眠れぬ夜は君のせい?
レオン視点です。
「あー、寝ちゃった。やっぱりお酒に弱いんだねぇ。レオンの方がよっぽど強いよ。」
レイモンド様が楽しそうに言う。
アリィが酒に弱いのは知らなかったが、そういえば噂が出回ったのもヴォルフがアリィに飲ませた後だったというし、見た所そんなには飲んでいないようだから、やはりかなり弱いんだと思う。
まさか義兄は、わかっていてわざと飲ませたのか?
騎士団の寮にいると時々仲間と街に飲みにも出掛けるから、俺は今日が初めてだというわけではない。もちろん、いつも年齢は隠しているけれど。
お酒は多分、かなり強い方だと思う。
飲み慣れているこの人達に比べると、どうだかわからないが。
でも、エール1杯で寝てしまうアリィにはその辺の子どもでも勝てそうな気がする。
護衛対象が『酒が弱い』という項目も付け加えておくことにする。
個人的には、夜でも明るい酒場の雰囲気は好きだ。飲むと人は饒舌になるし、年上の人達もフレンドリーに接してくれる。今もレイモンド様はニコニコしているし、兄とガイウス様は楽しそうな話で盛り上がっている。ロバート様はなぜかオネエ言葉になっている。ボディタッチは勘弁してもらいたいが。
「盛り上がっている所悪いんだけどねぇ。今日の部屋割どうする?急だったから、2人ずつ3部屋だって言われたんだよねー。」
レイモンド様は相変わらず楽しそうだ。要するに、誰がアリィと二人きりで同じ部屋になるかと聞いているんだろう。
「それぞれ親睦を深めないとね。飲み比べ?それともコインで決める?」
バカだろ。酔った大人と一緒にしたら、アリィの身が心配だ。特に、義兄。ヴォルフの義妹を見る目が、最近特に意味深だ。そう感じるのは、俺が特に気にしているからだろうか。
一週間ほど前、王城の廊下ですれ違った時に、アリィは目を真っ赤にして涙をボロボロこぼして泣いていた。きっと大事な幼なじみと最後のお別れをしてきたのだろう。
リオネル王子…今では王太子だが。ヤツは昔から油断がならないしいけ好かなかったが、アリィの事はとても大切にしていた。
だから、俺が彼女を託すとするならば、彼しかいないと思っていた。
けれど、どうやら出発前に二人は別れてきたらしい。好きなのに一緒になれない気持ちは苦しいほどわかるし、アリィが一番好きなのは彼だと知っていたから可哀想だとは思う。
でも、どこかでそれを喜んでいる自分もいた。
俺の方は取り返しがつかない位、彼女に怖がられ、嫌われているというのにーー。
考え事をしていたからか、レイモンド様の言葉を聞き逃してしまっていた。
「だからね、一番年下で姉弟のレオンがアリィちゃんにとっても一番安心だと思うんだよね。私達はこれから大人の話があるし…。」
ニヤリと笑うレイモンド様。他の皆はそれで良いのだろうか?
表情を消している兄以外、ガイウス様とロバート様は成り行きを面白そうに見守っている。
「それで別に構いません。では、俺は先に失礼します。姉を運ばないといけないので。」
アリィは気付いているだろうか?聞いていない所ではきちんと姉と呼んでいることに…。
「落っことすなよ。」
「襲うなよ。」
「気をつけて。」
仏頂面のヴォルフ以外、それぞれに声をかけられ、驚くほど軽い彼女を抱えて階段を上る。部屋の場所は先ほど聞いたから、間違ってはいないはずだ。
質素だが清潔な部屋は、薄いマットレスの木製のベッドが2つと小さな棚と椅子が1つだけ。街路に面した窓からは、星の瞬く夜空と家々の灯りが見える。
まったく、人の気も知らないで。
ぐっすり眠るアリィを奥のベッドに優しく寝かせてから、イスの背もたれを前にして跨り、顎を乗せて窓から外を眺める。
家の灯り一つ一つに人が住んでいて、そこには家庭がある。
公爵に助けられなかったら、俺は今頃ここにはいないし、アリィがいなかったら家族の温かさもきっとわからなかった。
だから正式に騎士となった今こそ、君を守りたいと思う。
騎士として、いくら好きでも傷心の君につけ込むようなことはしたくない。
その前に、まずは怖がらせないようにしないとな。
自嘲気味の笑みがこぼれる。
幸せそうに眠るアリィの寝顔を見ながら、自分に問う。
俺は今夜君の隣でぐっすり眠ることができるのだろうか?
長い夜になりそうだ。
溢れ出しそうな思いに敢えて蓋をして、夜が更けるまで俺は町の灯りを見ていた。




