いや、もう死んだ
俺とフェイの仕事は今日も順調だった。
朝から眠そうな顔で宿に来たフェイをからかい、二人で一緒に朝食を食べると冒険者ギルドへ向かう。
受注するのは雑用みたいな下級冒険者向けの依頼と神殿からの警邏依頼だ。
「セルシスさんはE級への昇格申請ができますね」
受付のお姉さんが中原日菜みたいな声で言う。
どうやらここ数日の実績で条件を満たしたようだった。
ちょっと早くない?と思ったけど、F級をジュニアデビューしたばっかりの声優だと想定するならE級はジュニアギャラでコンスタントに仕事してる声優か・・・・・・うん、確かに仕事量で考えたらE級でおかしくないかも。
「昇格って手続き大変だったりします?」
聞いてみるとお姉さんは申し訳なさそうに今はできないのだと言った。
戦闘能力を確認する実技試験みたいなものがあるらしいんだけど、試験官を務められるような使える冒険者は魔神対策で出払ってるためしばらく試験は難しいらしい。
筆記は不要で実技審査だけ必要みたいだが・・・まあ急ぐ理由もないから後々で構わないだろう。
それよりお姉さん、中原日菜と同じで酒はいけるクチですか?良かったら今晩一杯どうです?と声をかけようとしたところでフェイに耳を掴まれて連行される。痛い痛い痛い!!!!
そこからは怒涛の雑用ラッシュ。
基本的には運送ミッションなんだけど、合間を縫って昨日のフェイガールズ最年長おばあちゃんにグラムコスルの根を少量だけど届けて上げたり、孤児院の子供たちと清掃作業をしてみたりもした。
昼にはベイズ・ベリーズでドミの猫耳を撫でて午後からは神殿へ。
ピサンティエ神殿では面長で司祭服を着込んだ身分の高そうな男性が出迎えてくれた。くしゃっとした髪もあいまって俺にはベネディクト・カンバーバッチにしか見えない。見えないが、なんだかとても大仰な所作で喋る御仁だ。
「と、いうことでありますからして。昨日当神殿でなされたことをお知りになり大司教様は感じ入ったのであります。おもえば、昨年大司教様はこうおっしゃられました。『神の言葉が心に届かぬ者は白木の杖の届かぬところに座している』のだと。私はこの言葉に感銘を受けた事を今でも覚えております。だが、それなのに、私はその言葉を踏まえて何を成せばよいのかを・・・・・・・・・・・・」
あ、うん、ごめん。多田野曜平みたいな声だからもっと聴いていたいような気もするんだけど、もう少し普通に喋ってくれる?あと、もう少し省略して。
なんかほっといたら寝そう。校長先生とか来賓の祝辞を聞いてる感じに近い苦行だね!
あ!フェイの奴、あくびを隠してもいねえ!!?
ほどほどに生返事を返しながら何が言いたいのか要約してみると、どうも神殿では昨日俺が作った簡易チェックシートの評判が良かったらしい。
そこでピサンティエ神殿を預かる大司教様は「これって便利なんだから他の神殿でも広めた方がよくない?指示も上手だったらしいし、どうせならよその神殿まで冒険者への警邏指導員として出向させちゃいなYO!研修とかOJTとかさせちゃいなYO!下級冒険者への指名依頼って事で、お代はうちが払ってもいいからさ!」ってな事をおっしゃったんだそうな・・・いや、もっとちゃんとした言い方ではあったんだろうけども。けどもー。
へいへいとろくに聞きもしないで頷くフェイの背中を押して、麦の神アラヴィスムの神殿、商いと旅人の神アンカネブラの神殿の2ヶ所で同じように冒険者の取り纏めを行い、再度ピサンティエ神殿に顔を出して警邏の手伝いをしたところで今日のお仕事は終了。
昨日より少し早いから一杯飲むくらいできるかな?と、フェイと二人で飲みに行く。
・・・・・・のだけど、なんというか、飲み屋さんはどこもあんまり活気が無い。
いつも騒々しい大衆系のお店がほどほどに静かにしているので、今日は半個室みたいな少し高めのお店に行った。
グラスに注がれた琥珀色の酒と魔石で作られた氷を軽く混ぜて飲む。バーボンウィスキーみたいな味わいで美味い。
「昨日警邏で回った時よりも人が少ない気がするなあ?」
「そりゃ仕方ねえだろ。いつも飲んでるような景気の良い連中はだいたい魔宮の森に入ってっからな」
フェイが言うには、かなり大きめの中継拠点が築けたそうで、冒険者を中心に、それこそ何百人という数が寝泊りできるような状態になっているらしい。
「そんな拠点どうやって作ったんだよ?」
「オヤジが魔術師ギルドに依頼したんだよ。土魔法が得意な導師級をかき集めて、一気に砦みたいなのを作ったらしいぜ。見たわけじゃないから詳しくは知らねーけど」
「攻め込むための中継拠点かー。何百人も集めるくらいだから、ほんとに全力で魔神討伐に乗り込む気なんだな」
フェイはちょっとだけ唇の端を歪めて苦い顔をする。
「マナ溜まりの近くにゃ珍しい魔獣や魔物が増える、そこそこのパーティーで素材を剥いで稼ぎ続けりゃ金持ちになれる、なんて気持ちで攻め込む気がない奴だって結構いるはずだぜ」
