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入学式の終了後、即授業が始まった。
一日たりとも無駄にはさせぬという気迫に早くも気圧された感じだ。
国史、続いて算術。二教科を終えて昼休憩の時間になった。
「レオ あの挨拶はなんだ」
休憩を待っていたかのようにベンヤミンが詰め寄る。
『短くてよかっただろう? 式典の挨拶など短いに越したことはない』
「そんなわけあるか?あれは確実に学園の歴史に残る珍事だぞ 間違いなく語り継がれるぞ」
「登壇されたと思いましたら もう降りていらっしゃいましたものね」
「ほら!ヘルミだっておかしいと言ってるじゃないか」
「私はおかしいとは申しておりませんわ 皆様がレオ様のお姿を拝見するお時間が余りにも短くて 気の毒でしたと言いたいだけです」
「ヘルミはレオに甘すぎるぞ
―三年後 一つの憂いも残すことなく卒業できるよう互いに励もう―
だけだぜ?余裕で暗記できたわ スイーリに伝えてやらないといけないからな」
『ほら 短くて良かったではないか』
「・・・」
「まぁーまずは食事に行こう 午後も授業がぎっしりだからな」
「あの―」
一人の男子生徒が話しかけてきた。
「私たちもご一緒してよろしいでしょうか?」
見ればクラスの十七人全員が揃って立っている。
『皆待っていてくれたのか すまなかったね』
「同じクラスになった仲間だ 一緒に行こうぜ」
「よろしくお願いいたします 皆様」
こうしてAクラスの生徒全員で昼食を取ることになった。
が、流石に二十人全員で使えるほど大きなテーブルはない。尤も同時に着けたとしても端と端では交流もままならないだろう。
『とりあえずここでは二つに分かれようか ベンヤミン私は向こうへ行く』
「じゃあ俺は手前の席にするか ヘルミはレオの方に行ってやれ」
「承知いたしました」
そうして全員が席に着いた。ほどなくして食事が運ばれてくる。
ここは正真正銘学生のための食堂だが、給仕のものが多く雇われている。これは雇用の場を増やすため王妃殿下直々の施策だそうだ。
『短い時間だが食事を取りながら簡単に自己紹介をしていこうか
私はレオ=ステファンマルク 敬称は不要だよ レオと呼んでくれ』
言い終えて右隣に座っているものと視線を合わせる。
「はい!トルスティ=コルテラです 殿下と同じAクラスに入ることができ光栄に思っています よろしくお願いいたします」
『トルスティ 今言ったばかりだが敬称は必要ない 私もここでは一生徒だ 気軽に接して構わないよ』
「はいぃ!」
ま、いきなりは難しいか。
トルスティの隣へ視線を送る。
「僕はマルクス=サラマントと申します 外国語選択はホベック語にしました 同じ選択の方がいたらいいな」
『マルクス 私もホベック語だ 早速午後の授業から一緒だね』
その時いくつか小さなため息が聞こえた。
「でん・・・レオ様もホベック語を選択に!」
『ああ 全くの素人だが一緒に頑張ろう』
順番に紹介をしていく。Aクラスは男子生徒が十三人、女子生徒が七人、そのうち今同じテーブルに着いている男子生徒は七人だ。
七番目の男子生徒の番になった。
「ヴィルヘルム=ハパラと申します。あの・・・このような席に着かせていただいて申し訳ありません 私は平民です」
『ヴィルヘルム・・・ビル せっかくの自己紹介に口を挟んですまないが 何について申し訳なかったのだ?私たちは今同じクラスになった者同士親睦を兼ねて昼食を共にしているところだよ
ところで試験の時には見かけなかったね どこか別の学園で受けたのかな』
「はい 私はボレーリンの学園で試験を受けました」
地方校からの推薦か。自信のあるものは皆本校へ試験を受けに来る。地方から本校への推薦は数年に一人出るかどうからしい。王都までの旅費の問題もあってボレーリン校を受けたのかもしれないが、ビルが極めて優秀だということに違いはないだろう。
