表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/445

[36]

ソフィアを部屋まで送り、一度着替えに戻った。

部屋ではロニーが既に着替えの準備を済ませて待っていた。

『今朝は冷え込んだな まだ満天の星が瞬いていたよ 空気が切れそうだ』

「昼のうちに出来るだけ距離を稼がないといけませんね」

『そうだな・・・御者に暖かい物も渡してやってくれ』

昼だけの移動で済めばよいのだが、陽が射す時間が日に六時間程度しかない今の季節は、暗くなったからと言ってすぐに休むわけにも行かない。次の予定地まで進んではおきたいが、それには御者や護衛の騎士たちの体力に拠るところが大きい。


邸の執事が朝食の準備が整ったことを知らせに来た。

階下へ向かう。昨日晩餐のあったホールのようだ。

「おはようレオ」

『おはようイクセル』

「おはようございます レオ様」

『おはようヘルミ』

皆元気そうだ。馬車での移動は見た目ほど優雅でも快適でもない。王都の中を移動する程度ならさほど気にならないが、長時間ともなると相当に疲労もたまる。


席に着くと、オープンサンドとフルーツサラダが運ばれてきた。

香ばしく焼かれた海老が乗っているものは珍しい。もう一枚のほうはきのこのマリネに硬質のチーズが合わせてあって、こちらもとても美味しそうだ。

フルーツサラダは赤や白の柑橘に、昨夜も堪能した桃、そしてベリーも入った見た目も美しいもので、上からたっぷりとヨーグルトソースがかけられている。


まず最初にグラスに注がれているジュースを手に取った。濃いオレンジ色が見ただけで元気が湧いてくるような気持ちになる。

『美味しい これは人参・・・?』

私の独り言のような呟きをしっかりと拾った執事が答える。

「さすが殿下 おわかりになりましたか 人参のジュースでございます」

なんだか少し嬉しそうだ。

「これ人参でしたの?とても甘くて てっきりフルーツだと思いましたわ」

驚きの声を上げたのはアンナだ。

「どれどれー?

・・・ほんとだ!すっごく甘いね 美味しい!人参とは思えないや」

イクセルも気に入ったらしい。

「蜂蜜が入っているのかしら?とても甘くて美味しいですわ」

皆続々と人参ジュースを絶賛し出す。


「こちらは一冬雪の下で越冬させた人参を絞ったジュースなのです」

執事が説明を続ける。

「越冬した人参は大変甘くなっており このようにジュースにしても非常に美味しいのですが・・・」


『何か問題があるのか?』

「いえ品質には全く問題ございません ただ人参のジュースと聞くと敬遠される方も多く・・・」

なるほど。我々のように先入観なしで飲めば驚くほどに甘く、旨いジュースだが、これが青臭い人参のジュースだと事前に聞いていたら手を出さないものがいても不思議ではない。


「代官様はこれを特産品として王都にも広まればとお考えなのですが なかなかこの地でも苦労しているのが現状です」


『これは 今年の春収穫した人参で作ったものなのか?』

「左様でございます」

『わかった 次の収穫のときまでに私にも協力できることがないか考えておくよ』

「ありがとうございます 殿下がお気に召したと広まればそれだけで充分でございます」

『いや・・・それではダメだ』

昨夜も同じような話になったな。その時にも感じた違和感だ。

『一時のブームにするのはよくない 長く愛される特産品にするには・・・

 すまない 今はまだ思いつかない 私への宿題と言うことにはしてくれないだろうか』

「大変ありがたいお話しでございます 代官様にも早くお伝えしなければ」

『その前にこれを少し持ち帰ることはできるかな』

「是非お持ちくださいませ ただ今ご用意を」

『いや帰りに立ち寄る それまでに用意しておいてほしい 詳しいことはロニーと話を詰めておいてくれ』

「かしこまりました」


食事を済ませて出発の時間になった。

代官が見送りに立っている。

『大変有意義な滞在だった もてなしを感謝する また必ず寄らせてもらうよ』

「身に余るお言葉深謝申し上げます どうか道中お気をつけて」

『ありがとう』

半日足らずの滞在ではあったが、この町に来れてよかった。ここでの出会いがこれからの何かのきっかけになるような、そんな気がする。



冬暁の空にはまだ無数の星が瞬き、今日も晴天になることを告げている。

「今日はさ みんなで同じ馬車に乗らない?」

イクセルの提案で皆と乗り込む。

「楽しい日になりそうですわ」

「明日からのお話しもしましょうよ」


こうしてノシュール領への道、二日目は始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