↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/86

勝手な事ばっか言いやがって

「残りも時間の問題だ」

「ど・・・」


どういうことだ、と聞く前に、扉が乱暴にぶち壊された。

無数に撃ち込まれる闇色の魔弾をかわしもせず、ヴェラーラは魔力を纏った手で握りつぶしていく。


「てめえ!ダチ公をどうする気だ!!」

「魔宮に連れて行く」

「やらせるかよ!!!」


無詠唱で生み出した闇色の魔弾をあられのように放ちながら、双剣を抜いたフェイが飛びかかる。身体強化で加速した一撃をヴェラーラは顔色も変えずに素手で受け止めた。そのまま体当たりのようにフェイは身体を押し込み、もつれあうように開け放した窓から2人が落ちる。


「ちょ!?ここ2階!!」


窓に駆け寄って見下ろすと、2人は無事に着地したのか傷一つ負った様子は無い。


「あぶないな、怪我でもしたらどうするんだ」

「トーキー!おさえろ!!」


フェイが叫んで切りかかる。物陰から飛び出した大柄な男が投げ縄のようなものを振りまわしてヴェラーラを牽制する。

それを目で追いながら・・・正直に言って、思考は追いついてこなかった。


窓から来た女はヴェラーラと名乗った。ヴェラーラ。それは戦の神の名だ。

女の姿と記憶の中にある神像の姿が重なる。

剣が無い事と、代わりに俺を見る目に険がある事を除けば、間違いなく本人だろう。


何をしに来た?俺を魔宮に連れて行く?魔神を倒しに行くと言った。なぜ??

魔宮にはたくさんの冒険者がすでに向かっている。魔神を倒しに行っている。ダーナもゴンベックもアンリも。



あれは死ぬ。



ぞっと、その淡々とした声音が俺の耳にへばりつく。



いや、もう死んだ。



ヴェラーラは確かにそう言った。死んだのか。ダーナが、ゴンベックが、アンリが。名も知らない冒険者たちが、魔神に負けて。

だから俺に来いと言うのか、俺に魔神を倒せと言うのだろうか。


君は残酷な現実と向き合うべきではない。私が言える最大限の言葉だ。

レプロンはそう言った。時の神が。未来の選択肢を示してくれた神が言った言葉だ。

残酷な、現実。これがか。こんな事がか。


「うごっ・・・!!」


低い声を漏らして大柄な男が膝から崩れ落ちる。

ヴェラーラは男の肋骨を砕いた拳を軽く開き、空気を裂くような勢いで振り抜かれたフェイの双剣を掴みとって笑った。


「お前は強いな。良い腕だ」

「化け物に褒められても嬉しかないね!!・・・アンバー!!まだか!?」


フェイが俺を見る。正しくは俺の背後を。

振り向けば2人が俺の部屋に入っていた。小柄な男と泣きぼくろのある女だ。

どちらも薄汚れた格好をしていたが、どちらかと言えば女の方が目を引いた。

酌婦・・・いや、娼婦だろうか。緑の髪を胸元まで伸ばした、色気のある女だ。


「あんたはこっちにきな」


そう言いながら女が俺の手を掴む。くそう、次から次へとなんなんだ。

叫びたくなる衝動を抑え付けて俺はフェイを見た。


闇色の魔弾を数えきれないほど浮かべて、それを時にぶつけ、時に足場に使って縦横無尽に跳ねまわりながらヴェラーラと斬り合っている。初めて見るが、おそらくあれがフェイの本気なんだろう。

まてよ、まてまてまてまて。

なんでフェイはヴェラーラと斬り合ってる?どうしてこの部屋に飛び込んできた。戦う理由なんてないだろう。


「ほら!早くしな!!くるんだよっ!」


女が手を引く。小柄な男が焦れたように刃物を抜くと、女も頷いてダガーを俺の首に突きつける。


「痛い目にあいたくなかったら来るんだね。ここで怪我したくないだろ?」


耳元で女が囁く。

刃先が首筋に刺さる。ぷつり、と皮が破れて血が出た。小さな傷から、細く血が流れていく。

痛いような痒いような変な感覚。考えが纏まらない。フェイとヴェラーラが戦う理由なんてないはずだ。

ダーナたちの件だってちゃんと聞きたい。



残りも時間の問題だ。



確かにヴェラーラはそう言った。時間の問題ってことは、まだ誰か生きてるのか。魔宮に今から俺が行けば何か変わるのか?今から向かえば誰か助けられるのか?一つずつでもはっきりさせたい。