『そうか ビルは大変優秀なのだね 寮に知り合いは?』
「いえ 王都に知り合いはおりません」
『王都に慣れるまで何かと大変だろう 私も城下にそれほど詳しいわけではないが なんでも相談してくれ クラスメートとしてできることは手伝うよ そしてきっと他の誰に尋ねても同じように手を貸してくれるはずだ』
「ありがとうございます王子殿下」
『ビルそして他のものも しつこいと思うかもしれないが初日だからもう一度だけ言う 私もここではただの生徒に過ぎない せめて学生でいる間は敬称なしの付き合いをしてほしい』
「先程は言い間違えました よろしくお願いいたしますレオ様」
『うん こちらからもよろしく頼むよビル』
『そろそろ時間だね 今日はもう顔を合わせないものもいるだろう また明日の朝教室で会おう』
「はい ではまた明日」
「お疲れさまでした また明日」
皆席を立ち、それぞれの教室へ移動する。
「次の時間は外国語だな レオとヘルミは何を取ったんだ?俺はホベック語だ」
『ベンヤミンもホベック語か 私もだよ』
「私はメルトルッカ語にしました」
「じゃーヘルミとはここでお別れだな また明日の朝会おう」
『マルクス ベンヤミンもホベック語だそうだ 一緒に行こうか』
「ご一緒させていただきます」
「そんな堅苦しい話し方しなくていいぞ 同級生なんだからな」
「それにしてもさ レオがホベック語を選択するとは思わなかった パルード語だと思ったよ」
『ホベック語を以前から学んでみたいと思っていたからな』
「そうだったのか 俺とデニス兄は小さい頃から習ってきたんだ うちの港にはホベックからの船が多いから覚えておいた方がいいだろうって」
『なるほどな 解らないところがあったら教えてくれ』
「任せて!ホベック語ならレオの手助けができると思う」
『ありがとう でも初心者と同じ授業とは少し申し訳なくなるな マルクスも経験者なのか?』
「いえ 僕も初めて学びます」
『そうか同じ初心者がいると心強い』
「ようこそホベック語の授業へ 担当するイヴァン=ビリークです 三年間よろしく」
〈ようこそホベック語の授業へ 担当するイヴァン=ビリークです 三年間よろしく〉
「聞き取れたかな?」
〈〈〈〈《よろしくお願いします》〉〉〉〉
「それにしても今年は少ないな たったの五人か 例年だとこの三倍以上はいるのだが・・・」
確かに少ないとは思った。選択の外国語は四つある。単純に割り返しても一クラス二十五人だ。
「もしかしてパルードに集中したか?
まあいい 人数が少ない分濃い授業ができそうだからな この中にホベック語を既に学んでいるものはいるかな?」
〈一人だけか 君はベンヤミン=ノシュール君だね 君の実力を知りたい 後で課題を出すから次の授業までに提出するように〉
〈わかりました〉
「ではひとまず今日のところは基礎の基礎から始めるとしよう」
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「たった五人のクラスもあるんだな」
『ああ 少し驚いたが語学の授業だから寧ろありがたいよ』
「最後は実技ですね お二人とも剣術ですか?」
「ああ俺たちは剣術だ マルクスもか?」
「はい 僕も剣術にしました」
午後の授業は全て二単位連続なのだ。そして毎日最終が実技となっている。
『ベンヤミン 私は剣術ではないぞ?』
「は?レオが剣術を取ってないだと?嘘だろ?」
『マルクスも剣術と言ったね ではここで今日はお別れだ また明日』
「いやいやちょっと待て レオが剣術を取らないで一体何を選択したというんだ?」
『弓術だ 少し遠いから急がなくてはならない じゃーなベンヤミンまた明日』
「おい嘘だろ・・・」
『ランドルッツ卿がいたら よろしく伝えてくれ』
「・・・冗談じゃないのか」




