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大きな楕円のテーブルに何種類もの白い花が優美に飾られている。


運ばれてきた茶器は私も初めて見るものだった。ハンドルのない真っ白な茶碗のような形で、透き通るように模様が刻まれている。対の皿にも同じく美しい模様が彫られていて、まるでレースのようだ。


蛍手って言うんだっけ?以前の世界では目にしたことがあったが、ここにも同じものがあるとは知らなかった。



その珍しいカップが全て満たされたところでようやく茶会の始まりだ。


母上が最初に選んだのはこれもまた珍しい緑茶だ。ほんのりと桜の香りがするその茶は、デニスの髪のような明るい黄緑色をしている。

春色をした茶から漂う柔らかな春の香りに、カチコチに硬直していた少女たちの緊張も徐々に解れていっているようだ。


だが子供の中で私も含め誰一人声を発するものはいない。

今はまだ大人たちの時間なのだ。母上が口火を切り、大人たちが会話を楽しみ始めても私たちはそれを大人しく聞いていなければならない。理解が出来ない内容であろうが、退屈そうにすることも、逆に質問攻めにすることも決してしてはいけない。


しかし、この場にそのような退屈な話題や、聞かせられないような下世話な話を持ち込む人物はいないようだ。私は一生懸命に目と耳を働かせ、全ての会話を拾い記憶していく。



最初のお茶を飲み干した頃、母上がパチンとひとつ手を叩いた。

「さてレオ そろそろあなたのお茶を振舞って差し上げたらどうかしら」



『わかりました 母上』


少し離れた場所にはもうひとつテーブルが整えられている。五人で囲めばちょうどいっぱいになる程度の小さなその丸いテーブルにはピンクやら黄色やら、春の花たちが賑やかに飾られていて、まるで今日の少女たちみたいだ。



『こちらへどうぞ』


椅子を引かれ、少女たちが席を立つ。


まるで―後は若い人同士で―と放り出されたみたいだが、普段の茶会でもこうして席を分けて楽しむことはごく普通のことならしい。


『好きな席に掛けて

 それとあなたたちのことを名前で呼んでも構わないだろうか』


「もちろんです!」

「ヘルミとお呼びください 殿下」

「はい!よ呼びください!」



・・・一斉に返事が来た。誰か噛んだ?

そうか、ガチゴチになっていたのは母上の前だったからなのだね。よかった、ずっと沈黙が続いたらどうしようかと思っていたよ。




『早速私のお茶をお出ししてもよいかな』


よい香りのする紅茶に、リンゴンベリーのシロップをたっぷりと注いだアイスティーを用意していた。これは私のとても好きな飲み物のひとつで、まだ季節は肌寒い春の始まりだけれど、この温室の中では格別美味しいに違いない。


テーブルの上には花にも負けないほど華やかで美しい菓子がたくさん並べられている。


さて、右隣に座った()から話し始めようか。名前はたった今名乗ってくれたヘルミ―アルヴェーン伯爵家の長女で、先程の話によると弟と妹がいると言っていたな。


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