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5 僕

 駅に向かって長い坂を下っていく。まだ三時前ということもあり、同じ方向に歩く人々は少なかった。授業やサークル、無駄話などみんな忙しいみたいだ。

 改札を通ると、僕はベンチに腰かけ、本を読む。今とてもはまっていて、ジャンルはファンタジーだ。小説に限らず、何か文字を読んでいるとその間だけ周りの世界とはかけ放される。僕はその瞬間が好きだった。特にファンタジーはその中に取り込まれる。だから止められない。

 十ページほど読み進めた所で、電車が入ってきた。二、三両が僕の前を通り過ぎた。僕は車両の中ほどから乗った。そこから降りる人も、また他に乗る人もいなかった。

 電車の中は冷房が利いていた。少し寒いくらいだった。空いている席を探すと、すぐ近くに二人は優に座れそうな所があった。僕はそこに腰かけた。

 左手に持っていた本を開く。先ほどの途中から読み進める。全五シリーズの最終巻で、あと五十ページもないだろう。一番盛り上がっている所だった。意識を集中して、目の前の文字を頭の中で映像に変換していく。

 だけどそれはすぐに断念せざるを得なかった。向かい側、右斜め前から奇声が僕の耳を突き抜けていく。見ると、二人組の女が自分達の世界を構成していた。そして破滅の呪文を唱えていた。僕から見て女の左隣に座っている主婦はしかめっ面をしていた。右隣の老人は瞑っていた目を時折右側だけ開け、横目で女を見ていた。見事な流し目だった。おそらく歌舞伎役者だったに違いない。

 僕はもう一度目で字を追ってみたけれど、やはり駄目だった。頭の中に槍が刺さる。その状態では場面を想像することはできなかった。

 僕は左のポケットに手を入れて、スイッチを握った。呪文の段階でこれだけの被害を出すのだから、それが唱え終わったらきっと大変なことになるだろう。爆弾の場所を探す。こういう奴らは口の近くにあるはずだ。

 よく見ると、やっぱり付いていた。一人は唇の横に、もう一人は上に小さな、本当に小さな僕だけの起爆装置がある。あとは遠隔操作で点火するだけ。カウントダウンをする。もちろん心の中で。

 5、4。

 僕は少し前に身を乗り出す。

 3、2。

 左手に自然に力が入る。

 1。

 ゼロを言うと同時に左手のボタンを押した。僕だけにしか聞こえない爆撃音が聞こえた。

 これで静かになった。落ち着いて本が読める。僕は読書を再開した。

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