彼は悪くないぞ
店の中で喝采を浴びてしまった。
目立ちたくなかったのになぁと思いながら半笑いで手をあげると拍手の嵐。
店主さんが礼を言ってきたりお客さん達が肩をばんばん叩いて来たり、フェイがスゲーとかヤベーとか褒めてるんだかバカにしてるんだかわからない感じでからかってくる。
そんなこと言いつつも手際よくロープで傭兵さんたちを拘束していくフェイの方が俺から言わせたらずっとスゲーんだけども。
猫耳ちゃん?しばらく俺を見ていたあとは風のように店の奥に引っ込んでいったよ。
お礼が欲しかったわけじゃないけどちょっと悲しくなるぜ。
店主さんが銅貨の袋(傭兵さんたちが投げつけてたやつ)を掲げて、今からの注文はビルブラッド傭兵団の奢りって事になった。
報復とか翌日以降に再度の揉め事になるんじゃないかと心配でフェイに聞くと、あれはあれで団のメンツを立ててる事になるから大丈夫らしい。その辺の機微は傭兵団のカラーで違うようだ。
店の中で大暴れしちゃったのは間違いないので店主さんに銀貨を2枚ほど渡す。
最初はいらないと言っていたが、もう1枚だしてこれは猫耳ちゃんに、というと店主さんは可愛らしく笑いながら3枚の銀貨を受け取ってくれた。
身長190センチ、体重100キロ、褐色の肌で短く刈り込んだあごひげがバッチリ決まった店主(40代)が笑うと可愛く見えるとかなにそれ。モテ中年かコノヤロー。
まさか銀貨を3枚も使うことになると思ってなかったから実は内心でドキドキしていた。
今朝宿代を更新(一週間ほど先払い!)しちゃったので、そろそろ所持金がピンチなんだよね。なにか働くことを検討しなくては。
酔いも冷めたし飲みなおす気分でも無いし帰ろうとすると、店主がどうしても飲んでくれと秘蔵の白ワインを出してきた。金柑と鴨のローストみたいな奴も一緒にどうぞと言うのでありがたくフェイと頂く。
エプロンつけた中年おっさんの手料理なんだけど、バツグンに美味いんだよなー。
くそぅモテモテか。
フェイはダンブランを拠点にしてる冒険者らしく、この辺の美味い店とか綺麗なお姉さんのいる店とかを俺に教えてくれた。俺はテキトーに生きてる旅人だって話をして驚かれた。
腕っぷしと店主との銀貨のやり取りでアンカネブラの神官戦士だと思っていたらしい。
偶数ですむ勘定に1枚足して奇数にするのはアンカネブラの高司祭以上。しかるべき場所で専門の教育を受けた数少ない敬虔な信者がやること、なんだそうな。
割り切れない縁が互いにありますように、という願いを込めた行為らしい。
ちょっと気になって脳内検索をかけたけど出てこなかったので、神様ごとの作法関連は知識として偏ってるのかもしれないな。
日本でも神社と寺の参拝の仕方が違ったりするし、参道入るときは左で参拝後は右から出るとか、一般的にみんなが知ってるかと言えばNOだろう。
ちょいちょい旅の話しを聞かれたので脳内知識から引き出せた事を語って、さも行ったかのように装う。
地球の歩き方を読んで旅行した気持ちになる、みたいなもんですな。
ほら、アメリカにはブロードウェイがあるんだよ!バリは雨期が大変!イギリスは霧と飯がね!!
みたいな事を話していたらバタバタと外から人が走ってきた。
「失礼する。乱闘騒ぎがあったと聞いたが間違いないだろうか」
客席のみんなが一斉に俺を見た。イヤン。帰ればよかったかも。
いかにも騎士ですよ、みたいな白銀の鎧にマント姿の2人が俺とフェイのテーブルまでズイっとやってくる。
「フェイ、ビルブラッド傭兵団と揉めたのはお前か?」
「いやいやいや、俺じゃないっての。こっちのにーさんだよ、名前はセルシス。旅人だってさ」
「お前だって椅子で一人ぶん殴ってたじゃないか」
そういうとフェイは天空の城でも見つけたような、コイツありえねぇ!って顔をする。
「セルシスくん、我々はピサンティエの警邏隊だ。今夜の出来事について事情を聴くから一緒に神殿まで来てもらいたい」
この人たちは月の女神ピサンティエの警邏隊らしい。
余談だけどもダンブランの七つの神殿では持ち回りで警邏隊によるパトロールをしている。今日のこの区域の担当はピサンティエ神殿だったってことだね。
「彼は悪くないぞ」
カウンターの向こうから店主の渋い声がした。うん。ピンクのエプロンじゃなければ俺も惚れる渋さだ。
「大丈夫ですよ、おおかた、酔った傭兵がハメを外して暴れたんでしょう」
そう言いながら俺を連行しようとする。
あー、うん。拒否権ないよねー。逃げても抵抗しても良い未来が見えないや。
宿代今朝払ったんだけど、今夜は帰れないかもしれないなぁ。
いってらっしゃーい、と陽気に手を振るフェイの肩を、警邏隊のお兄さんがむんずとつかんだ。
「フェイ、お前もくるんだ」
「いぃ!?」
そりゃそうだろ。なんで自分は関係ないと思ったんだか。




