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12月も一週目が終わった。これからひと月の間は冬休みだ。例年は父上や母上の手伝いで教会や養護院を廻るのだが、今年はノシュール領で二週間過ごすことになっている。その為デニスとベンヤミンとも相談してノシュール領内の教会を訪問する予定だ。


デニスたちは一足先に明朝領地に向けて発つという。ダールイベック兄妹は学園の休暇が始まる水曜日に、それ以外のものは月曜日に発つことに決まった。ノシュール領までは二泊半と近い。道中の道も整備が整っており旅路に危険はない。


荷の確認を終えたロニーが戻ってきた。

「全て整いました あとは護衛の選任だけなのですが・・・」

『まだ決まっていなかったのか?』

「はい 今決着をつけている最中のようでして・・・」

『まさか・・・』

「そのまさかです」

いいのだろうか・・・護衛の権利を雪合戦で決めるとは・・・

『誰も引き受けたがらないよりはいいのかもしれないが』

笑うのを堪えていたが、全く堪えるつもりのないらしい従者が笑い出したので私も遠慮はやめることにした。

『まあ当日の朝までに決まっていればいいよ』



そして月曜日。

鍛錬の後、父上母上と朝食を摂り挨拶を済ませる。今回の訪問は父上の名代として正式な訪問の形をとることになっている。

『行って参ります 父上母上』

「うむ任せたぞ ノシュールの地をしっかりと見てくるのだぞ」

『はい 勉強して参ります』

「身体に気をつけるのですよ」

『はい 母上もお風邪など召しませぬように』

「ええ ではいってらっしゃいレオ」

『はい!』


馬車に向かうと、そこにはなぜかイクセルが待っていた。

『おはよう?イクセル』

「レオーおはよう!待ってたよー!わわ!今日のレオすっごく王子様だね」

先の理由もあり今日の私は正装なのだ。だが、イクセルは普段の私をなんだと思っているのやら。思わず吹き出す。

『それでイクセルはどうしてここに?」

「一人で馬車に揺られていくなんて退屈だよー レオ一緒に乗っていい?ほら!旅は道づれってね」

『勿論だ 乗ってくれ』

イクセルと共に馬車に乗り込む。


城門の外ではアルヴェーン家、エクレフス家、ボレーリン家の馬車も待機していた。いよいよノシュール領へ向けて出発だ。

まずは王都を抜けて最初の町を目指す。今日は天気もいいから順調に進みそうだ。


鞄から一冊の本を取り出す。道中に読もうと思っていたパルードの本だ。向かいの席でもイクセルが本を開いている。

暫く読み耽っていると、規則正しい音が聞こえてきた。イクセルの寝息だ。落ちそうになっている本をそっと引き抜いて栞を挟む。(まだ暫く走り続けるし そっとしておくか)

ガタンという音で再び視線を上げる。音の正体は今度もイクセルのようだ。

「うわー寝ちゃってた?今どの辺り?」

『まださほど走っていない 南門を出て一時間くらいだろう』

「・・・結構寝てたんだね ごめん」

『いや 先は長いんだ 寝ていて構わないよ』

「ううん もう起きたから平気 ね!レオは何読んでいたの?」

『パルードの便覧 イクセルも見てみる?』

便覧は郷土史や地理などを盛り込んだ書物だ。前世で言うとガイドブックに近いが、それよりも学術的な要素が多く、授業でも用いられるものとなっている。

「パルードかーおもしろそう レオはパルード語も勉強しているの?」

『まあね 身近にいい先生もいるし』

「あ!そうだよね!王妃殿下がお生まれになった国だもんね そうか王妃様に習っているの?」

『いや 母上とは時々パルード語で話しをするだけで 男性の先生に習っている』

母上の話すパルード語は勿論大変に美しいのだが、大変に美しい女性言葉なのだ。その為私には同性の教師がつくほうがよいだろうと、わざわざ国から呼び寄せてくださったのだ。


暫くイクセルと便覧を見ながらパルードの話をしていると、馬車は目的の町へ到着した。

小さいが王都から南へ向かう要所であるこの町はいつも活気に溢れている。ここで人も馬もしばしの休憩だ。

馬車を降りて背を伸ばす。馬を繋いだ騎士たちにも休憩するよう伝えていると、後続の馬車も続々到着し始めた。その時目の前の建物からロニーが出てきた。

「こちらで休憩のご用意が出来ております」

『わかった イクセル先に入っていよう』


ここは二階建てのレストランで、二階は個室になっている。私たちは二階の一番奥へと案内された。外套を渡して窓から外の様子を眺めていると、まもなくしてヘルミたちが入ってきた。

「お待たせいたしました」

『皆お疲れ様 寒くはない?』

「平気です・・・レオ様 今日は正装なのですね! 」

「わぁー!素敵ですわ!」

「なになにー皆もレオが王子様みたいって驚いてるの?」

「イクセル様 みたいではなくてレオ様はれっきとした王子様ですよ」

「そうですよー私たちは驚いているのではなくて 感・動・し・て・いるのです!」

「レオ・・・皆が僕にだけ冷たい」

イクセルに泣きつかれたところへタイミングよくロニーが入ってきた。本当に有能な従者だ。


「皆様 先にお飲み物をご用意いたしました お食事もすぐにお運びいたします」

『ロニー給仕は店のものに任せてお前も休んで 部屋は用意してあるのだろう?』

事前にロニーにはイクセルたちの従者と共に休憩するよう伝えてある。隣の部屋を押さえているはずだ。

「ありがとうございます それではお茶の用意だけさせていただきましたら控えさせていただきます」

「ロニーさんありがとう 私たちの供のものもよろしくお願いしますね」

「かしこまりました アルヴェーン様」


ほどなくして昼食が運ばれてきた。この辺りは王都から近く、出されるものも王都と変わりはない。

チキンのスープと焼きたてのワッフルにサラダが三種類、ニシンとサーモン、チーズにサワークリームとリンゴンベリーのジャムも添えてある。銘銘に好きな物を皿へ取り分けて行く。私も自分で取ろうと思っていたところイクセルが「僕がレオのお皿取り分けてあげるね」とてきぱき張り切りだしたため任せることにした。

「はい どうぞ」

イクセルから渡された皿には人参のサラダにキャベツとディルのサラダ、ニシン、それにワッフルとチーズ、ジャムが乗っていた。

『驚いたな』

「完璧でしょ」

『うん・・・』

自分で選んだとしても全く同じ皿になっただろう。見事としか言いようがない。

「さすがイクセル様・・・」

「まるで・・・」

令嬢たちがざわめきだす。

「いいよー褒めて褒めてー!」


「いいお母様になれますわね」

ズバリ言い切ったのはソフィア・・・だったな・・・

「そこはせめてお父様と言ってよ・・・」

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