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地味に転生できました♪  作者: きゃる
第2章 私の人生地味じゃない!
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王太子任命の式典~旅立ち

アリィはとっても意地っ張り。

 ゲラン王国は早朝から活気に満ちていた。

 家々の出窓や軒先きには花やリボンが飾られ、街灯や街路樹にはバルーンやカラーテープ、お祝いのメッセージなどが貼られている。王都のあちこちに所狭しと並ぶ出店からは美味しそうな匂いが漂い、織物や小物、食器や土産物などあらゆるものが店頭に並べられている。

 少年少女はお祝い用の新しい服やドレスを着てワクワクしているし、大人達はパレードを少しでも良い所で見ようと場所取りに余念がない。


 昨日まで降っていた雨も上がり、今日は式典に相応しいすっきりとした晴天で、国民は皆才気あふれる見目麗しい王太子の誕生を心待ちにしていた。





「式典の後はパレードだから、形だけとはいえ近衛所属となっている我々は参加しないといけない。アリィちゃんはどうする? パレード見るなら特等席を用意してあげるし、パレード後は直ぐに出発するから馬車に待機してても良いよ」


 昨日、レイモンド様は気を遣って私に尋ねて下さった。もしこの国に残って公爵令嬢として参加していれば、結構良い席で式典と続くパレードを観られたはずだ。

 けれど、私は育ての親の公爵夫妻と今日の主役のリオネル王子とは既にお別れを済ませていたから、馬車に残ることを選んだ。


 大事な幼なじみ、優しいリオンの新たな門出を祝う気持ちはもちろんあるけれど、彼の晴れ姿を見てこの国に残りたいと心が挫けそうになる自分を意識しないよう、ここに残ることを選んでしまった。私はズルいし弱虫だ。


「気が変わったらいつでも、護衛に言って見に来るといいよ」


 馬車は出発までの間王城の護衛によって守られているから、私が居なくてもどうということもない。望めば自由に動き回る事もできる。だから一応、ありがたく頷いておいた。

 幼なじみとお別れしてから落ち込む私を、レイモンド様なりに慰めてくれたんだと思うことにする。

 今日からリオンは、みんなの王太子様だ。

 彼と共に在ることを選ばなかった私が、軽々しく近付いて良い相手ではなくなる。

 だから最後に彼の姿を目に焼き付けておこうとする気持ちと、見ないほうが未練が残らなくて良いという気持ちと、さっきから葛藤しまくりだ。



 特に宗教の無いこの国では、式典といえば王城内で催されるのが慣例だ。今回も例にもれず、王城内で立太子の式典が行われる。

 先ほど、開始の空砲が鳴った。

 式には高位貴族だけでなく、中・下位や近隣諸国の王侯貴族も招かれているから、城内は華やかな人達であふれているはずだ。その中にはもしかしたら、リオンの心を射止める令嬢――未来の王太子妃が居るかもしれない……


 いけない。考えただけで悲しくなってきた。

 私には、そんな資格も無いのに。

 彼の心に応えられる自信も無いし、この国を出ていつ戻れるのかもわからないまま彼を待たせてはいけないと、私がこの手を離してしまった。だから、悲しく思うのは筋違い。

 笑って彼の門出を祝おう。



 王城内から歓声と拍手が沸き起こる。

 私のいる外の馬車まで聞こえてくる。

 式は恙無(つつがな)く執り行えたようだ。

 お祝いの空砲が再び鳴る。

 目の覚めるような美貌の王太子は、国内だけでなく、各国の賓客をも魅了したことだろう。

 もうすぐパレードが始まるから、外では今か今かと国民が待ちわびている。高揚した気分は伝染し、参加しない私まで何だかワクワクしてきた。


「やっぱりパレード見たい」って言っておけば良かったかな?