「ほら、いくよ」


べろり、と嬲るように女が俺の耳をねぶった。そもそも、こいつらは、なんなんだ。あああああああああああ、もう。どいつもこいつもちょっとまて!!!


「どいつもこいつも、勝手な事ばっか言いやがって」


ぼそりと言った。無性に腹が立っていた。

こいつらにも、フェイにも、ヴェラーラにも、神様にも魔神にも俺にも。


全力で身体強化を使う。掛け値なしの本気で。すべての加護も同時に使用した全力の身体強化を。

皮を、骨を、神経を、血管を、血を、腱を、屈筋を、伸筋を、関節を、筋膜を。身体を構成する部品で俺が知る全てを個別で認識して魔力で強化する。どれだけ消耗しようが構わない。

首筋に触れてるダガーの先に指をあてて力任せに刃先を潰した。歪んで折れた金属片が足元に落ちる。


「・・・なんだい・・・・・・あんた、なん・・・なんだい・・・・・・??」


力の抜けた女の手から刃先の無いダガーを奪い、粉々に砕いて捨てた。

怯えたような顔で俺を見る男の意識を光の魔弾で断ち切る。


女は泣きそうになっていた。恐怖で立っていられなくなったのか、座り込むと自分の両肩を抑えてうつむき、大きく跳ねるように震え始める。


俺は女を一瞥し、それから窓へ身を躍らせる。

冷静に考えれば2階から飛び降りるといってもせいぜい5メートル。脚から落ちれば酷くても骨折で済む。身体強化を使えば怪我なんてするはずもない。


「漆黒の渦、浮かび飲みこむ虚空の暗礁、暗夜を喰らい、漲れ!吼えろ!!!」


フェイの放ったのは巨大な闇色の球体。大きくカーブしてきたその魔術を見てヴェラーラはニヤリと笑うと、壁に無造作に立てかけられていた材木を掴んで投げつけた。

ガオン!っと鈍い風切音。食いちぎられたような半円の跡をつけて材木が砕ける。

フェイが走った。無詠唱で生み出す無数の闇色の魔弾と、空間を飲み込む暗黒球と、双剣を振るってヴェラーラに挑む。

それは美しささえ感じるような戦いだった。俺が観客だったら喜んで決着がつくまで見ていただろう。

だが、俺は当事者だ。


『砕けろ』


その一言で魔弾が砕けた。暗黒球が砕けた。フェイとヴェラーラの足元が円形に砕けてひび割れる。

身体強化を砕かれたフェイが唖然とした顔で俺を見た。


「フェイ、説明しろ。なんでいきなり入ってきて、なんでいきなり攻撃したんだ」


俺の身体強化をまじまじと見てから、フェイは考えるように目をそらした。それから双剣をおさめて言う。


「オヤジの命令でお前は見張られてた。冒険者ギルドの連中にな。俺は少し離れたところから、その女が窓から入ろうとしてるのを見つけた・・・・・・驚いたぜ。見た事もない女だ。なのに一目見て、絶対に俺じゃ勝てねえってわかった。ダンブランでそんな奴は5人もいねえのに、俺が勝てねえ女だと」

