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寝支度を済ませたもののちっとも眠くなりません。両手で頬杖をつき、目の前の花瓶を眺めます。
レオ様から初めてのプレゼント。
嬉しくてすぐに頬が緩んでしまいます。
『貴女のことが好きだ』
思い出しただけで顔が熱くなるのがわかります。
一生忘れません。今日のレオ様の一字一句全てを書き残しておかなきゃいけないわ。私は日記帳を取り出しました。
「髪も褒めてくださった 何度も何度も綺麗だよって」
あんなにも嫌だったこの黒髪が、今はとても愛しく思えます。レオ様の一言でこんなにも世界が変わるなんてまるで魔法みたい。
「レオ様は黒髪がお好き」
そうだ、これもレオ様極秘ノートに書いておくべきよね。引き出しの中からノートを取り出しました。一ページずつめくっていきます。でもノートの中身は全て暗記しているのです。レオ様のことですもの忘れるはずがありません。
[天賦の才・神に愛されしカリスマ レオ=ステファンマルク]
乙女ゲームのキャラクター絵に添えられていたレオ様の紹介文です。
なんだか今になって読むと少し・・・いえかなり微妙な気がします。レオ様はそんな使い古しのお安い言葉ではとても表しきれないお方。そもそも王子と臣下を同列で攻略対象などと言う方がありえない話です!そうよ!そう考えると段々とあのゲームが腹立たしく思えてきたわ!
・・・いけない、つい興奮してしまいました。
[奇跡のような君との出会いが俺を変えた この命が続く限り君だけを愛し護ると誓うよ]
忘れもしないレオ様ルート、ハッピーハニーエンドエンディングのお言葉。好感度がマックスだとボイスつきだったのよね、何百回聞いたかしら懐かしい・・・
今のレオ様はご自分のことを'私'と呼ばれていますが、学園へ通うようになられたら'俺'に変わるのかしら。そういえば'君'と言う言葉も使われないわ。
それも気になるところではありますが、そうではなくて。
エンディングの言葉は私に向けられたものではありません。当然です、ゲームの中で私は名前すら明かされないただの悪役令嬢でしたから。これはレオ様とヒロインの物語・・・
レオ様とお近づきになれて、そして今日レオ様が恋人になって、すっかり私は有頂天になっていたけれど、ここがあの乙女ゲームの世界なことは変わっていません。今はまだゲームがスタートすらしていない時期です。この先レオ様が学園に進まれてヒロインと出会ったら・・・
その時までの私は繋ぎなのかもしれない。レオ様が私から離れてヒロインの手を取る時が来たら・・・そうなってしまった時私は悪役にならないって言い切れるかしら。
世界で一番幸せだったはずなのに、未来のことを思うと不安で心が重くなっていきます。
[乙女ゲームの冒頭でレオ様には恋人がいなかった]これは確定です。それ以前のことは公開されていなかったのでわかりませんが、もしダールイベックの令嬢と交際していた過去があったとしたら・・・現実はシナリオ通りに進んでいるのかもしれない。確かめる術はありません。
ならば今の私にできることは一つだけです。レオ様にふさわしいと思っていただける女性であり続けること。苦手なことも嫌いなこともえり好みしないわ。ヒロインより私を選んでいただけるように、シナリオ改変させるまでです。そうと決まればのんびりなどしていられないわ!




