君が好きだから
僕――リオンは、アレクが去ったドアをじっと見つめながら考えている。
大丈夫、自然に振る舞えたはずだ。彼女の負担にならないよう、憂いを断てるように選んだ言葉は間違っていなかったと思う。
ついこの前までなら、僕の大切な幼なじみを手放すことなど考えられなかった。だが、彼女の決意は固く、一緒に旅に出るのだとレイモンドから聞いていた。どうしても覆せないと知った以上、物分かりのいいフリをするしかないだろう?
一時は自分でもどうかと思うくらい取り乱して、周りに迷惑をかけてしまった。けれど、彼女が国外に出て父親の捜索と事件の解決に取り組むことを選んだように、僕もこの国で王太子として生きることを選んでしまった。
これ以上僕は側にいられず、彼女の助けにはなれない。
ただ、彼女の無事を祈るだけ。
本当は僕がこの手で君を守りたかった。
僕の隣で婚約者としてゆくゆくは王太子妃として、この国をずっと一緒に支えて欲しかった。
だけど君は守られるだけの自分を良しとしないし、父親の仕業かもしれない事件を解決しないで放っておくことなど出来ないだろう?
それこそが、僕の愛しいアレクだから――
だからきっと、これで良かったんだ。
いつも一緒にいた僕の可愛い幼なじみは、僕の元から広い世界に飛び立とうとしている。
新しい世界は、君に色々なことを教えてくれるだろう。ただでさえ知的好奇心旺盛なアレクのことだ。様々なことに興味を示し、いつだってどこにいたって強くたくましく生きていくことだろう。
誰よりも大切な君だから。
この国に引き留めることなどしない。
自分が王子でなければなんて、叶わなぬ望みも抱かない。
僕はただ、笑って君を送り出せばいい。
君がいなくて寂しいけれど、この城には君との思い出がいっぱい詰まっている。
柱の向こう、噴水の影、一緒に遊んだ庭や海を臨むテラス。僕にくっついて来た可愛い君を、僕はすぐに思い出すことができるから。君と踊った大広間や想いを伝えた執務室。どこにいても僕は、君の姿を感じることができる。切ない思い出とともに――
僕のことは心配しなくていい。
幼なじみの『リオン』はいつだって、君にとって頼りになる存在でいないとね?
胸の痛みは、時が経てばいつか消えるだろう。
君に対するこの熱い想いも、いつか薄らぐはずだ。
離れていても、君の幸せを祈るよ。
だからどうか、君は自分の選んだ道を後悔せずに歩んでほしい。僕もこの国で、自分で選んだ道を行くから。そしていつか道が再び交わった時、君には笑っていて欲しい。
笑顔で再び会える日まで。
その時もまた僕のことを、『リオン』とそう呼んでくれたらいい。




