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ありえないわ

いつもありがとうございます。ようやくこの人物を出せました!!

一条の光も差さぬ石牢の中、ビルブラッドは物音を感じて目を開けた。

カツン、カツンと、螺旋階段を下りてくる足音がする。


明かりの魔法がかけられた短杖を手に現れたのは、白磁の肌に黄金の髪を重ねた美しい女だ。


「生きてる?ビルブラッド」


光量を抑えた薄明かりに照らされるビルブラッドの肌には無数の傷がついていた。

腰の辺りをわずかな布で覆ったあられもない姿で、ビルブラッドが不敵に笑う。


「お前の死にざまを見るまでは死ねないからな」


クスクスと品のある淑女の笑いで女はビルブラッドの殺意を受け流す。

手枷をはめられたビルブラッドが拳を握ると同時に、女の背に七つの火球が浮かび上がった。

無詠唱で生み出された火球。その一つ一つが中級魔術と同等の破壊力を持つ。


「どうしたの?勝てる戦に臨むのがあなた達の流儀じゃなかったかしら?今ここで私に勝てる算段があるのなら、見せて欲しいものだけれど」

「・・・・・・腹が、減ったな」


心を読まれるのを避けるように顔を伏せたビルブラッドを、女は物乞いを見るような眼で嬲る。

しばらくしてからつまらなそうに七つの炎を消すと、試すように目を細めて女が言った。


「そうだわ、ねえビルブラッド。世界樹が生まれ変わったみたいよ」

「!?」

「当代の稀人がマナを上手く回しているみたいね。また、あなたの勝ちかしら?北の神将を倒したのと合わせてあなたの二つ勝ち。悔しいわ。私の指示通りに稀人を殺しておいてくれたらよかったのに」


女はしゃがみこむとビルブラッドの足に触れる。

鉄球の付いた枷を愛しげに撫でながら女が嗤う。


「言ったはずよ。私はあなたに稀人を殺せと命令したでしょう?どうして殺さなかったの?そろそろ本当の事を話して欲しいのよ。あなたにはダンブランを壊してきて欲しかったの。私が作り、私が蓄え、私が持たせた秘薬はどうしたの?」

「お前の権能なんてその程度のものだ。俺は未来を変えてみせた、お前には、失った秘薬一つ見つけられない」


かすかな金属音を立てて女の指先が鉄球の表面をこそぎ取った。

指の力だけで抉られた鉄球がいびつに傾く。


「・・・・・・そう、残念だわ。あなたが私の指示に従っていればエルフの里は滅びなかったのにね」

「・・・どういう意味だ」

「私の未来視には分岐も含まれるという意味よ。稀人が世界樹を生まれ変わらせた時の為に、一つ仕掛けをしておいたの。もうずいぶん昔の仕掛けだけど役にたってよかったわ」

「広域殲滅用の上位魔術でも仕込んでおいたのか?馬鹿馬鹿しい、それならあのエルフどもが見つけられないはずがない」

「仕込んだのは転移の術式よ。条件付きでね。魔神と魔獣の群れに今頃は蹂躙されていることでしょう」

「魔神の100や200、魔獣の1000や2000で滅びるエルフだと思っているのか?あれは太古の昔からお前たちに対抗するためだけに腕を磨いてきた連中だぞ」

「小憎らしいベスティアの残滓ね。知ってるわよ。あなたより、よくわかってるわ。だからあの時に厳選したの。私が信用できる上位魔神を10体と、それから・・・・・・竜種を2体」