「勝てない相手なんてたくさんいるだろ?フェイはこないだまでC級だったんだし」

「表向きはな。ギルドの裏で仕事してる掃除屋としてなら、俺はS級だ」


ばつが悪そうな、イタズラがばれた子供のような顔でフェイが言う。


「前に人間に化けてる魔神、って話ししただろ?正しくはな、人間に化ける魔神はいないらしいが、強い魔神は人間みたいになるんだそうだ」

「・・・上位魔神は人間に化けられるってこと?」

「いや、上位魔神より上がいるらしい、化けるんじゃなく、そもそも化け物みたいな姿じゃねえんだと。詳しくは知らね」

「魔神将だ」


ヴェラーラが言った。フェイは油断なく剣に手をかけると、俺とヴェラーラの間に立つように動いた。


「俺には、あいつがその・・・・・・魔神将?ってのに思えた。あとは、お前が知るままだ。ヤバイと思ったから人数を揃えて・・・俺が引き離して時間を稼ぐ役、アンバーたちがお前を安全な場所に連れて行く役だった」


なるほど、そういうことか。俺は身体強化を消してため息を吐く。


「安全な場所って・・・それならもうちょっと、それっぽく連れてってくれない?俺、あの色っぽい女の方に血が出るくらい首筋刺されたんだけど。拉致する気にしか見えなかったよ?フェイ」


フェイが、あちゃー、と言うように手のひらで顔を覆う。


「あのバカ・・・・・・・・・!!あー、セルシス、人選に間違いがあったのは認めるぜ。でも言っとくが俺が選んだメンツじゃねえからな!?全部オヤジが選んだんだからよ!!」

「それとなくでも紹介してくれてたらこっちも対応が違ったんだけど」

「それとなくでも紹介できるようなメンツなら紹介してたっての!・・・・・・だいたい、窓から入ろうとする方が悪いんだぜ?あんなの怪しんでくれって言ってるようなもんじゃねえか」

「見られたくなかったからな。普通に入ったら目立つだろう?」

「・・・・・・・・・なあねーちゃん。するってえと何か?あんたは、なるべくコソコソと目立たないようにしたくて・・・窓から入ろうとした、ってことか?その髪で?その顔で?あんたみたいに目立った良い女が??」

「そうだ」

「じゃあなんでぶら下がって窓叩いてたんだよ!?ささっと入れば良いじゃねえか」

「ノックして入れってアンに言われてたからな」


フェイが再び手のひらで顔を覆う。

それからこれ以上ないってくらい顔を歪めて絶叫した。


「なんでだよ!?なんで俺の周りの女はみんなこういう方向のバカなんだ!?なにもアンカネブラに会わせろとか女神の胸を揉ませろとか無理言ってるわけじゃねえ、せめて普通のオツムで普通に行動できる普通の女に会いたいってのはそんなに難しい事か!?なあダチ公!!!」

「ちょっと声がでかいよフェイ」


ギリギリと歯を食いしばって葛藤を終えたフェイが半眼になって言う。


「・・・なあ、お前の事を魔宮に連れて行くとか言ってたこのねーちゃんは信用して良いのか?俺の魔弾を素手で潰すだとか、剣の刃をつかんで怪我もしねえとか、魔神じゃなかったら神様なんじゃねえかって疑うくらい人間離れしてんだけど」

「正解だ」


ヴェラーラは答えて胸を張った。


「・・・・・・あん?なにが正解だって?俺より強い物知りなねーちゃんよ」

「俺は戦の神ヴェラーラ。そこの稀人を魔神のところまで連れて行くためにここへ来た、神だ」


棒を呑んだように固まって、フェイが口をぱくぱくさせながら俺を見た。

・・・・・・・・・・・・あー、こりゃもう、いっそ全部話すべきかなぁ。

俺もヴェラーラに聞きたい事がある。でも今は、足を止めてのんびり会話している一秒が惜しい。


「ヴェラーラ、門は閉じられてるけど大丈夫?できるなら魔宮の森に向かいながら話そう。フェイも」


魔宮の森。魔神退治。今だって喜んで戦う気持ちにはなれない。

でも、自分で決めて残ったんだから、誰も助けられないで終わるのだけは嫌だ。

今週の更新はこれで終わりになります。

仕事の関係で月曜に更新できるか少し怪しいのですが、なるべく・・・更新します・・・!!


また、次週くらいから血なまぐさい描写が増えます。死者も増えます。

ブックマークして下さっている皆様、評価して下さった皆様、感想を下さった鋼矢様、高階様、読者の皆様、本当に、いつもありがとうございます。


拙い文章ではありますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。