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『城下で会うのも久しぶりかな』

「そうですね 前回このカフェに来た時はまだ長袖を着ていましたから」

夏休み初日の今日、私はスイーリと二人、彼女のお気に入りのカフェに来ている。初めて来たのは交際を始めたばかりの冬だった。「とても美味しいアップルパイのお店があるので一緒に行きたい」そう手紙に書かれていたことを思い出す。今の季節はチェリーパイと柑橘のパイが人気だそうだ。


先程からスイーリはメニュー表とにらめっこを続けている。私はその表情を見ているのが楽しくて、黙ってそれを見続けていた。


「はっ!ごめんなさい どちらにしようか迷ってしまって・・・」

『いいよ じっくり選んで どれで迷っている?』

「ええ チェリーパイと柑橘のパイ、それとルバーブも気になります」

『わかった シェアしようか』

「はい!」


「ご注文はお決まりですか?」

『チェリーパイと柑橘のパイ それとルバーブのパイは持ち帰りたい 夕方取りに寄るよ』

「かしこまりました 焼きたてをご用意してお待ちしております お召し上がりのパイはシェアいたしますか?」

『うん お願いするよ』

「お飲み物はいかがいたしましょうか」

『スイーリ何がいい?』

「私はアイスのアップルティーを」

『私は珈琲を頼む』

「かしこまりました 少々お待ちくださいませ」


『ルバーブは持って帰るといい 今日はアレクシーもいるだろう?』

「ありがとうございます 兄様もルバーブがお好きなので喜びます」

いつ頃からかこの店では注文をシェアするか聞かれるようになった。予め半分にカットして盛り付けてくれるのだ。些細なことだが今までどの店でも提供していないサービスだったため、とても新鮮に映った。サクサクのパイはカットするのが難しいので殊更気の利いたサービスだと感じる。


二種類のパイとバニラのアイスクリーム、そして小さなパイが添えられた皿が置かれた。

「こちらはルバーブのパイです よろしければご試食くださいませ」

「わぁ!ありがとうございます」

『ありがとう』


「美味しいー」

お目当てのパイが全て並んだ皿に、スイーリもご満悦のようだ。


『そうだ 寮に泊まるのは月曜日からに決まったよ』

「わかりました お手紙は・・・お送りするのが難しいですよね」

『そうだな 寮からは私も送ることが難しいと思う 後でまとめて送ることになるが書いてもいい?』

「書いていただけるのですか?嬉しいー!私も毎日書きますね」

『それを励みに頑張るよ 次の月曜の夜には戻る・・・いや帰りに届けに寄るよ』

「ありがとうございます その時お渡ししても良いですか?」

『スイーリが直接受け取ってくれるのか それは嬉しいな』

「私もお会いできるのが嬉しいです」


『入学の準備は済んだ?』

「はい 制服ももうじき届きます」

『そうか ようやく九月からは同じ学園生になれるんだな』

放課後の制服デート、念願だったそれがもうじき叶うのかと思うと頬が緩む。

「制服姿のレオ様と寄り道ができるようになるなんて 考えただけで今から楽しみでたまりません」

考えていたことと全く同じことを口にされ、驚くと同時に愛おしさが込み上げてくる。

『驚いた 心の中を見透かされたかと思ったよ』

「はい 見透かしてしまいました」

そう言ってスイーリも笑った。


スイーリの笑顔が嬉しい。一年前の誕生日以降暗い表情を見ることはなくなった。私のことを信じると言ってくれたスイーリ。絶対に不安など抱かせたくはない。彼女にはいつも笑っていてほしかった。


「フェデリーコ様はもう出発されたのですか?」

『明日発つようだよ 茶会に参加できないと残念がっていた』

夏休みを利用してフレッドは一度パルードへ戻るのだ。

『戻ってきたらまた声をかけよう』

「そうですね」


『デニスたちは月曜日に発つらしい 一泊だが初めての船旅だと喜んでいたよ』

「ノシュール領がとても近くなりましたね いつか私も夏のノシュールへ行ってみたいです」

『そうだね 展望室から見る夏の海は一度見てみたいな

 でもその前にダールイベック領にも行きたいと思っている』

「是非いらしてください とは言っても私もあまり詳しくはないのですが・・・ご一緒させていただきたいです」

『うん もちろんスイーリと共に行きたいと思っている それも含めて話しておきたいことがあるんだ 土曜日の茶会で話そうと思っているのだが スイーリには先に話しておこうかと思って』

「はい 是非お聞かせください」


学園を卒業した翌年の春から国を周る旅に出ること、更に次の春からメルトルッカへ留学する予定であることを説明した。


『スイーリと長い間離れなくてはならない 何か不安があれば言ってほしい 必ず全て解決してから出発すると約束するよ』

スイーリは一瞬の躊躇いも見せず笑顔で答えた。

「平気です 何も心配はありません レオ様は卒業後留学なさると思っていましたから 離れ離れになる覚悟はもうできています」

『そうか・・・』

強くなったんだな、そして信頼してもらえていることが何よりも嬉しかった。


「あの・・・私」

『どうした?』

「レオ様はパルードへ留学なさるのかなと思っていました」

『そう考えているものは多いだろうね 私も一度は考えたよ』


「その・・・私・・・

 レオ様が留学されている間 私も留学をしたいと思って その為に勉強を始めていました」

『そうなのか!どの国へ行こうと思っているんだ?』

「・・・

 メルトルッカなのです パルードへ追いかけていくのはご迷惑になると思って・・・でもレオ様のいらっしゃらないこの国で過ごすのは寂しくて 別の国へ・・・こんな動機で留学しようなんてダメですね」


今度は私が赤面する番だ。スイーリと留学・・・全く予想もしていなかった展開に頭の回転が追い付かない。

『スイーリが・・・卒業後メルトルッカへ・・・

 私と全く同じ時期になるというわけか・・・向こうでは同級生になるんだね』

それを聞いてスイーリの顔もみるみる真っ赤になった。


『三年離れ離れになると覚悟していたが 一年足らずで済むというわけか

 スイーリ一緒に行こう 留学がとても楽しみになってきたよ』

今この瞬間まで留学は陛下の、父上の願望を叶えるのが主な目的だった。だが今日からは自分のための留学だ、現金だと言われようが仕方ない。


「私メルトルッカ語頑張ります 必ず留学出来るようにしっかり学びますね」

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