表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/445

[31]

午後の授業が全て終わった。教師が退出した途端一斉に問いただされる。


「聞いたよー!もうびっくりしちゃったよ」

「今まで噯にも出さなかったものな」

「いつから好きだったんだ?」

「今日は話してくれるんだろう?」

「何はともわれ レオおめでとう」


『あ ありがとう』

圧倒された。お茶の用意をしているロニーが笑いを堪えているのがわかる。いいんだよ堪えなくて。


「いやーそれにしてもよかったよね スイーリちゃん」

「俺はレオよりスイーリにおめでとうを言ってやりたい」

「だな ようやくレオに振り向いてもらえてさ」

「一途っていいよな」


『ちょっと待って 何?どういう意味?』


「スイーリはずっとレオのことが好きだっただろう」

「うんうん ずーっとね」


『三人とも知ってたの?なんで?スイーリに相談でもされていたのか?』


「何言ってんだよ 見ていたらすぐわかるじゃないか」

「うんわかる スイーリちゃんわかりやすいし」

「まさか気がついてないとは思わなかった」

「あれを気がつかないって方がすごいよな」

「てっきりレオにその気がないのだと思っていた」


・・・・・

ちらりとロニーを見る。ニッコリと笑顔を返された。まさかロニーまで気がついていたのか?

居たたまれない、帰りたい。


「まあ気にするな」

「そうそう 上手く行ったんだからさ」

「スイーリちゃんが心変わりしてなくてよかったね レオ」


『ハイ・・・ヨカッタデス』



『あの さ・・・知らないついでに三人におしえてほしいことがあるんだ』

「なになにー?僕たちにわかること?」

『城下のことを詳しく知りたい』


「「「・・・」」」


「フッ いいよ」

「任せなよ 女の子に人気の店が知りたいんだろう?」

「行った方早いよね 明日はどう?」

持つべきものは友達だ。これは日本だろうがステファンマルクだろうが変わらない。頼もしい友人がいて本当に良かった。

『感謝する』

「じゃー決まり!明日の授業が終わり次第 色々見て廻ろう」

『よろしく頼むよ』

「任せておいて!それじゃ俺たちからも一つ話いいかな?」

『なんでも話してくれ』

今はどんな無理難題を持ちかけられても応えられそうな気がする。いや応えてみせる。


ベンヤミンとデニスが目配せをする。「デニス兄から話して」との言葉を引き受けデニスが話し始める。

「今年ノシュール領のクリスマスは 周年祭も重なり大規模な祭りを準備しているんだ それで皆を招待したのだが レオにも来てもらえるだろうか?」

『勿論だ 是非行かせてもらうよ』

なんだろう?まさかノシュール領へ来いという話だけではないだろう・・・続きを待つ。


「うん 今度は大丈夫そうだね」

『今度?』

どういう意味だ?


「日曜日の茶会でこの話をしたんだよ 皆にはその場で返事をもらえたけれど レオだけまだだったから」


・・・全く記憶にない。茶会の場にいて話を聞いていなかったのか。

『すまない あの時は・・・』


「いいんだよースイーリちゃんのことで頭がいっぱいだったんでしょ?」

「恋煩いってやつだな レオでもあんな風になるんだとわかって安心したよ」

『いや・・・その』

少し意味は違う気がするが、スイーリのことで考え込んでしまったのは事実だ。訂正したところで皆が納得できるような説明をすることも出来ないし、ここは誤解されたままでいいか。




----------

翌日。

私たちはタウンハウスが建ち並ぶ貴族居住地区に程近いショッピング街・八番街を目指していた。下町に興味があると言ってみたものの、「それは上級者向けだね」と一蹴されてしまったからだ。

この季節陽が暮れるのはとても早い。王宮を出るとき既に陽は落ちた後だったのだが、まだまだ街は活気に溢れていた。クリスマスの飾り付けを済ませている店も何軒かあり、これから冬至にかけて徐々に街中が赤と緑に染まっていくのだろう。


「俺のイチオシはこの店」

最初にデニスが案内してくれたのは宝飾店だ。勿忘草のリースのようなモチーフの看板が可愛らしい。若い令嬢向けの店なのかもしれない。

「従姉が王都に来ると必ずこの店に寄るんだよ」

ドアマンが扉を開けて案内してくれた。

「いらっしゃいませ ノシュール様」

デニスは顔見知りのようだ。

「今日は友人の案内で寄らせてもらったんだ」


父上よりも少し上くらいだろうか、ダークブラウンの髪を丁寧に後ろへ撫で付けて、上質なグレーのジュストコールを着こなした男性が笑顔で応対に立った。

「いらっしゃいませ」

そこで私に気がついたらしい男性がはっと息を呑む音がした。

「王子殿下 ようこそおいでくださいました」

知られていたか・・・。写真のないこの世界では王族といえどもそれほど市井に広く顔が知れ渡ってはいない。この国で最も有名な人物である父上、次いで母上は肖像画も多く出回っているが、私は成人前と言うこともあり肖像画は描かせていないのだが・・・

