自分の声です
切り札の設定、ネタばらし回。
『では・・・未知の世界に赴く者への報酬として、キミの願いを5つ叶えてあげよう』
神様は普通に言った。あまりにも普通だったから最初は疑問にも思わなかったくらいだ。
「5つ・・・5つ!?」
7つに光る龍の玉を集めても願いは1つだけ。
その上位の玉を揃えた場合も3つだけなのに、5つときた。これは凄い。
『本来なら異世界に行く人間が叶えられる願いは1つだけなんだけど、この1000年と少しの間に叶えなかった願いが溜まっていてね。放置するのもバランスが悪い。良い機会だからここで一緒に叶えてしまいたいんだ』
「はあ」
『というわけで、5つ。地球でもグランディスタでもどちら側でも構わない。地球側なら多少の制約はあるけどグランディスタ側なら制約なしで叶えてあげるよ。ドドラガリもそれで良いね?』
『は。かしこまりまして』
なんだろうな、ありがたいんだけどどんな願いが有用なのか正直よくわかんないぞ。
ギブミー情報。
「願いを5つですよね・・・んーと、願いとは別で教えて欲しいんですけど、グランディスタってどんな世界なんですか?」
『日本に住むキミたちのイメージで言えば剣と魔法の中世ファンタジーだ。たまに夢に見る人間がいるため似たゲームや漫画が作られたりしているね』
なるほどわかりやすい。
いしのなかにいる、とか、ざんねん!!わたしのぼうけんはこれでおわってしまった!!
みたいな難易度じゃないと良いなあ。
「えーと、じゃあ、まず異世界で不便なく生きられるようにしてください」
『具体的には?』
「向こうで言葉が通じないとか字が読めないとかは無いようにしてください。その世界で子供が知ってるような当たり前の事を知らないとか、当たり前のことができないとかがないように、一般的な旅人が問題なく知っているであろう知識を下さい。あんまり異邦人として目立ったり困ったりしたくないので。身体も死ににくくして貰えると助かります。不死身とか不老不死とかじゃなくて、例えば向こうの世界で伝染病であっさり死んだりとか、水や食べ物が合わなくてぶっ倒れたりとかないように」
『世界の知識全般に生命力の向上。そのくらいなら問題ないね。ドドラガリ、キミたちグランディスタの神々が加護をつけてあげて』
『かしこまりました・・・僭越ながら、目立つと言うのでしたら、黒髪黒目は少し目立つかもしれませぬ』
『そうだね。見た目や年齢も少しこっちで調整しても構わないかな?容姿もグランディスタに合うように調整して、少し若くしておこう。20歳前後が身体的にはもっとも強靭だからね』
『服装や所持品、旅の始まりについてはこちらで。万事、抜かりなく差配させて頂きます』
『うん、よろしく。こまかい希望があれば彼からちゃんと聞いておくように』
『はっ。お任せを』
これくらいお願いしておけば、理不尽な開幕1分ゲームオーバーみたいな展開は避けられるだろう。
開幕1時間で猪退治くらいは起こりそうで怖いっちゃ怖いんだけど。
『では1つは叶えた。あと4つだ』
「えーっと、記憶を少しいじってもらえると助かります。特にグランディスタに行った時なんですが、自分の家族の記憶とか、執着を少し薄くしてください」
『おや?それは何故だい?キミならむしろ記憶をすべて残したままグランディスタに行きたいと言いそうなものだけれど』
「やっぱり家族がいるってわかっていると、会いたくなりますから。強く覚えてたらどこで何をするにしても思い出すし比べてしまう気がして・・・何年の旅になるかわかりませんけど、帰りたくなった結果自殺するとか、やっちゃいそうなんですよね」
これは本当にやりそう。毎年妻と娘の事を考えながら旅行とか絶対楽しくできない。
単身赴任で海外生活どころかむしろ死ぬまで会えない流刑みたいなもんだ。
「なので異世界ではその辺の記憶や情を薄くしてください。戻ってきたら全部返してもらう感じで。で、戻ってくる時にできれば向こうの記憶をもって帰れますか?土産話にでもできたら面白いかなぁと」
『うん、それなら構わないよ。やっぱり人間は多様で面白いね。うん、記憶に関してはキミの希望通りにする。全然問題なく叶えてあげるから安心して。ところであと3つなんだけど、もっとむちゃくちゃな要求とかないのかい?なにしろ神の奇跡だからね。グランディスタの王様にしろとか言っても良いんだよ?』
「支配とか統治とか面倒だから嫌ですよ。むしろ王様とか旅行できないじゃないですか・・・」
真面目に王様なんてやったら精神的に死ねる自信あるよ。
地球で願いが叶うとしても総理大臣とか国王みたいなポジション絶対になりたくない。自分でなんでも決められるわけでもないし、何をどう決めても下からは文句が飛んでくるとか地獄だろ。
暗君とか暴君みたいに本当に好き勝手な王様やったとしても、そんな治世は良いとこ20年で自分が殺される未来しか見えないしね。やだやだー。
「あ、そうだ。向こうで100年経ったらなにがあろうと強制的にこっちに戻るようにしてください。その時はグランディスタの記憶は一切残さず消してくれていいです」
『100年?なんで??どうせそれまでに死ぬよ?死んだら自動的に帰ってこられるわけだしさ。せっかくの願い事をそんなことに使うの勿体ないよ』
「死ぬの定義が曖昧なので怖いんですよ。魔法で封印されて何百年経っても帰れないとか、石化して動けないのは死んだことになってない、とか、そういうのありそうで。保険です」
これは絶対に必要。発狂して帰ってくるとかありえないとは言えないじゃない。
日本の常識は海外の非常識だからね。最悪の想定だけはしておかないと。
『面白いこと考えるねー。良いよ、わかった。じゃああと2つだね。伝説の武器とかどう?なんでも切れる聖剣とか』
「なんでも切れるとか逆に怖いですって。使ってて自分の腕を斬っちゃうとか、誰かに奪われて刺されるとかしか想像できません」
『なら認証機能をつけてキミにしか使えないようにすれば良いじゃない。武器の一つくらいは持って行った方が良いよ。竜だっているしね。剣と魔法の中世ファンタジーだからね』
いるのか、竜。ドラゴンを倒しに行ったりする予定はないんだけど、武器か。武器なー。
いや、確かに護身用の切り札みたいなのは欲しいと思ってるんだよね、実際。
『あと2つ!この2つの願いを使って最強の剣と最強の盾にすれば一大叙事詩の主役にだってなれちゃうぞ』
韓非子の矛と盾とかよ。
あと、なんでも叶う願い事でよりにもよって物理系の武器防具選択とかないわー。
「んー、じゃあ、1つは帰ってきた時のご褒美にでも残しておきますよ。で、あと1つの方で武器をもらいます。その武器で望んだものだけ壊すとか、望んだものだけ破壊する、みたいな事ってできたりしますかね?」
『望んだものだけ?良いよ。名剣で自分の腕を斬られないように、とか選択できるようにってことね。形状の希望ある?剣とか槍とか』
「声、です」
『・・・・・・は?』
「形状は、自分の声です」
神様に聞き返されるって、きっと俺の人生でもうないだろうなー。
声優が飛ばされたってことで、こんな武器にしてみました。
あ、ちなみに作者声優です(いらない情報)