町外れにて
目的地に到着したのは、もう宵をとうに回った刻だった。パレードが盛り上がって予定より遅くなったのと、護衛していた領地に向かう侯爵家一行が、王都を出てもなお近衛騎士達と一緒にいたいとギリギリまで食い下がったせいでもある。
領地に鉱山を有する侯爵の頼みは断り辛いのか、それとも3人いる侯爵令嬢がいずれも愛らしかったためか、予定を大幅に変更して今に至る。いえ、別に張り合ってはいませんけれど。文句を言っているわけでもありません。
馬車での旅はそれなりに快適ではあったけれど、目立たないようにずっと中にいたため退屈だったし身体のあちこちが痛い。パレードを観るために急に走ったから筋肉痛のせいかもしれないけど…。
って、やっぱり文句が出てました。
いかん、いかん。
最初の目的地であるここ、町外れの宿に替えの馬車は用意されていて、本当なら宿で着替えてもう少し先まで行く予定だったけれど、もう時間も遅いから急遽泊まる事になったらしい。
そういえば、何だかお腹も空いてきた。
酒場も兼ねる宿からは、肉の焼ける良い匂いもしてくる。
「交代で着替えてくるから、アリィちゃんはここで待ってて。」
笑顔で上司に言われたら、私に他に選択肢は無い。上着を脱いだロバート様が近くにいるから、逆らえるはずも無いし。
酒場の隅の席で待つ私とロバート様。
「近衛の制服は嫌でも目立つからね。直ぐに着替えないと噂になってしまう。」
確かに。ただでさえ目立つ整ったお顔の方達があれだけ華美な服を着ていたら、噂にならない方がどうかしている。
ロバート様は御者の服を上手く着崩していて、オールバックだったはずの髪もいつの間にかくしゃくしゃにしているから、酒場にいても違和感がまったく無い。さすが、隠密。
私も従僕の格好で最初から平服だからか、男装しててもバレてはいないみたい……それはそれで、ちょっと悲しいけど。
とにかく、15歳になって酒場初体験の私としては貴族の食卓とは違う、町の酒場の食事が待ち遠しい!公爵家調理長のジャン、ごめんなさい。決して贅を尽くしたあなたの料理が嫌いなわけではないのだけれど…。
「で、どうだった?初めての旅は快適だった?何ならまた僕の馬に一緒に乗っても良いけれど。」と、ロバート様。
「謹慎中の外出がバレて城下町からお城へ連行された時、確かにご一緒させていただきましたが、もう懲り懲りです。」
「そうだとも。馬に乗せるなら、アリィは私が乗せる。」
お、お兄様着替えも素早い!!でも、いくら同僚とはいえロバート様の前で溺愛はまずいと思います。何より私が恥ずかしい。
町人風の服装にベストを合わせていても、やはり銀髪のイケメンは目立ちます。今の私は男の子だし、必要以上に近づかない方が良いかと思いますが…。
「ふふ、ヴォルフは本当に義妹に甘いねぇ。」
白の綿シャツに緑のパンツ、金髪で碧のタレ目のレイモンド様がおかしそうにおっしゃいます。でも義妹ってハッキリ言ったら周りにバレるのでは?!人をオモチャにして遊ぶのは、いい加減勘弁して下さい。
「人数分エールを頼んで来たよ。レオンはまだ未成年だけど、ま、バレなきゃいいだろ。」
爽やかに何をおっしゃってるんですか?ガイウス様。ダメでしょ、それ。未成年にアルコール、日本なら補導されますよ?
ちなみにエールとビールって違うのかな?
私はお酒に弱いと思うから、取り敢えずウーロン茶で。ってさすがに無いよね。
後でこっそりお水を貰おう。
レオンといつの間にか着替えて来たロバート様が一緒。ロバート様、さっきまでここにいらっしゃいましたよね?素早過ぎる!
全員揃ったところで、なぜか乾杯!!
よく冷えたエールはレモンを加えているのかほのかに柑橘系の香りがして、思ったよりも飲み易い。
今日は王太子の任命式典だったから、今頃お城でも盛り上がっている事でしょう。王弟のレイモンド様や次期公爵のお兄様は欠席しても良かったんでしょうか?
目の前に運ばれて来たお料理を見て、そんな考えも吹き飛んでしまった。
だって、サラダと芳ばしい香りの鳥の丸焼き、串焼きや魚の塩焼きなど、馴染み深い料理ばかりが並んでいるから!!
あ、今、お腹も鳴った。
聞こえていないといいけれど。
隣のレイモンド様に小突かれて、反対側のお兄様に髪をくしゃっと撫でられたから、バレてしまったんだとわかる。ま、いいけど。
少しずつ皿によそって食べてみる。
レオン、正面からそんな冷めたバカにしたような目で観察しないで。お姉さん悲しくなるから。
ガイウス様、爽やかにガッツかないで下さい。肉汁が口からはみ出てます。
ロバート様、エールもうおかわりってペースが早くないですか?
何だかんだ言って、旅に出る事にして良かったんだと思う。まだ1日も経っていないけれど、王都に残っていたならば、気軽な食事も彼らのこんなくだけた姿も決して見られなかっただろうから。
続く道は決して平坦では無く、立ち塞がる壁も高いかもしれないけれど、頼もしい彼らがいればきっと大丈夫!!私もできるだけ足を引っ張らないようにしないと!
そう考えていたはずなのに、緊張からか疲れからか、はたまた酔いが回ったからなのか、いつの間にか私は机に突っ伏して寝てしまっていた。
新章のタイトル、ゆき様からいただきました。ありがとうございます。