「・・・そんな奴もいるんだな」
「B級に付いていったC級はだいたいそんな奴だろうな」
飲んでいた酒の味が鈍くなった。
庭での事を思い出して少しだけ心に波が立つ。
「でもまともな・・・というか、ちゃんと強くて魔神討伐できそうな冒険者だっているんだろ?」
「まあな。拠点に行った連中の中じゃA級冒険者のサンドラップが頭一つ抜けてる。熊獣人のラズンズ、≪牙折り≫レイン、≪三剣≫ホロゥストークも強い」
「≪牙折り≫と≪三剣≫ねぇ。二つ名ってあった方が強い気がするんだけど、サンドラップとラズンズには二つ名ってないのか?」
「獣人に二つ名を付けることはねえな、名前が神聖なものだから付けられるのを嫌うんだ。サンドラップは・・・ありゃあ、なんだ。その・・・」
なんだか歯切れの良くないしゃべり方をするフェイ。
「C級だったダーナにだって≪緋蜂≫なんて二つ名があるんだし、A級で強い人に二つ名が無いって変な感じがするんだけど。なんかつける基準があんの?」
「いや、ほら、二つ名ってのはさ、周りにいる奴がそいつのやった事にたいして自然に呼び始めるもんなんだよ、あとは・・・・・・戦い方の特徴とかでな!」
「・・・・・・えーっと、つまり、そのサンドラップって人は、強いけど目立って活躍してるわけじゃないって事?戦い方も普通で特徴が無い?」
「はっきりいっちまえばな。でも強さは本物だ。ダンブランだけじゃなく、王都まで含めても槍使いの中じゃ一番強いんじゃねえかな」
「そりゃ凄いな!?だったら≪剛槍≫とか≪神槍≫とか呼ばれても良さそうなもんなのに」
あー、と、ため息まじりに声を出しながらフェイがグラスを置く。
「そう呼ばれてた冒険者は別にいたのさ。もう死んじまったけどな」
ちびちびと酒を飲み、まったく酔えないまま宿屋の前でフェイと別れる。
階段で2階へあがって自分の部屋に入るとすぐにごろんとベッドに転がった。
しばらく横になり仰向けの時間を過ごす。
魔宮、拠点、冒険者。魔神、マナ溜まり。ダーナ、ゴンベック、アンリ。
眠ろうとすると脳が考え事を始めて目が冴える。
起きて少しストレッチでもしようかと明かりの魔術で部屋を照らし、浄化魔法を使って身体と服を綺麗にしたところで・・・・・・窓の外から、コンコン、とノックの音が響いた。
・・・・・・?
コンコン。
聞き間違いではない。扉ではなく、窓だ。2階の部屋の窓がノックされている。
日本ならお化けでも出たんじゃないかと嫌な気持ちになるところだが、ここでは怖くなかった。
ここは商人ギルドの近くで治安の良い区域にある宿屋だったし、なにより、魔神や魔獣なんて化け物の類ならノックはしないだろう。
不思議に思いながら窓を開けると、俺を押しのけるようにして細身の女がずるりと部屋の中に入ってきた。
「え!?ちょ?・・・・・・・・・・・・はぁっ?!」
窓から現れたのは小顔で細身の美女だった。
簡素なベストに身を包んでいても十分に女性的な身体をしている事がわかる。
無造作に伸ばしたダークブロンドの髪は光を吸い込むような艶で輝き、一度見ると目が離せない。
そして、髪に引き付けられた俺の目は、彼女の目と合い凍りついた。
敵愾心に染まった美しいヘーゼルアイズ。苛烈な怒りさえ感じさせるような燃える目で彼女は俺を見る。
「お前がセルシスか?」
不機嫌さを隠そうともせず、生意気そうな顔で問う美女。
「は?・・・いや・・・・・・・・・・・・は??」
状況がまったく理解できずにうろたえる。
なんで2階の窓から美女??おやかたー!空から女の子がー!みたいな事?
なんだこれ??しかもなんか怒ってる!?なんで??なんで???
混乱する俺に美女が近づき、手を伸ばす。ぎりっと音がするほどの力で襟首を掴まれ、唇が付きそうな距離まで力づくで引き寄せられた。
もうなんか殴った方が早いんじゃないかってくらいの勢い。
「おまえが、セルシスか?」
「は・・・・・・え、いや、はい」
「よし、なら来い」
そのまま彼女は俺を引きづるように部屋を出ようとする。
「ちょ、ちょっとまって!!」
手を外そうとするが全然かなわず、両手を使ってなんとか振り払う。
「なんだかわからないけど一回整理しよう。えーっと・・・どちらさまですかね?どこに連れて行こうとしてるんです?あと・・・・・・・・・あと・・・なんのようで?」
「俺はヴェラーラ。魔宮にお前を連れて行く。魔神を倒しに行くんだ」
「・・・・・・それならダーナたちが行ってるでしょ?ゴンベックだって・・・」
「あれは死ぬ」
その言葉は淡々としていた。
一瞬、何を言われたかわからず俺は聞き返す。
「は?」
「いや、もう死んだ」
戦の神ヴェラーラは、俺の目の前でそう言った。
いつもありがとうございます。
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