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南門をくぐり、王都に入った。ここでそれぞれの馬車に乗り換える。次に会うのは年明けだ。
『皆お疲れ様、ゆっくり旅の疲れを癒してくれ。良いクリスマスを』
「お疲れさまでした。良いクリスマスをお迎えください」
「良いクリスマスを。来年もよろしくお願いいたします」
「皆お疲れ様ー、良いクリスマスを。年が明けたら僕のところで集まろうねー」
挨拶を交わし、しばしの別れだ。
『スイーリ、明後日の朝迎えに行くよ』
「はい、お待ちいたしております」
小声で伝え、自分の馬車へ乗り込んだ。
進みだした馬車の窓から外の景色を眺める。ここはまだ王都の外れ、人影もなく雪海原の中まばらな冬木が寒々しさを強調させていた。
『帰ってきたな』
この景色に懐かしさを覚えたわけではない。だがここが私の帰る場所なのだと迷いなく言えるようになったことが、唯々感慨深かった。
「良い旅でしたね」
ロニーも静かに外を見やりそう呟いた。
『ああー
なあロニー。また旅に、長い旅に出たいと言ったらロニーはどうする?』
「当然お供させていただきます」
間髪入れず返った言葉が私を勇気づける。
『いつになるかはわからないが、その時が来たらついて来てほしい』
「仰せのままに」
王宮の門を通り抜け、ようやく馬車は止まった。
「長旅お疲れ様でございました」
同行していた騎士団の分隊長が扉を開けて敬礼する。
『道中の護衛感謝している。副団長から許可を取ってあるから明日から5日間全員休暇を取ってくれ』
「ありがとうございます!
おい!明日から全員休暇だ!5日間!!」
「うぉー----!!!」
そこら中から唸るような歓声が上がった。
「殿下ー!ありがとうございますー!」
「一生ついて行きます!」
『お礼は私ではなく副団長に言ってくれよ』
騎士が好きなものをまた1つ知った。'サウナ'、'酒'、そして'休暇'だ。
「殿下お帰りなさいませ」
騎士たちの間を縫って侍従が進み出た。
『出迎え感謝する。父上はいまどちらに?お会いできるか?』
「はい、執務室にてお待ちでございます」
父上から私を連れてくるよう命じられてここにいたのか。ちょうどよかった。
『わかった。このまま向かう』
父上の執務室に入ると、長椅子で寛いでおられたご様子の母上が駆け寄ってきた。
『ただいま戻りました。母上もこちらでしたか』
「お帰りレオ」
「レオお帰りなさい。変わりはなくて?」
執務室でお2人揃って私の帰りを待ってくれていたようだ。
『はい、父上と母上もお変わりないようで安心いたしました』
「フレディーから書簡が届いていたよ。立派に務めたようだな」
父上がフレディーと親し気に呼ぶのはアルフレッド=ノシュール、つまりノシュール公爵のことだ。周年祭の報告を上げて来たのだと思われるが、流石に仕事が早い。てっきり年が明けて政務に復帰してからになるものだと思っていた。
『ありがとうございます』
母上は、ニッコリと笑いながら私を引っ張るように長椅子へと向かわせる。
「アボカドも早速いただいているのよ」
『そうでしたか。母上のお口には合いましたか?』
王都へはまだ青くて堅い実を送ったんだ。なんだかあれから随分と日にちが過ぎたように感じるけれど、10日ほどしか経っていないんだった。堅かった実も王都に届くころには食べごろになっていたようでよかった。
「ええとっても。随分と久しぶりに食べたわ。陛下も大層お気に召したご様子よ」
『ご存知でしたか。もっと早くに送ってもらえるとよかったな」
そうか、パルードでは普及していた食べ物なんだな。ノシュールに届いたのは初めてではないと言っていたし、惜しいことをした。
「ああ、あれは良いものだな。レオも向こうで食してきたか?」
『はい、ノシュールでは既に市井でも人気が出始めておりました』
何せ色がいい。特に冬場は葉野菜が手に入りにくくなる。ノシュールは王都以上に苦労しているみたいだった。アボカドの鮮やかな色は見栄えがいいから、レストランを中心に人気が高まりそうだ。
「おお、そうか。王都の民にも早く味わわせてやらねばな」
『その件も含めましたご報告はいつに致しましょうか?』
アボカドの話だけではなく、早く父上にお伝えしたいこともある。私は今すぐでも構わないんだけれど。
「今日は疲れただろう。明日の午前いっぱいを空けてある。そこでじっくり聞こうではないか」
『ご配慮ありがとうございます』
半日も時間をお取りいただいていたとは。それでは今夜一晩じっくり考えをまとめようか。
「まずは着替えていらっしゃい。湯を準備するよう言っておきましたからゆっくり身体をほぐすといいわ。 その後食事にしましょう。今夜は堅いお話しはなしよ」
『ありがとうございます母上。それでは一度失礼いたします』
3週間ぶりに帰ってきた自分の部屋。人が多く出入りしているだろうと思っていたのに、明かりが灯り暖かく整えられてはいたが意外にもひっそりとしていた。
「お荷物は明日運び入れる手筈を取りました」
ロニーには敵わないな。ありがとう、そこまで気を使ってくれて。旅は申し分なく楽しかったけれど、今は静かに余韻に浸りたかったんだ。
『そうか、ではひとまず母上のご厚意に甘えてくる』
「お着替えを準備して参ります」
浴室の扉を開けると慣れ親しんだ香りがした。
何と言ったかな、何度か聞いたはずなのになかなか覚えられないこの香りが好きだ。
湯に身体を沈め、ほっと息をつく。
今、私は明らかにここへ戻ってきたことに安心感を覚えている。王都に、王宮に、そしてこの部屋に。
『自信持っていいのかな。この世界の住人になったことを』




