絶体絶命!!
「ほーお、これはこれは。」
男はニヤニヤと下卑た笑いをすると、私の喉からナイフを外し、サラシに包まれた胸を凝視した。
気持ち悪い。
でも、動くなら、今だ!!
こんな所で、恥ずかしがっている場合ではない。私は男のナイフを持った手を蹴り上げ、その勢いで男性の大切な所に思いっきり蹴りを入れると、短剣を拾って駆け出した!
「くっそ、コイ…ツ、く…痛ぇぇぇぇ!!」
「誰か、誰かいませんかっっ」
「お願い、助けて!!」
大声で思いっきり叫びながら、走る。
できるだけ早く、できるだけ遠くへ。
思いっきり蹴ったとはいえ、どれ位で復活できるか予想できない。捕まったら、今度こそ酷いことをされるか殺されてしまう!!
木の枝や藪で頰や手に傷が付く。でも、そんなの構わない。
声を出すのも逆効果かもしれなかったが、そんな事を考える余裕が、既に無かった。
前方に人影が、見える。
まさか、仲間???
勢いが良く止まる事が出来ずに、私はその人に、思いっきりぶつかった。
その人は、広い胸で私を受け止めると、驚いたようにこちらを見た。
「アリィちゃん。見つかって良かったけどって、その格好はっっ!!」
私はその人を見上げる。動揺していて、すぐにはわからなかった。
「助けて!追われているんです。すぐにこっちへ来るかも。」
「わかった。見てくるから、ちょっとだけここで待ってて。」
自分の上着を脱いで、肩にかけてくれる。
でも…
「イヤっっ!怖い。置いていかないで!!」
私は必死に彼に縋り付く。
茶色い髪に変わったその人は、思い直したのか安心させるように私の肩に手を回すと、剣を抜いて琥珀色の瞳で奥を見つめた。
しばらくは、何も無いように思えた。
日没の光と、森の静寂が私達を包む。
ゼェゼェと、荒い息が聞こえる。
「テメェ、おいコラ、くそガキ!
ぜってーゆるさねー!!」
奥から掠れた野太い声が近付いてくる。
ガイウス様は私の頭をポンポン、とすると
「大丈夫だから、ちょっとだけここで待ってて。」
そう言って、声のした方に歩いていった。
「何だ、お前は。アイツのイロか?おとなしい顔をして、既に男を知っていた……ぐえっ。」
ボゴッという音の後は静かになったから、男はあっさり倒されたんだろう。ガイウス様は元騎士団長だけあって、腕は確かだから。
彼が来てくれて、良かった。あのまま誰も来なかったら私は早々に殺されて、旅はここで終わっていたのだろう。
ここに生えている蔓草を切り取って作ったような縄みたいなもので手足をしっかり縛り、ガイウス様は男を蹴とばしながら、こちらへ転がしてきた。男は既に気絶している。
「待たせてゴメンね。殺さなかったよ。人相書きが出回っている犯罪者に似てたからね。ヴォルフだったらアリィちゃんに手を出していた時点で、問答無用であの世行きだったんだろうけど。」
苦笑しながら言うと、彼は懐から笛のような小さく細いものを出し、3回続けて吹いた。
「ピーッ、ピーッ、ピーッ。」
高い音が周りに響き、すぐに同じような音が帰ってきた。
「もう大丈夫。みんなには伝えたから。怖かっただろう?よく頑張ったね。」
そう言うと、彼は上着越しに躊躇いがちに私にハグをし、背中をあやすようにトントントンと、叩いてくれた。
怖過ぎて現実味が無かったけれど、ようやく助かったんだ、とわかった。
「うっ…ひっく…ひっ…。」
ガイウス様の腕の中で、安心のあまりみっともなくも泣いてしまった。
せっかく剣の練習をしていたのに、肝心な時に役に立たなかった。
それどころか、私はみんなにまた迷惑をかけてしまった。
旅は進んでも、私はちっとも成長していない。
足を引っ張ってばかりの、自分が本当に情けない…。
ガサガサと下から藪を掻き分ける音。
パッと手を離すガイウス様。
「アリィ、とガイウス様、こんな所にいたんですか。アリィっその格好は!」
「ああ、レオン。来るのが遅かったようだね。俺も君に、言いたいことがあるんだ。宿に戻ってからゆっくり話そう。」
ガイウス様はレオンを見た途端、厳しい顔をしてそう告げた。
髪を青く染めたレオンは、派手だけれど意外と似合っている。
さっきまで泣いていたくせにそんな関係無いことを考えてしまう自分に呆れる。
レオンは何も言わず、ガイウス様と二言三言交わすと、馬の所まで怪しい男を重そうに引きずって行き、そのまま自分の馬に乗せた。
だから必然的に、私はガイウス様の馬に乗せてもらう事になった。
前に座ると、手綱を握る彼に後ろからすっぽり包み込まれる形となった。
パカパカと揺れる馬の背で、兄の親友の頼り甲斐のある胸に寄りかかりながら、私はどうみんなに謝ろうかと、そればかりを考えていた。
爽やかに人相書きの男の人格全否定。
ガイウス




