2.下宿先が恋物語の舞台になるためには歳の近い相手が必要であると理解することのススメ
魔法のことを考えたり、シンバやエクスと他愛もない話をしたりして過ごし、あっという間の旅路だった。途中から馬車の揺れで尻が痛い問題も浮遊魔法で解決できたし。
シンバとアーチャー家の兵士4名が護衛として王都まで同行してくれて、小さいころから気心も知れているので、ハイキングみたいで楽しく過ごせたな。
王都にあるプライセン子爵の屋敷に無事到着できた。一応はプライセン家は貴族様なので、王都に小さいながらも屋敷をもっている。俺自身は、初めて王都の屋敷に来たので、他人の家という印象だったが、執事やメイドたち使用人が、礼儀をもって迎えてくれたのが好印象だった。
三男の「パン無駄」といえども主筋の子供だからね。今後もしっかり尽くしてくれたまえ。
テリトー爺さんから紹介された、財務閥の内官エクリン家当主ジェームス卿へ面会の依頼を出したところ翌日すぐに会ってくれることとなった。テリトー爺さんがすでに根回ししてくれたようだ。
さすが代々の軍官官僚。動きが早いですなー。
冷静に考えると、やばい。また恩を売られてしまった。いったいいくらで返せばよいのやら。と冷や汗が流れた。
翌日、エクリン家の客間で、俺は、エクリン家の当主のジャームス・エクリンと相対している。ソファーの後ろで、護衛というか、付き添い保護者のシンバが立っている。
面会後すぐに、テイラー卿からの紹介状をジェームスに手渡し、行政大学校の試験まで、書生としておいてほしいと頼み込む。
ジェームスは、テリトー卿の紹介状を一度読み、もう一度読み返してから、言葉を発した。
「付き合いの長いテリトー卿の紹介ならば、アルフレッド君をうちの書生にしてもよいのだけど、少々お勧めできない事情があってね」
お勧めできない事情というのを要約すると、エクリン家は、代々財務閥の高級官僚で、先々代の時まで、財務閥の羨望の的である内官の階位三位の財務次官を歴任していたそうだ。しかし、ジャームスさんの先代が、これまで蓄えてきた財をはたいて、王都近郊の町を次官の権力を笠に、無理を通して購入した。
そこまではよかったのだけど、購入した町がある日を境に魔獣の群れに襲われるようになり、10年で住民が激減。町が寂れ、税収も大きく減ってしまい、現在、エクリン家の持ち出しで町の復興に尽力中とのことだった。
代々名門官僚の家が、権力を使って町を無理やり購入したことだけでも、大いに批判を集めたことだろう。おまけに、内政の専門家であるのもかかわらず、町ひとつまともに管理できず、借財を重ねている、と同じ財務閥のライバルの家々に糾弾され、先代の代に階位を降格させられたそうだ。
以来、エクリン家では、次官の一つ下の階位四位の財務局長に甘んじているとのことだ。
没落中で借財だらけなので、行政大学校に仮に行けても、師匠の悪評により肩身が狭くなるのを心配してくれているとのことだった。ちなみに、今、階位三位の財務次官についているのは、インフォ家とのこと。インフォ家は、自分の子飼いの官僚を増やすため、すでに多くの書生を抱えており、将来の「Yesマン」量産体制は万全とのことで、今からインフォ家に潜り込むのは、骨が折れそうだ。
俺の場合は、財務閥での立身出世が目的ではなく、中央政府の官僚(内官)になって、血みどろの戦場と我が実家の子爵家から離れたいというのが一番の狙いなので、誰も書生がいないこの環境は、むしろ穴場なのでは、と内心喜んだ。
人生の師 名著「小役人のススメ」にも、「収賄多く頭も多くは、これ益少なし。収賄少なく頭も少なくは、ついには益多く、また秘も保たれん」とある。つまり、「賄賂の総額が多くても、仲間が多いと、一人当たりの賄賂額が少なくなってしまう。賄賂額は少ないが、仲間も少ない方が、結果的に賄賂額が多くなりやすく、同時に秘密も漏れにくくなるため、後者の環境こそ望ましい」とおっしゃっておられる。
「ご事情は理解した上で改めてお願いします。財務閥の重鎮として、代々の歴史を積み重ねてこられたエクリン家の書生として是非とも勉強させてください。粉骨砕身努めますので、お許しくださいませんでしょうか。テリトー卿も、ジェームス卿のところで励むのが最善と思われ、ご紹介くださったのだと、今のお話を伺い確信しました」
殊勝な事をしばらく言い続け、最後にはジャームスさんも首を縦に振ってくれた。借財だらけのため、エクリン家では寸志は、ほとんど期待できないし、食事もきっと貧相だろう。
しかしながら、書生の部屋も歴史に裏打ちされた重厚さがあるだろうし、住む分には快適そうだな、と姑息な計算をする。
「愚息を紹介するよ」
そうこうするとジェームスさんが息子さんを紹介してくれると言う。
「階位9位で会計局の見習いをしている、チャールズだ。アルフレッド君これからよろしく」
ジャームスさんは、エクリン家の次期の当主のチャールズさんを紹介してくれ、チャールズさんが、若奥さんのエスタさんと1歳の娘さんのジュリちゃんのことを紹介してくれた。
「アルフレッド・プライセンです。アルフとお呼びください。未熟者ですが、精いっぱい頑張ります。1年間よろしくお願いします」
うーん、それにしても、下宿先に年頃の娘さんがいれば、そこで、甘酸っぱい恋物語が始まると思ったのに残念。物語ではよくあるのになー。とがっかりした。
いくらなんでも、生まれたばかりの1歳児が相手だと、単に子守になってしまうので、さすがに無理だ。下の妹よりも小さいし。幼女は魔王ちゃまだけで十分だな、と心の中で自分の浅はかさを呪った。
『主殿。幼女とは、我の事ではないじゃろうな』とエクスの声が頭に響いたが、聞こえないことにした。
記念すべき投稿10話目になります。
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