女のしなやかな指がビルブラッドの足の指を撫でた。

愛撫するように、優しく触れる。


「魔術抵抗がひときわ高いドレイクよ。打ち滅ぼすには単純な武力が必要・・・相性の関係もあって過去の私が使わなかった優秀な子なの。エルフに勝つ手段はないわ」

「・・・・・・北の神将を倒した稀人がいる」

「この世界に来たばかりの稀人に何ができるの?」

「北の神将はその稀人に敗れた」

「そうね、どうしてかしら。S級冒険者が束になってかかった?グランの三騎士が動いた?どちらにしてもありえない結果だわ。彼が負けるだなんて」


女の指がビルブラッドの小指を削った。

ビルブラッドが悲鳴を押し殺す。


「ねえビルブラッド、肥溜めに首まで浸かった紛い物の神どもに会ったりしてないわよね?」

「・・・して、いない」

「信じるわ」


女の指がビルブラッドの薬指を削った。

ビルブラッドがたまらず声を上げる。


「でもねビルブラッド。グランの三騎士が揃ったわけでもないのに、完全に覚醒した私たちが人間風情に負けるはずがないのよ」

「・・・・・・なら、やはり稀人が強かったんだろ。≪死神≫や≪居合拳≫と手を組んだかもしれない。魔術師や神殿騎士だって・・・」

「ありえないわ」


女の顔が初めて不快に歪んだ。


「私たちを馬鹿にしてるの?あなた、自分が100人いたらヴェラーラに勝てると思うの?太陽を堕としてドドラガリを滅ぼせると?月を沈めてピサンティエに成りかわれると?あなたにならわかるはずよ、ビルブラッド。あなたたちが、私たちに勝てないってことくらいね」


痛みにこらえて歯を食いしばりながら、ビルブラッドは女を睨みつける。


「悔しい?素敵な顔よビルブラッド。私の大好きな顔」

「・・・・・・・・・・・・」

「口を開けなさい。お水を飲ませてあげるから」


女は水を満たした陶器のグラスを召喚すると、ゆっくり口に含んだ。

抵抗しないビルブラッドに口移しで飲ませてからにこりと笑う。


「良いわ、その眼。恥辱に塗れ、怒りに震えているのね。でも無駄よ。今のあなたに私は殺せない。ほら、水を飲ませてあげるわ。上を向いて、口を開けて舌を出しなさい。犬の様にね」


ビルブラッドは抵抗しない。ただその瞳に爛々と炎を灯したまま、施される水を胃に流し込む。

溶かした鉄を飲んでいるような不快感が己を満たすが、それは命を繋ぐものだ。

睨み殺すほど強く女を見つめながら、苦々しく甘い水を飲む。


「殺せ、と私に言わないところも好きよ。死んだ方が楽になれるのに、あなたはその死を求めない。不撓不屈の英雄なのかしら?私を殺したあの男とは真逆だわ」

「・・・お前を、殺した?」

「ええ。何百年も前・・・何千年も前かしら?忘れちゃったけど。まさしく英雄の器だったのだろうけど、私の好みじゃなかったわ。いさぎよい武辺者だなんてベスティアと同じくらい嫌い。あなたの事は・・・そうね、ベスティアのオトコと同じくらい好みよ」

「・・・・・・・・・・・・それは、光栄だな」

「だから、ラグナレク様に降りなさい」


石牢の中、小さくつぶやく女の言葉が不自然なほど大きく響く。


「あなたなら上位魔神よりも上の階梯にあがれるはずよ。私たちと並ぶ事だってできるかもしれない。どうせこの世界は滅びるのだもの、悪い話しじゃないでしょう?」

「断る」

「マリグロビドに義理立てしてるの?もはやあなたたちの里でも名前しか伝えていないような神に?」

「ラグナレクに降れば、俺は己の望みを捨てることになるからな」

「望み?」

「お前を八つ裂きにしてやることさ」


女が哄笑する。


「いいわ、それでこそだわビルブラッド。早くあなたが三騎士になれば良いのに」

「貴様・・・・・・!!」

「あら。私はあなた達と違って約束は守るのよ?安心なさい。心配しなくてもスレイマンは健在だし、あなたの可愛い傭兵団もまだ無事よ」


ビルブラッドから剥いだ爪を咥えながら女は楽しそうに嗤う。


「あなたの嫌悪も、あなたの憎悪も奪いはしないわ。あなたの復讐はあなただけのもの。存分にスレイマンを憎みなさい。あなたが望みさえすれば私が祝福してあげてもいいのよ?」

