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地味に転生できました♪  作者: きゃる
第2章 私の人生地味じゃない!
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ロバートver.

「ロバ……ロザリー様、お願いします」


 私は思い切って、ロザリー様にその役目をお願いする事にした。彼(彼女)という人物をよくは知らないものの、諜報という特殊な仕事柄、場数は相当こなしているようだから。


「もちろん、良くってよ? でもあなた、私がこの格好じゃない方が良いんでしょ?」


 み、見破られている。

 いくら完璧に女装していて私より美しい(悔しいけど)といっても、本来は男性だと知っているのでどうにも落ち着かない。


「ありがとうございます。できれば素の方が」


「じゃあ、着替えてくるからちょっと待ってらっしゃいな」


 そういうと、ロザリーは一旦部屋へと戻った。もちろん、内股で。




 すぐに戻って来た彼に、私は言った。

「わざわざ着替えていただいて、すみません。ドレス、気に入っていらしたでしょう?」


「気にいるも何も、アレは仕事道具だし。ま、あの爺さん食わせ者っぽいから、女装がバレて変に怒られる心配が無くなって良いけどね」

 口調をガラリと変えた男っぽいロバート様がおっしゃる。


「それにしても、何で僕を選んだの? 君の為に身体を張ってくれそうな奴はいっぱいいたのに……」


「はあ。でも、ロバート様が一番動じないし場馴れしてそうなので。あと、いざとなったらモートン伯爵を色仕掛けで陥落させてもらおうかと」


「この格好じゃあとてもじゃないけど、無理だね。爺さんが特殊でない限り」


「あ」




 執事に案内されて、二人だけでモートン伯爵の部屋へと向かう。


「ああ、よく来たね。アイリ、トーマスの愛子(いとしご)よ」


 無表情で様子を見ているロバート様に代わって、まず私が口火を切る。


「あの……モートン伯爵。もしかして貴方は私の父をよくご存知なのでしょうか?」


「ああ。君はトーマス=リンデルの娘だろう? 私と彼とは研究所の同僚だったからね。君はトーマスの若い頃に、とても良く似ている」

 彼は答えた。


 私の知らない意外な事実。

 でも、確かに伯爵は先ほどいとも簡単に『火の魔法』を使って火をつけていた。


「父の事を教えて下さい」

 彼ならこの国での父の様子を良く知っているに違いない。

 そう考えて私は彼に、聞いてみた。



「君は、ゲランでアドルフに育てられたんだろう? アドルフがあちらでのトーマスの親友なら、母国リンデルでの一番の親友は私だったと思う。なのに彼は、私には何も言わずに消えてしまったんだ——」


「悪いけど、あんたとトーマスとは、年がだいぶ違って見えるんだけど……」


 ちょ、ちょっとロバート様。口調がぞんざいなんですが。わざと? やっぱり女装のロザリーバージョンの方が良かったのかしら?



 けれど、モートン伯爵は彼の口調を気にせず、話を続けた。


「ああ、そう見えるのか。無理もなかろう。研究所の爆発事故以来、皆が消息不明の中、陣頭指揮を執ったのは私だったから——。亡くなった職員達に代わって贖罪の日々を過ごすうちに、気付けばこんな姿になってしまった……」モートン伯爵が自嘲するように呟く。彼は事故のせいで一気に年をとってしまったと、そう言っているのだ。


「父のせい、なんですね?」


 なぜか確証があった。私の知らない父の事を話すこの人の目が、懐かしそうな悲しそうな色を映していたから。


「今となってはもう、誰のせいかもわからない。研究所が跡形も無く吹き飛んだあの悪夢の日、私は久々に熱を出して休んでいた。私は彼の二歳上で肩書きは所長、トーマスが副所長を務めていた」


「父が勝手に暴走したんですね?」


 彼から聞くまでも無く、結末がわかったような気がする。父は、研究所の副所長という肩書きを利用して所長が休みの時を見計らい、最大の研究対象である『時空魔法』を試したのだ。


 けれど彼は、予想とは違う答えをした。


「そうとも言えるし、違うとも言える。研究者の常でね。未知の領域には畏怖を抱く反面、解明したいとも思う。トーマスが圧倒的な魔力量を誇っているのは既知の事ながら、私達はその兆候を見逃していた。彼がここでは無い何処かの世界へ行きたがっていると知りながら、深くは考えずに彼に研究所の責務を任せていたんだ」


