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ソフィアを部屋まで送り、一度着替えに戻った。

部屋ではロニーが既に着替えの準備を済ませて待っていた。


『今朝は冷え込んだな。まだ満天の星が瞬いていたよ、空気が切れそうだ』


冬に星が見える日は冷え込むんだ。雲に包まれている方が余程温かい。温かい、は言い過ぎかな。


「昼のうちに出来るだけ距離を稼がないといけませんね」


『そうだな、御者に温かい物を渡してやってくれ』


昼だけの移動で済めばよいのだが、陽が射す時間が日に6時間程度しかない今の季節は、暗くなったからと言ってすぐに休むわけにも行かない。次の予定地まで進んではおきたいが、それには御者や護衛の騎士たちの体力に拠るところが大きい。


邸の執事が朝食の準備が整ったことを知らせに来た。

階下へ向かう。昨日晩餐のあったホールのようだ。


「おはようレオ」


『おはようイクセル』


「おはようございます、レオ様」


『おはようヘルミ』


皆元気そうだ。馬車での移動は見た目ほど優雅でも快適でもない。王都の中を移動する程度ならさほど気にならないが、長時間ともなると相当に疲労もたまる。


席に着くと、オープンサンドとフルーツサラダが運ばれてきた。

香ばしく焼かれた海老が乗っているものは珍しい。もう1枚のほうはきのこのマリネに硬質のチーズが合わせてあって、こちらもとても美味しそうだ。


フルーツサラダは赤や白の柑橘に、昨夜も堪能した桃、そしてベリーも入った見た目も美しいもので、上からたっぷりとヨーグルトソースがかけられている。


まず最初にグラスに注がれているジュースを手に取った。濃いオレンジ色が見ただけで元気が湧いてくるような気持ちになる。


『美味しい、これは人参ー?』


私の独り言のような呟きをしっかりと拾った執事が答える。


「さすが殿下 、おわかりになりましたか。人参のジュースでございます」


なんだか少し嬉しそうだ。


「これ人参でしたの?とても甘くて、てっきりフルーツだと思いましたわ」


驚きの声を上げたのはアンナだ。


「どれどれー?

 ・・・ほんとだ!すっごく甘いね、美味しい!人参とは思えないや」


イクセルも気に入ったらしい。


「蜂蜜が入っているのかしら?とても甘くて美味しいですわ」


皆続々と人参ジュースを絶賛し出す。


「こちらは一冬雪の下で越冬させた人参を絞ったジュースなのです」


執事が説明を続ける。


「越冬した人参は大変甘くなっており 、このようにジュースにしても非常に美味しいのですがー」


『何か問題があるのか?』


途中で言葉を切った執事の様子が気になる。


「いえ品質には全く問題ございません。ただ人参のジュースと聞くと敬遠される方も多く」


なるほど。我々のように先入観なしで飲めば驚くほどに甘く、旨いジュースだが、これが青臭い人参のジュースだと事前に聞いていたら手を出さないものがいても不思議ではない。


「代官様はこれを特産品として王都にも広まればとお考えなのですが 、なかなかこの地でも苦労しているのが現状です」


昨夜代官たちと話をした時のことを思い出した。

米食を広めようにも、なかなか案が浮かばない。ゆっくりじっくり、評判が広がっていくことを期待するのはあまりにも冒険だ。このジュースもそれと同じ。食料品はのんびりと待っていてはくれない。売れなければ痛んでしまうからな。


『これは、今年の春収穫した人参で作ったものなのか?』


「左様でございます」


『わかった。次の収穫のときまでに私にも協力できることがないか考えておくよ』


この町と王都では人口の差が圧倒的だ。

王都で広く販売の機会が持てるなら、安心して製造することもできるだろう。


「ありがとうございます。殿下がお気に召したと広まればそれだけで充分でございます」


『いや、それではダメだ』


昨夜も同じような話になったな。その時にも感じた違和感だ。


『一時のブームにするのはよくない。長く愛される特産品にするにはー

 すまない、今はまだ思いつかない。私への宿題と言うことにはしてくれないだろうか』


何かあるはずだ。考えろ。私にはとっておきの武器があるじゃないか。

前世のことを思い出せ。どうすれば効率よく広められる?


「大変ありがたいお話しでございます。代官様にも早くお伝えしなければ」


『その前にこれを少し持ち帰ることはできるかな』


まずは身近な人らに勧めたい。これは単純に土産として。


「是非お持ちくださいませ、ただ今ご用意を」


『いや帰りに立ち寄る。それまでに用意しておいてほしい。詳しいことはロニーと話を詰めておいてくれ』


「かしこまりました」




食事を済ませて出発の時間になった。

代官が見送りに立っている。


『大変有意義な滞在だった。もてなしを感謝する。また必ず寄らせてもらうよ』


「身に余るお言葉深謝申し上げます。どうか道中お気をつけて」


『ありがとう』


半日足らずの滞在ではあったが、この町に来れてよかった。ここでの出会いがこれからの何かのきっかけになるような、そんな気がする。



冬暁の空にはまだ無数の星が瞬き、今日も晴天になることを告げている。


「今日はさ 、みんなで同じ馬車に乗らない?」


イクセルの提案で皆と乗り込む。


「楽しい日になりそうですわ」


「明日からのお話しもしましょうよ」


こうしてノシュール領への道、2日目は始まった。

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