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「はぁー なんで追いつけないんだよ これでも二ヶ月みっちり騎士科の朝稽古で鍛えられたのにさ」

アレクシーが零す。

「アレクシー以前と全然違うよ すっごく強くなってる レオがおかしいだけだから気にしちゃだめだよ」

「気にする!レオ もう一本だ!」

『わかった』


久しぶりに時間も周囲も気にせず、思う存分鍛錬が出来る。今アレクシーと打ち合っているのは何本目だったか・・・。途中から数えるのもやめた。


キィーンと強い金属音がしてアレクシーの剣は宙を飛んでいく。

「くぅ・・・レオとやっているとヴィル兄相手にしているみたいなんだよ 勝てる気がしない」

「ほらアレクシー 一度休憩しろ」

落ちてきた剣を拾い上げ、柄で肩をトントンと叩きながらデニスが言った。


『少し走ってくる』

剣を置いて走り込む。好きなだけ走ることができるのも久々のことだ。


「底なしかよ・・・

 いつまで経っても俺はダールイベックの三番手のままなんだろうな」

(アレクシー それは弱いとは言わない)走りながら思う。アレクシーの父は将軍で兄は副団長なのだ。この歳でそれを追い越そうとすること自体無理な話だろう。私が言うのも何だが、実際アレクシーは私たちと鍛錬をしていた数か月前とは段違いに成長していた。多分私・・・いや私を通してヴィルホを意識しているのか・・・。少し寂しい気もするが、相手が私でなければ本来の実力を出せるのかもしれない。


「よし休んだ!次ベンヤミン付き合ってくれ!」

「おう!」

「僕は休憩ー デニスも休憩だよね?」

「俺は 俺も少し走ってみる」

「えーっ!僕だけサボっているみたいじゃないかー わかったよー僕も走る」


普段なかなか思うように走ることもできないため、気の済むまで走れるということだけで充分に楽しい。ついつい夢中になっていると、隣に並んだイクセルが話しかけてくる。

「レオ・・さ・・・ふう・・・・・走るのも・・・誰か・・習ってたり・・・する?」

『いや昔―』

違うな、長距離選手だったのはレオじゃない。

『いや指導を受けてはいない 走るのが好きなだけかな』

「もー・・・レオ・・・さあ・・・・何か・弱点とか・・・ない・・わけ?・・・・・ふう」

『ぷっ なんだよそれ』


弱点、ね。

ないどころか弱点だらけだったよ。勉強で困らなかったのは算術くらいだし、食べ物だって最初は米と醤油が恋しくてたまらなかった。

記憶はあってもそれは自分が経験したものではない。[映画で観たから知っている]みたいなものだった。

周りの誰もから甲斐甲斐しく世話を焼かれ、あらゆることにも恵まれた生活、それを自分のものとして受け入れるまで相当時間もかかった。いや未だに慣れたとは言い切れない部分もある。

身分というものにも苦労した。自分が下の立場だったほうがまだ馴染むのも早かったかもしれない。身分制度のない世界から、いきなり頂点へ連れてこられたら戸惑うことは多い。非常に多い。今より幼かったころは父上から何度も諭されたものだ。でも正直に言うと親より歳を重ねた人物から頭を下げられることには、どうしても抵抗がある。これだけは今後も慣れそうにない。

いっそ前世の記憶が全くなければ、もう少し楽に生きられそうなのにな。


勉強に勤しむ理由は父上との約束もあったが、単純にこの世界のことを知る必要があったこと、そして知ることがこの立場を与えられたことに対する対価のように思ったからだった。

幸いにも受験勉強で成功した体験が私にはあった。学ぶことは嫌いではない。


[好きで王子になったわけではない]最初は何度もそう思った。

けれどそれはただの言い訳で逃げだ。恵まれた境遇を享受しておきながら、務めを果たさぬというのは罪に等しい。

生来私は高潔な人間だったわけでも、特別正義感が強かったわけでもない。推測ではあるが、もしかするとこれが本来のレオの気質なのだろう。確かめる術はなく、自分を納得させるためにもそれが事実だと思うことにしている。


記憶の上では私は生まれながらの王子だけれど、実際はそうじゃない。()が王子になったのは九歳の冬、まだたったの四年だ。王子という職業に就いて四年。四年で弱点が見当たらないような風を装えているのならまずまずではないのか。


「だからー・・・早すぎ・・・もう・駄目・・・終・・わり」

とうとう息の上がったイクセルは座り込んでしまった。

悪いけど走るのだけは得意なんだよ。これだけは本物。残りは・・・努力の結果だとでも思ってよ。

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