第八話 俺には地雷(トラウマ)が多い
いやね、もうね。いっぱいいっぱいだヨ。助けてマリエル。
今俺は就職活動末期以来の絶望的な戦いを強いられているよ、みんな。
今回も『奴隷市場』の現場からジオ・パラケルスス・ラ・テオフラストゥスがお送りします!
アホ、俺のアホ。
まったく失敗だった。思いついたときはまだ『ゲーム』の延長線上で考えてた。
もう一度いう、俺のアホ!
だってさ、現代日本で暮らしてた元日本人が『人を買う』ってどんだけ?って話ですよ!
人身売買ですよ?じ・ん・し・ん・ば・い・ば・い!人殺し並みに抵抗あるわ!
もうちょっと良く考えとけよ!この能無し!(自分の事ですヨ。)
ここまでリアルだとか考えもしなかったわ!胃に穴開きそうだ~。
う~~~~~しかもまだPKもあるんだもんなぁ………。
(PK=プレイヤーキラー プレイヤーがプレイヤーに攻撃を加えて殺す行為。《New World》ではかなり高いリスクが存在するがシステムとして存在している為可能。)
胃がもつかな………。行く世界まちがえたかもな~。
だがもう『サイは投げられた』し、既に俺は『ルビコン川を渡った』のだよ!
いまさらひけませんヨ。
そろそろ何故俺がこの『従者システム』を利用しようとしたかの説明をしないといけないだろう。
《New World》に限らず他のMMORPGでも、いやそれどころか元の世界であってさえ数が多いという事はそれだけで絶対的な力だ。
俺は確かに神様から戦士系職と魔法系職の双方を一度に極める可能性をもらってはいるが、それはあくまで『1人で二役こなせるすごい奴』がいるだけであって、それぞれの能力が俺と同じくらいの奴2人がかりでこられたらよくて互角、普通なら負ける。
もし二人で俺に勝てないなら5人、それでダメなら10人。
そうなれば確実に勝てない。俺は決して無敵ではないからだ。
この世界ならレベルの差が20もあればそれでも切り抜けられるのかも知れないが、俺の力がいきつくところまでいっても一人でボスモンスターを倒す事も戦争に勝つ事もできないのだ。
(核熱はたしかに最強の魔法ではあるが、それでも一撃くらいならシャットアウトする方法はいくつも存在し、燃費が悪すぎるので連発できる代物ではない。)
確かに俺が神様に頼んで授けてもらった『ダブルジョブ』の才能というのはすさまじいが、逆に言えばあくまでその程度のもの、ともいえるのだ。
その程度の力では到底俺の『願い』には届かない。
だから俺がこの先冒険者として生き抜いて行くためには、絶対に俺のことを助けてくれる仲間が必要だ。
但しただ仲間が多ければいいというものじゃない。
『船頭多くして船、山登る』とはよく言ったもの。
必要なのは俺と同じ夢を見てくれる奴、俺を信じてついてきてくれる奴だ。
その為の最初のステップとしての『従者』だし、その為に俺は『他人の人生を金で買う』のだ。
自分でも思う、ひどい人間だと。
それでも俺は形は違えど、俺が一度失ったものを必ず取り返すつもりなのだ。
諦めるつもりは無い。
それが”日本人 中村 秀人”への”ジオ・パラケルスス・ラ・テオフラストゥス”からの何よりの手向けなのだから。
◇◆◇◆◇◆◇◆
およそ30分ほどだろうか?
入り口近くの応接室で待たされた俺達がシランさんに呼ばれるまでにかかった時間は。
この対応で彼がどの程度俺の考えを理解できているか分かる。
『普通の商人の考え』なら俺の『全部』の意味をきちんと理解していないという事だからな。
俺が言った『全部』の意味、それは現在彼らが売りたい商品だけを出すのではなく、それ以外も全部、可能な限り見せろという意味だ。
そのまんまの意味だが、商人とか商売人っていうのはその辺賢いからな。
さて行くか。俺が立ち上がるとじぃと先生も俺の後ろに従ってくれた。
ドアを開けるとシランさんがそこにいて、「旦那様、お待たせいたしました。どうぞこちらへ。」と俺達を先導してくれた。
中への間仕切りになっているカーテンを開けるとそこは………モーセ?ですか?っていう光景が広がっていた。
そこには首輪をした人でできた壁があった。
会社の会議室ほどの空間を埋めるように整然と並んだおよそ100人程の奴隷の皆さんが、俺たちの歩く為の花道を残して整列していたのだから。
おまけに背の低い者は花道から見て前側に座り、その後ろに中腰の人が並び、さらにその後ろに立っている人たちが並ぶという組み合わせの三列が花道を挟んで両側に………。
それから誰を見るともなし見て気がついたのだが、奴隷という割にはみんな身奇麗にしているし、思っていたよりも薄汚れてもいなかったのはこの男がこの店を仕切っているからだろうと思った。
それともやっぱりこの店の経営者はこのお兄さん以上の傑物なのか?
