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早朝五時。
習慣でこの時間には目が覚める。手早く着替えを済ませそっと扉を開ける。廊下にいた邸の護衛が慌てて近づいてくるが、人差し指を唇に当てて『外の空気を吸ってくる』と伝え階下へ降りていく。
そのまま玄関を出て庭を進む。
・・・なんて言うんだったかな。星も―
そうだ!星も冴ゆる朝だ。ピリリとした空気に身が引き締まる。
剣を振る。いつも向かい合わせに構えるヴィルホをイメージして。吐く息が白い。暫くそうして鍛錬をしていると名を呼ばれた。
振り返った先に立っていたのはソフィアだ。
『お早う ソフィア』
「お早うございます お邪魔してしまいましたか」
『構わないよ ソフィアはいつもこの時間に?』
「いえ なんだか目が覚めてしまって・・・散歩でもしようかと出て参りましたの」
『そうか 付き合うよ 少し歩こうか』
庭の中はいくつも松明が炊かれていて、丁寧に雪かきもされていた。その路に沿って歩いていると木々にいくつものバードフィーダーが吊るされているのが見える。昼になればたくさんの野鳥が集まるのかもしれない。
『ソフィア 随分と長い間悪かったね』
私の突然の言葉に驚いて顔を上げる。
「なんのことでしょう?」
『ソフィアは形式上 私の婚約者候補だとされていたのだろう?ソフィアだけではなくあの日茶会に呼ばれた四人皆が』
『解っていたのに今までどうすることもできなくてすまなかった』
私の真意を測りかねているのだろう、ソフィアは無言で聞いている。
『今度は私が二人を応援するよ』
「え?」
『ずっと想っている男性がいるだろう?』
「どうして・・・いつから気がつかれていたのですか?」
『ソフィアと二度目に会った茶会の日 かな』
「そんな前から!」
目を瞠り驚いている。そうだよな・・・イクセルたちの言葉を借りるならば[わかりやすいスイーリ]に全く気がついていなかった私だ。考えるのも怖ろしいが恐らく私以外の全てのものが何年もの間それを見ていたのだろう、当然ソフィアも。そんな私に見抜かれていたと知れば驚くのも無理はない。
「でも嬉しかったのです レオ様のおかげで王都へ戻るたびあの方にも会うことが出来ましたし それに素晴らしい友人が何人もできました」
『ありがとう そう言ってもらえると少しは罪の意識も薄らぐよ』
「罪だなんて!そんな言葉使わないでください」
『わかった 今ので最後にする
上手く行くよう祈っているよ』
「ありがとうございます」
そう言って微笑むソフィアの頬を紅潮させているのは恥ずかしさだけではないだろう。
『そろそろ戻ろう 風邪をひいては大変だ』
「はい」
『話せてよかったよ』
「私からも あのレオ様 スイーリ様と よかったですね お二人のこと私もとても嬉しくて」
『ああ ありがとう』
「お二人の噂を聞いたときは驚きましたわ 何度もお会いしていたのに全く気がつかなくて」
『?!』
「私が領地へ戻っていた今年の夏に何か素敵なことがあったのですね」
『い いや・・・?!』
「お話しいただかなくて結構ですのよ お二人の大切な秘密にしておいてくださいませ」
『あ・・・うん・・・』
なんだ?なんだなんだなんだ?




