6 僕
電車のアナウンスがまもなく目的地に着くことを告げていた。僕は開いていた本を閉じる。しおりを一番最初のページに投げ入れて。ちょうど読み終わった所なので、もう必要なかった。なかなかの面白さだった。少なくともここ最近読んだ物語の中では一番の面白さだ。こんな本が棚の端っこに追いやられていたのが不思議である。大して面白くもない本がスポットライトを浴びているのに。
電車から降りて改札を目指す。隣を歩く、制服を着た二人組の女の子の声が自然と聞こえてきた。
「マジさっきのないわ」
「ホント。うるさいっつうの」
「うちらもよく声が大きいって言われるけど、あれはないわ」
「マナーを守れっての」
「つーか右の女、金髪似合わなすぎてマジ笑えた。センス疑うわー」
「ミキもそう思った? マジうけるよね」
ものすごい掛け合いが続く。お笑い芸人のそれよりも素晴らしかった。彼女らが漫才を覚えれば、大勢の人に笑顔を届けられるだろう。
それにしても彼女たちは何を話しているのだろう。電車の中で何かあったっけ? 駄目だ。思い出せそうにない。
改札を通り、駅の構内を出ると、僕は家の方向に歩き始める。高校の時も電車で通っていたからこの道はもう何回行き来しているか分からない。散々建物や木々など観察しながらここを通っているから、もう何も見る物はない。道路のコンクリートのひび割れも正確に頭の中に思い浮かべることができるし、電柱に書かれている番地も覚えてしまった。それくらい見つくした。
何も考えず、ひたすら前に進む。右足の前に左足を出す。そうしたら今度は右足を左足の前に出す。ただこれの繰り返し。つまらないけど、これだけで前に進める。先へ行くことができる。それがとても羨ましかった。