「そして父は、己の好奇心を満たすためだけに暴走したと?」


「トーマスだけでは無い。『時空魔法』の完成は、私達魔導研究者の悲願だった。いざという時、ここでは無いどこかの世界へ身体ごと転移できるのだから……」


 そう。そして現代日本に転移して来た父が母と知り合い、双子の姉妹を設けた。




「その実験は結局、成功したのかい?」

 事情を知らないロバート様が尋ねる。


 モートン伯は私の目を捉えたまま、次のように答えた。


「成功したとも言えるし、失敗したとも言える。圧倒的な魔力量を誇るトーマスでさえ、『時空魔法』を成功させるには、研究所全体と職員全員のエネルギーを必要とした」


 彼はそう言って、遠い目をした。



「全員死亡と言われていたのに、トーマスだけが戻って来た。彼にとっちゃある意味成功と言えるんじゃないのか?」


「いや、多くの犠牲を伴う成果は成功とは呼べない。彼も十分そのことはよく理解しているはずだ。ただ、再びこの世界に戻った時点で、彼にとっては成果があったとも言える。『時空魔法』が結局どういう仕組みかはわからないが……」


 まさか私が、父が戻る時の黒い陰に吸い込まれる状況を夢に視(み)た、とも言えない。

 父が本当はこの世界には戻って来たくはなかったことも。ここは黙っている方が良いだろう。


「そんじゃ、あんたがさっきから言ってる『アイリ』という名は? ここに居るアリィのことで間違いないのかい?」


「ああ。彼自身がそう呼んでいたから。アドルフ公爵には、間違って伝えられたのだろう。アリィではなく、アイリが本当の名前のはずだ」


 それは予想通りの答えだった。ああ、やっぱり。父は私とカイリとを、この世界でもまた呼び間違えていたんだ。


「帰ってきた父に会った、とおっしゃるのですか?」


「ああ。君がまだ赤ん坊の頃に。その茶色い髪と彼に良く似た金色の瞳は、忘れるはずがない。彼はその子は……おっと、ここに居るのは君だけではなかったね」


「いえ、構いません。彼は私の上司ですから」


 ロバート様の方をチラッと伺う。

 ここからは、彼の知らない事柄だ。私がこの世界と異世界とのダブル(ハーフ)だとバレてしまう。


「そう。君は自分の出自を知っているようだね? とにかく彼は、残りの家族を取り戻す為にあらゆる手を尽くすと言っていた」


「残りの家族も『時空魔法』でしか行けない所にいるのかい? それなら奴は再び強大なエネルギーを求めていると?」


 さすがはロバート様だ。いきなり話の核心を突く。彼の考えは間違ってはいないはずだ。私はモートン伯爵に再び質問をした。


「父の行き先をご存知ですか?」


「いや。でも、研究所が潰れたままのこの国にはもう用は無いハズだ。魔力が期待できないゲランや砂漠の国アズルにもおそらく用は無いだろう。魔力を求めて行くとしたら、私ならアンフェールだ」


 いきなり出てきた名前に、私の心臓はドキッとする。

 ロバート様と一緒に街の食事処の二階の宿屋を探した時に、父が彫ったと思われる


 アンフェールデ、マツ


 とのカタカナの文字があったから。

 ただし、カタカナは私にしか読めない。

 漢字の一部を取ったカタカナが、純粋なこの世界の人に読めるハズがないのだ。



「ただ、アンフェールは未知の国でね。なかなか入れないし、入ったとしても戻って来た者は我が国にもほとんどいない」


 そんな危険な国に父は行ってしまったのか。ただ、家族を取り戻すために。

 そこにはもう、愛梨(アイリ)も海梨(カイリ)もいないのに……。




「さあ、もう遅い。後は明日、朝食の席でみんなに話すとしよう」

 モートン伯爵はそう言うと、私達を追い出すしぐさをした。


 ロバート様と私は、仕方なくそれに従った。


 部屋の前まで送って下さったロバート様は、先程とは違う少し丁寧な口調で一言だけ私に言った。


「アリィは僕達に、何かを隠しているね? それはまだ、言えないこと?」


 この方は気付いている。今の話で、私がダブル(ハーフ)なだけでなく、いろいろと父の秘密を隠している事にも気付かれたのだ。

 うろたえる私を見て、ロバート様はため息をついた。


「ま、僕の場合は隠し事だらけだけどね。でも、ま、事件に関係があることなら、折を見て話しておいた方が良いと思うよ。何ならわかる範囲で答えてあげられるし」


 心配して下さるロバート様の心遣いが嬉しくて、お礼を言うと私は自分の部屋へと戻った。

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