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早朝5時。
習慣とは恐ろしいもので、場所が変われどこの時間には目が覚める。手早く着替えを済ませそっと扉を開けた。廊下にいた邸の護衛が慌てて近づいてくるが、人差し指を唇に当てて『外の空気を吸ってくる』と伝え階下へ降りていく。
そのまま玄関を出て庭を進んだ。
んーと、なんて言うんだったかな。星もー
そうだ!星も冴ゆる朝だ。今となっては遠い昔のような受験勉強で詰め込んだ国語の知識が浮かんできた。ピリリとした空気に身が引き締まる。
剣を振る。いつも向かいで構えるヴィルホをイメージして。吐く息が白い。暫くそうして鍛錬をしていると名を呼ばれた。
振り返った先に立っていたのはソフィアだ。
『お早う、ソフィア』
「お早うございます。 お邪魔してしまいましたか」
ソフィアは髪こそ緩くひとつに編んだだけだけれど、しっかりとコートを纏っている。ふらりと部屋を出たのではなくて、早朝の空気を吸いに出てきたに違いない。
『構わないよ。ソフィアはいつもこの時間に?』
「いえ、なんだか目が覚めてしまって。散歩でもしようかと出て参りましたの」
慣れない環境で寝付けなかったのかもしれないな。
『そうか、付き合うよ。少し歩こうか』
庭の中はいくつも松明が炊かれていて、丁寧に雪かきもされていた。その路に沿って歩いていると木々にいくつものバードフィーダーが吊るされているのが見える。昼になればたくさんの野鳥が集まるのかもしれない。
『ソフィア 、随分と長い間悪かったね』
私の突然の言葉に驚いて顔を上げる。
「なんのことでしょう?」
『ソフィアは形式上、私の婚約者候補だとされていたんだろう?ソフィアだけではなくあの日茶会に呼ばれた4人皆が』
明言されていたわけではないものの、周囲の目にはそう映っていたことを私も充分理解している。
そう思われるだけ私たちは頻繁に集っていたもんな。実際は仲間内で賑やかにしていただけだけれど。
『解っていたのに今までどうすることもできなくてすまなかった』
私の真意を測りかねているのだろう、ソフィアは無言で聞いている。
『今度は私が2人を応援するよ』
「え?」
常日頃感情をあまり表に出さないソフィアが、珍しく驚いた顔をしている。そんなに驚くことを言ったかな。
『ずっと想っている男性がいるだろう?』
「どうしてーいつからご存知だったのですか?」
よく目で追っているから。
話しかけられた時の笑顔が他の時とは少し違うから。
理由はいくらでもあった。けれどそれを並べても、ソフィアは喜ばないだろう。だから私は2つ目の質問にだけ答えた。
『ソフィアと2度目に会った茶会の日、かな』
「そんな前から!」
大きな瞳をさらに見開いて驚いている。そうだよな、イクセルたちの言葉を借りるならば[わかりやすいスイーリ]に全く気がついていなかった私だ。考えるのも怖ろしいが恐らく私以外の全てのものが何年もの間それを見ていたんだろう、当然ソフィアも。そんな私に見抜かれていたと知れば驚くのも無理はない。
けれどさ、自分のことって案外見えていないんじゃないかな。
「でも嬉しかったのです。レオ様のおかげで王都へ戻るたびあの方にも会うことが出来ましたし 、それに素晴らしい友人が何人もできました」
『ありがとう、そう言ってもらえると少しは罪の意識も薄らぐよ』
ソフィアが王都に滞在する期間、私たちは頻繁に会っているもんな。夏の間は冬ほど会っていないと知ったらソフィアはどう思うんだろう。
「レオ様。罪だなんて、そんな言葉使わないでください」
両手を口に当てて私を見上げているソフィアは、初めて見る表情をしていた。イクセルが見たら蕩けそうって言うやつだ。あいつのことを思い浮かべているんだろう。
『わかった、今ので最後にする。上手く行くよう祈っているよ』
「ありがとうございます」
そう言って微笑むソフィアの頬を紅潮させているのは恥ずかしさだけではないだろう。
『そろそろ戻ろう、風邪をひいては大変だ』
「はい」
来た道を引き返して邸へと並んで歩く。
私の口からは言えないけれど、安心していいよソフィア。あなたの恋はきっと上手く行く。
『話せてよかったよ』
「私からも。あのレオ様、スイーリ様と。よかったですね、お2人のこと私もとても嬉しくて」
『ああ、ありがとう』
今度は私の顔が赤くなる番だ。陽が登る前で助かった。
「お2人の噂を聞いたときは驚きましたわ。何度もお会いしていたのに全く気がつかなくて」
『?!』
ソフィア、今なんと?
「私が領地へ戻っていた今年の夏に何か素敵なことがあったのですね」
『い、いやー?!』
ないです、夏に何も起きませんでした!いやいやいやいやソフィア?
「お話しいただかなくて結構ですのよ。お2人の大切な秘密にしておいてくださいませ」
『あ、うんー』
なんだ?なんだなんだなんだ?




