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ヘルミ=アルヴェーンは栗色の髪に藍色の瞳をした伯爵家の令嬢で、切り揃えられたパッツン前髪がよく似合う可愛い娘だ。話好きの明るい性格のようで、話し出すと止まらない。こういう娘が1人いてくれると助かるな。
アンナ=エクレフス、彼女も伯爵令嬢だ。2つ下と言うからまだ7歳だが、とてもしっかりしている。歳の近い弟が2人いるらしいので、そのせいでもあるだろう。彼女を見ているとなんだかイクセルといるみたいだ。髪色もイクセルほど赤くはないが、綺麗なジンジャーで、瞳なんて彼と全く同じ樺色をしている。2人が並んで兄妹だと言ったら疑う人はいないんじゃないかな。
アンナの隣、笑顔を浮かべて聞き役に徹している娘の名前はソフィア=ボレーリン。クルーム子爵の長女だ。緩やかにウエーブのかかった淡いブロンドの髪を半分だけ結い上げている。瞳は晴れ渡った春の空色だ。妹が2人いると母上たちの会話では聞いたが、確か歳の離れた兄上もいたはずだ。
そしてクルーム家は確か
『ソフィアはいつまで王都にいられるの?』
はっと目を瞠り、少しだけがっかりしたような口調で答える。
「そろそろ戻らなくてはならないようです」
三方を海に囲まれているステファンマルクが、唯一陸に国境を持つのが東端なのだが、その国境地帯のうち4分の3を治めているのがボレーリン侯爵家、残る4分の1がクルーム子爵家だ。
クルーム子爵はボレーリン侯爵の嫡男、つまりソフィアの父と祖父が国境の全ての守りを任されているということになる。
クルーム領の冬は特に厳しいと聞く。なので夫人と幼い子供たちは冬の間王都の邸で過ごすのが慣例になっているそうだ。
『せっかく友達になれたのに残念だよ。ソフィアの時間が許せば戻る前にもう一度茶会はどうかな』
「とっ友達ですか?」
驚いたソフィアが両手で頬を押さえて消え入るような声で答える。その頬はベリーのように真っ赤だ。
『なんだ、友達と思ったのは私だけだったのか。寂しいな』
悲しそうな声を作りそう呟くと、ソフィアは押さえていた両手をぶんぶんと振り慌てだす。
「ち違うのです!私などが友達とは恐れ多くて驚いて、あの、そのー」
今は全身どこを眺めてみても少年の姿をしている私だけれど、女子トークが恋しいのは秘密の事実。
一緒になってワイワイ騒ぐことは難しくても、女の子たちともっと親しくなりたいのは紛れもない本音だった。
『ソフィアだけではなく、あなたたち皆のことも友達だと思っているのだけれど、ダメ かな』
呼び出された理由はなんであれ、せっかく知り合った令嬢たちだ。今回きりというのはあまりに悲しい。
「私などでよろしければ!」
「喜んで 殿下!」
「はい!お友達になります!なりたいです!」
「ー」
口々に好反応が飛び出し嬉しくなった。
『よかった。これから私のことはレオと呼んでほしい、友達だからね』
いいよね?このくらいお願いしても。
「「「「レオ様」」」」
さっそく綺麗に声を揃えて名前を呼んでくれた。こんな些細なことが今はとても貴重でありがたい。
そしてもう1人。これまで殆ど言葉を発していない美しい少女。
『あなたがスイーリだね。いつも噂に聞いていたよ、今日は会えて嬉しいな』
敢えて親しげに話しかけてみる。彼女の視線だけが異質だったからだ。最初から気がついていた。
敵意?ではないらしい、でも他の少女たちとは明らかに違うその視線に。
僅かな沈黙の後
「噂- でございますか?」
少し脅えたような声が聞こえた。
『うん、アレクシーや先生からね。2人ともいつもあなたの自慢ばかりなんだよ。妹のいない私に酷いとは思わない?』
わざとおどけたように答えると、ようやく安心したのか顔が少し綻んだ。
彼女はスイーリ=ダールイベック。公爵家の1人娘だ。びっくりするほどアレクシーと似ていて、黒髪にラベンダー色の瞳がとても美しい。その黒髪もきっとアレクシーのように紫を帯びた艶やかなものなのだろうが、残念ながらきっちりとまとめられた上にボンネットの中に収められている。
それにしても綺麗な娘だ。
「先生。レオ様はヴィルホ兄様のことを先生とお呼びになっているのですか?」
『剣のお師匠様だからね。始めは師匠と呼ぼうとしたのだけれど、それだけは勘弁してくださいと言われてしまって、先生とお呼びするようになった』
「兄様とは毎日稽古を?」
『うん。先生もお忙しい身なのに毎朝必ず鍛錬にお付き合いくださるんだ。早朝から兄上をお借りして申し訳ないね』
「とんでもございません、羨ましすぎますけれど」
ん?後半がよく聞こえなかったけれど独り言だったのかな。
話し始めると、先程までの彼女とは別人のようだった。よく笑い、他の令嬢たちとも和やかに会話を楽しんでいる。
(人見知りなのかもしれないな)
ソフィアとは交友も深いようで、彼女の言葉からも今日のスイーリの様子が普通ではなかったらしいことがわかった。
「スイーリ様、今日はちっともお話になりませんから、どこかお体の具合がよくないのかと心配しておりましたわ」
「ご心配おかけしてごめんなさい、ソフィア様。私とても緊張してしまって」
2人の会話に静かに耳を傾ける。
やはり普段のスイーリはここまで無口ではないようだ。私相手にそんなに緊張することないのに。
「そうでしたのね。実は私も昨日は緊張でなかなか寝付けませんでしたの」
「ソフィア様もでしたのね?ちょっぴりほっとしちゃったわ」
高位貴族の令嬢たちとは言っても、まだこの年齢だ。王宮に足を運ぶ機会はそう多くないのかもしれない。王妃に直接招かれるというのは、私が想像していたよりもさらに緊張することなんだね。
鈴を転がすようなスイーリの声はいつまでも聞いていたいほど心地よく、気がつけば宝石のようにキラキラとした瞳を追っている自分がいた。