「お前が俺を繋ぐ前なら喜んで祝福されたんだがな」

「あら残念。私があなたを愛する未来も、あったのかもしれないわね」


カツカツカツカツ、と、螺旋階段を降りる二つの足音が響いた。

一人は牢の番兵で、もう一人は顔を包帯と呪符で覆った奇妙な人物だ。


「公妃様、そろそろお時間で・・・」

「邪魔よ」


先頭に立ち、声をかけた番兵の首が飛ぶ。

光る短杖を右手に持ったままどしゃりと倒れると、石牢の中に大きな血溜まりを作った。


「・・・・・・下民にはわからぬのです。ご容赦ください」

「ゴーマ、牢番はもう少し血の巡りの良いものにしておきなさい」

「なまじ機転の利く者をいれますと、邪念を抱くものもあるかと愚考しますが」

「ならあなた達の誰かが務めなさい」

「・・・S級冒険者に、牢番を、ですか?」

「不満?私からみればそこの愚図もあなた達も一緒よ。旗の色が違うだけあなた達の方がマシだと言うだけだわ」

「それは残念な評価ですな」


法衣を着込んだ男・・・ゴーマは奇妙に重なる笑い声を上げた。

包帯と呪符に巻かれてその顔を見る事はできないが、唯一光る赤い眼だけが、楽しそうに三日月型に歪んで見える。


何かを言おうとした女の顔に一瞬だけ深い影が差した。

マナの流れが、自分の罠が食い破られたことを教えてくれる。


「・・・・・・備えなさい、ゴーマ」

「どうした神将、顔色が優れないな・・・・・・俺の三勝目で良いのか?」

「・・・どうして敗れたのかしら?黴の生えたダークエルフどもには決して勝てないはずなのに」


ビルブラッドが笑う。


「何がおかしいの?」

「新しき風、芽吹く命。エルフに愛される名だと思わないか?当代の稀人は」

「・・・・・・人間には過ぎた名前ね」

「だが、お前にならわかるだろう?」

「セルシス。いかにもアンカネブラやレプロンが好みそうな名前。好みじゃないわ」

「昔のお前なら好みの名前だったんじゃあないか?」

「黙りなさいビルブラッド。殺すわよ」


剣呑な雰囲気を壊すようにゴーマは血に塗れた短杖を取ると、躊躇なくビルブラッドの顔を打ち据えた。

口の中が切れ、血と混ざった唾をビルブラッドは飲み込む。


「・・・そうね。世界樹ごと、稀人ごと、あの醜いダークエルフどもを滅ぼしておきたかったのだけど、いいわ。それなら私がこの手で滅ぼせばいいだけだもの」

「殺しておかなくていいのか?」

「・・・なに?」

「俺を殺せる最後の機会だぞ。俺と、エルフどもと、稀人が手を取ればお前でも滅びるかもしれん」

「ありえないわ」

「だが北の神将は滅びた」

「あなたがエルフと手を組むなんてありえない。それくらいには、私はエルフどもを信じているのよ。その浅薄で下衆な魂を。度し難い屑どもの事をね」


女は短杖を振り上げ、一息に振り下ろした。

ビルブラッドの右肩に叩きつけられた短杖が折れる。握りしめた部分は木端微塵になって原型を残していない。魔力による身体強化を貫いて皮が裂け、鮮血が飛び、女の白磁の肌を朱に染める。


「・・・・・・攻守交代の時間が来たと知れ、神将」

「そうね。出来る事ならあなたが私に教えてちょうだい。稀人とエルフが滅びる前に。出来る事なら、ね」


女の背で、豊かな黄金の髪が生き物のように蠢いた。

畏怖を感じさせるような美貌を持つ南の神将は、クスクスと淑女のように嗤った。

友人に薦められて川崎バルザックのツイッターを始めようか悩み中です。

つぶやく暇があるなら書け!!と言われそうで・・・・・・ぐふっ(吐血)

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