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もっとゆっくり過ごすつもりだったのだが、なんとも気まずい。

このまま花束を持って歩いていたら永遠に晒され続けるだろう・・・祭りどころではなくなってしまった。パレードも途中までしか見られなかったな。


『どうしようか・・・もう少し一緒に過ごしたかったけれど今日は帰ろうか』

「はい・・・そうですね」

頷きながら両手で持った花束を上げたり下ろしたりしている。この花束こそが騒ぎの張本人だが、なぜだか処分しようとは言えなかった。スイーリも同じ気持ちなのだろう、両手から離そうとしない。



人波に逆らい今朝通った道を戻る。しばらく進むと朝降りた町の外れで馬車が待っていた。

御者台には残っていた護衛が一人、のんびりと昼寝をしている。

『護衛を撒いてきてしまったようだな』

「ふふ・・・ぐっすり眠っているみたいですね」


『うーん・・・起こす』

御者台へ手をかけようとしたその時、後ろから猛然と走ってくる足音が聞こえた。


「で・・・殿下 申し訳ありません」

側まで来るとゼイゼイと荒い息を漏らしながら御者台の男を叩き起こした。

「おい!起きろ!」

「ぁあ~?もう交代のじか・・・?!殿下!!」

馬車で待機していた二人は交代で休憩に出ていたようだ。・・・休憩でもないか、残っていた方も寝ていたからな。


『今は誰もいないからいいけど この姿の時はそう呼ぶな』

「あひっ すみませんついうっかり・・・」

『うん おはよう 早く戻ってしまいすまなかったね』


「すぐ馬車の準備をいたします」

『ああ頼む それと何人か置いてきてしまったようなのだが 探しに戻ろうか?』

「とんでもございません!すぐ呼びます!」

と言って笛を取り出し何度か吹いた。これは第二騎士団専用の合図で、長短や回数で内容が決められているらしい。


『撒いたつもりはなかったのだが パレードの人ごみで見失ったようだね 上には報告しないでやってくれ』

と言って思い出した。もう一人口止めをする必要がある。

『スイーリ このことは副団長には秘密にしてやってくれないか?』

「ふふ もちろんです 絶対に秘密にします」

「ありがとうございます 殿下 スイーリ様」

昼寝をしていた護衛からも思い切り頭を下げられた。


馬車の準備が整い、二人で乗り込む。二人きりになるとまた羞恥に襲われた。



『手紙 書くよ  次の月曜渡しに来る』

やけにたどたどしい口調でそれだけを伝えるのが精一杯だった。



城へ戻るとそのままムイストを連れて森へ向かった。

泉のほとりでムイストを繋ぎ、森の中を一人で走る。とにかくくたくたに疲れて眠ってしまいたかった。のだが、こんな時は持て余すほどの体力が恨めしい。疲れることを諦めて東屋で腰を下ろし、ぼうっと泉を眺めた。


『あれは不可抗力だ スイーリも私も知らなかったんだ』

そうだ!説明もなしに選ばされたのだ。説明をしないで選ばせる方がどうかしている。もしこれが実の兄妹だったりしたらどうなのだ。兄が妹に花を買ってやることだってあるだろう。


スイーリも今日のことはすっぱりと忘れて・・・はくれないだろうな。


スイーリはとても記憶力がいいのだと思う。彼女がこの世界に来てもう十五年だ。記憶が蘇ってから数えても十二年・・・なのにゲームの中のレオ(あいつ)のことを昨日見てきたかのように鮮明に語ってくれるのだ。今日のことを忘れろと言う方が無理な話だと言うことは私にもわかる。


はぁ・・・。



悔やんでも始まらないか。いつか・・・いや三年後だ。スイーリが成人したらするつもりでいた求婚。他人の口から先に言われてしまったような気分だが、そういや付き合い始めたきっかけも陛下だったことを思い出した。私たちは重要なことはつくづく横やりが入る運命なのかもしれない。

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