 しばらくすると先導のファンファーレが鳴った。

 いよいよパレードが始まるらしい。

 今日は6頭立ての馬車が何台も連なると聞いていたから、その中に近衛や王室、王太子の馬車があるのだろう。

 高台にある城へ続く道も、今日は一般の人々にも開放されている。今や人垣は十重二十重に膨らんで、さすがにもうこの場所からパレードを見ることはできない。

 馬の蹄と人々の歓声だけで、想像して楽しむことにしよう。


 目を閉じて聴いてみる。短い歓声の後は馬の蹄の音しか聞こえないから、正門から出たばかりのこれは、きっと先導の馬車。王室秘書官や顧問官が乗っているのだろう。

 ワーッっていう声が時々聞こえるから、次は軍の関係者かな? 家族や親戚、知り合いが観ているのかもしれない。

 何台か通り過ぎた後に、突然「「「キャーーーッ」」」とか「「「ギャーーッ」」」とか特定の名前を必死に叫ぶ黄色い声が聞こえる。

 言わずもがな、エリオット様他近衛の皆様です。

 白馬に騎乗して王家を護衛している中には義兄のヴォルフや義弟のレオンもいるのだろう。

 うう、やっぱり我慢しないで観れば良かったな。


 人々のざわめきや黄色い声が飛ぶ中、一際大きな歓声が! みんなが口々に叫ぶ名前は、予想通り王室ご一家と王太子、リオンのものだった。


「王太子様バンザーイ」

「国王陛下、王妃様バンザーイ!」

「リオネル様〜〜!!」

「おめでとうございまーす」

「王国に栄あれー。」

「リオン様〜〜!素敵ーーッ」


 ああ、やっぱり我慢できない!



 パレードはまだ城を出たばかりだから、ゴール地点に近いここからは走ればまだ間に合うはず。

 護衛に断って走り出す。

 門の近くから城の庭へ、庭から広い城内へ。

 幸い旅支度で男装している今は、身軽だ。

 遠目でも良いから、なるべく全体をハッキリ見えるところ。

 お願い、一目だけでも良いから姿を見たいの!


 いつしか涙を滲ませながら、一人、王城内を逆方向に走り出す。最近はこの姿で通っていたせいか、不思議な顔はしていても誰も私を止めることはしない。城のバルコニーは護衛や招待客で埋まっていることだろう。私は人を避けながらあの場所を目指して走る!


 外からは、人々の興奮した声が聞こえてくる。

 お願い、どうか間に合って!



 ハアハアと息を切らせ、必死にたどり着いた先は、幼なじみと何度もお茶を楽しんでいた海の見えるテラス。思い出の多いここからなら、隅に寄れば逆側のパレードが少しだけでも見えるはず!!

 ここは高台にあるので、思った通り小さいけれどパレードがよく見えた。涙で霞んでぼやけているけれど、豪華な馬車と立派なみんなの様子が一望できた。


 王都の民総出の歓声や紙吹雪、お祝いの花びらが舞い散る中、笑顔で手を振る近衛騎士や王家の方々。夢の様なこの光景を、私はきっと忘れない。

 一番豪華なオープン馬車に乗り、立って笑顔で応えるリオン。金髪碧眼の理想の王太子様は、幼い頃に読んだ絵本から抜け出たように、いえ、それ以上に美しかった。

 金の飾緒とラインの入った白の上下に王室のマントを身につけた彼は、すごく素敵だ。旅立つ前に幼なじみの立派になった姿を見る事ができて、本当に良かった……



 にこやかに手を振り民衆に応える彼が、不意に視線をこちらに向けた。

 目が合った、ように思う。

 彼も昔を思い出してくれたのかしら?

 遠いから、気のせいかもしれないけれど。


 たとえ錯覚でも嬉しかった。

 思い出のテラスで、彼を見た。

 彼の門出を祝い、記憶の中に麗しい姿を残すことができた。

 感激のあまり流した涙を拭いながら考える。これで私は前を向ける。新しい土地に踏み出すことができる。次に会う時は、事件が解決していればいいと思う。この国と優しい貴方のために。私が旅に出たことがどうか貴方の誇りとますように――



 興奮冷めやらぬまま、馬車に戻ってため息を吐く。幸せそうな人々は、この国の明るい未来を象徴しているようだった。

 絶対にこの国に戻ってきたい。

 そして【黒い陰】の恐怖がなくなったこの地でずっと平和に暮らしていきたい。


 馬車に戻るとレイモンド様からの合図があった。一行と、私を乗せた馬車はこの日王城を出発した。

リオネル王子は小休止。


また登場する予定です。

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