いや違うな、似すぎているのだ、父上と私は。父上の顔を知っていれば私のこともわかるということか・・・

『今日はデニスの友人として来ている 特別扱いはなしでお願いしたい』

「かしこまりました ではお気に召すものがございましたら お声掛けくださいませ」

『うん ありがとう』


ショーケースの中には可愛らしいアクセサリーが並んでいる。どれも花をモチーフにデザインされており、繊細な細工が成人前後の若い令嬢に合いそうだと思った。

「僕もポリーナに何かプレゼントしようかなー」

隣りのケースを覗いていたイクセルが呟く。ポリーナは今年四歳になった彼の妹だ。


一つの髪飾りが目に留まった。ライラックの枝の形をしたそれは、何色もの紫色の宝石で花を形作っている。枝と葉の銀色も、スイーリの美しい黒髪にとても映えるだろう。

「こちらはヴァイオレットサファイヤ パープルトルマリン タンザナイト スピネルと四種の宝石を組み合わせてライラックをデザインしたものでございます お手にとってご覧くださいませ」

と言って男性はケースから髪飾りを取り出し、トレーの上に乗せた。

黒いトレーに乗せられた髪飾りは殊更美しく輝いている。

『これを頼む』

「ありがとうございます 後ほどお城へお届けに上がらせていただいてよろしいでしょうか」

『お願いするよ』

「早!もう決めたんだ!」

長椅子に座ってカタログをペラペラとめくっていたベンヤミンが驚いて近づいてきた。

「レオらしいな」

『そうか?』


イクセルの方はと言うと、三つ四つ並べられたブローチの前で腕を組み悩んでいる。

「うーん 可愛いポリーナにはこのひまわりなんか最高に似合うと思うし ポリーナが大好きなラズベリーの実と花がついたこっちのも絶対喜ぶだろうし 鈴蘭・・・この鈴蘭なんてポリーナのために作られたみたいだし もうどれがいいか全然決められないよ」

「お前・・・俺の従姉と全く同じこと言ってるよ」

呆れ声を出すデニスを見てベンヤミンが笑い出す。

「わかるーデニス兄が連れまわされて帰って来た日 いつもぐったりしてるもんな」


「お願い!レオが決めて!僕決めらんないや」

『え?いやせっかく妹に贈るんだ じっくり自分で選ぶといい』

「それができないからお願いしてるんだよー頼むよ」

『それなら・・・私はひまわりがいいと思う』

「やっぱり!ひまわりがいいよね!決めたひまわりにするよ ありがとうレオ」

『ポリーナが喜んでくれるといいな』

「絶対喜んでくれるよー レオが選んだって言ったら間違いないから」


「ポリーナはレオのこと大好きだもんな」

「ベンヤミンのことも大好きーって言ってるよ」

「はいはいありがと」


(いや・・・)選んだのはイクセルだよ。イクセルは優柔不断・・・ではなく慎重派なところがある。今までに何度も、いくつかの選択肢を前にして悩んでいる姿を見てきた。でも注意深く見ていると、それは選択で悩んでいるわけではないのだ。背中を押してくれる一言を待っているだけだということを私は知っている。そして押してほしい自身の選択は必ず一番目であるということも。


宝飾店を出た後も数軒の店を紹介してもらい、最後に今王都で一番人気が高いと言われるスイーツショップの前まで来た。

「あーこの時間だとこうなっちゃってるよね」

「夏ならこのくらいの時間でも賑わってるけど 冬はどうしてもね」

カフェを併設しているので店自体は開いているのだが、商品のほうはほぼ売りつくしてしまったようだ。

「でもせっかく来たわけだし 喉を潤していこうよ」

『そうだな』


窓際のテーブル席へ案内され、思い思いに注文をする。私は普段王宮ではあまり飲む機会のない珈琲を頼んだ。

『今日はありがとう とても助かったよ』

「俺も楽しかった たまにいいな こうして散策して廻るのも」

「また来ようよ 次は俺がよく行く文具店や書店も案内したい」

きっかけはデートの下調べと言うあまり知られたくない目的だったものの、おかげで思わぬ楽しみを見つけてしまった。学校帰りの寄り道みたいな気分だ。

『次も楽しみにしているよ』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