるものはスープだと思っていたが、予想に反して器の中には白くて丸いものが一つだけ入っていた。

『これは・・・?』

「なんだろう?フライでもなさそうだし」

ベンヤミンも不思議そうにしている。


私たちの反応にチューリンを持った執事が満足そうな笑顔で説明をする。

「今スープをお注ぎ致します」

琥珀色のスープが丸いボウルの真上に注がれる。一杯、続いてもう一杯・・・。するとボウルが静かに割れ、中から茸、野菜、肉・・・様々な具材が現れた。


『凄い・・・』

驚いたときに口から出る言葉はそう多くはない。ベンヤミンもぽかんとした顔をしている。

全てのスープ皿が満たされたところで卿が口を開く。


「こちらはお二人のために料理長が工夫を重ねたスープです どうぞ味もお楽しみください」

旨みと香りの強い茸に味が濃くて甘い野菜、燻製された肉、そしてそれらを包んでいたのはジャガイモのようだ。あんなに薄く包めるものなのか・・・一口食べるごとに驚きが広がるスープだ。

「こんな凄いスープ初めて食べたよ」

『私もだ』


すっかりスープに夢中になってしまったが、その後にも工夫を凝らした素晴らしい料理が続いた。

『大変素晴らしいもてなしをありがとう 料理長にも伝えてほしい』

「俺の分も伝えてください とても美味しかった」

「ありがとうございます 料理長もさぞ喜ぶことでしょう」


外していた執事が戻ってきた。

「食後のお茶のご用意が整いました 中庭にお席を設けております」


中庭へはホールからそのまま出られるようだ。全員で庭へ移動する。

霜がつくほどよく冷やされた器にソルベが盛られていた。手早く全員の前に配られる。

「桃とジンジャーのソルベをご用意いたしました」

「殿下 ノシュール様 こちらが邸の料理長でございます」


『「!」』

『素晴らしい料理をありがとう どれもが絶品だったよ』

「見たこともない料理ばかりだったよ ありがとう」

料理長はニッコリと笑いとても嬉しそうに答えた。

「何よりのお言葉をありがとうございます 料理人冥利に尽きます」


『せっかくのソルベを溶けないうちにいただかないとな』

「はい 是非お召し上がりくださいませ」

言い終えると料理長はワゴンを押して邸の中へ戻って行った。



『ドゥクティグ卿 昼間の話に戻るが 卿に紹介してもらえるのはエディと言うことで合っているね』

「はい 夕方息子にも話しました 正式な募集が始まりましたら応募したいと申しております」

「是非殿下のお供をさせていただきたく それまで私もこの地で勉強を続けて参りたいと思います」

『ありがとうエディ だが私は供ではなく共に視察してくれる仲間を必要としている それをエディに頼んでも構わないか?』

「ありがとうございます!微力ではございますが精一杯励みます」

『こちらこそよろしく頼むよ 頼りにしている』


「殿下ありがとうございます よろしくお願いいたします」

ドゥクティグ卿夫妻も深く頭を下げた。

『頼もしい仲間が三人になったな ベンヤミン』

「三人?」

『エディとベンヤミン そしてロニーだ』

「殿下の従者の方でございますね」

『ああ ロニーは私の従者だがとても優秀な人物だ』

「俺も頑張らないと・・・優秀だってレオに一度は言われたいよ」

『言ったことなかったか?』

「ない」


・・・弱ったな、今言っても信じないよな。

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