ん~~~~想像がつかんな、考えるのやめよ。
それにしても俺の横で愉快そうな笑みを浮かべているお兄さんは、俺をどれだけ驚かせたら気が済むのだろうか。
にゃろう、完璧以上に理解してやがったよ。予想以上ですよ。認めますよ!
『普通の商人』なら今高く売れる商品とさっさと売ってしまいたい商品だけ並べるはずだが、この人数は俺の『全て』っていう意味を正しく理解して、今現在本当は売りたくない者を含めて、文字通りこの『奴隷市場』にいる奴隷『全て』をここに並べたに違いない。
さらに『私はきちんとあなたの言うことを理解しています。』ってアピールもかねているのだろう。
さすがにじぃも先生も俺の後ろで唖然としている。
まったく………このお兄さんは何者なんですかね?妖怪か?サトリか?
そんな事を軽く口を開いた若干アホな表情のまま考えている俺に、シランさんは満足そうな笑顔でうやうやしく俺に頭を下げてきた。
「旦那様のご依頼通り、今この奴隷市場で管理しておりますものですぐに集められる者を全てこちらに並べてございます。
どうぞ如何様にでもお好きにお選びくださいませ。」
そういって俺の脇にひざまづいて控えてしまった。
うん、この人敵に回すのはやばいね。
それはそうとして。
………はぁ、やるしかない、か。
「まずは急に集まっていただいた事に感謝を。
シランさん、まずこの人全員に今晩おいしいものが食べられるようにこれで手配していただけますか?」
そういって俺は100Gシランさんに渡す。
彼は驚きながらもそれを受け取り「ありがとうございます。必ず。」と答えてくれた。
さてと、始めるか。いつまでも、驚かされているのは、俺の主義じゃ、ないんだよ。
「皆さんはじめまして、俺の名前はジオといいます。
皆さんにお願いがあります。
今から僕が質問する事には全部正直に答えてください。
僕は将来冒険者になろうと思っています。
そのために助けになる人を今日は探しに来ました。
シランさん、まずは魔力のある人と無い人に分けてもらえますか?」
そう俺が告げると奴隷の皆さんがざわざわと騒ぎ出した。
そうなるのも無理は無い。
奴隷を買うのにまず感謝の言葉を述べ、彼らの為に金を使い、尚且つ『お願い』したのだから。
後ろで控えてるじぃと先生もあごが落ちそうな顔をしていた。
………おっかしいな、この二人には散々非常識なとこ見せてきたはずなのにな、俺。
ざわめきはまだ収まらないがその中でも奴隷の人たちは粛々と動き、どうやら向かって右手が魔力のあるほう。
左手がない方という形で分かれたらしい。
さてと、じゃあやりますか。
◇◆◇◆◇◆◇◆
今回俺が欲しいのはまず戦闘用の従者『候補』だ。
まずは前衛の戦士系職が1人、後衛の魔法系職が2人。
そう、現時点で強い戦士や魔法使いは特に必要ない。
今相手にしている敵なら俺一人でも余裕だし、必要なら先生に手伝ってもらえば普通に狩りをしている分にはどうとでもなるからだ。
(イナ先生はCグレード、つまりレベル40以上の冒険者だ。
2次転職していないのは彼がレンジャーという職を気に入っていたからである。)
俺が欲しいのはもっと先を見据えた時に俺を支えてくれる仲間候補。
俺はまだ10歳で冒険者として独立するまで、どうしてもあと5年かかるのだから。
年頃は俺と同じくらいがいい。
その方が俺の考える戦術や考え方を一から仕込める。
次にこれから作るつもりの俺専用の薬草園を管理してくれる人間。
当然農業や植物に詳しくて働き盛りのまじめな人間がいい。これが数人。
次にできれば元冒険者でそこそこの腕の人間。
俺が今動けない分、自由に動いて俺のできないことをしてくれる人間が欲しいのだ。
これはプレイ経験上そこそこ値段が高いはずなので無理ならそれはそれでいい。
そういう目で人の壁を見ていると目に止まる少女がいた。
燃えるような赤い髪が特徴的な鳶色の目のかわいらしい女の子。
見た感じ俺と同じくらいか少し年下だろうか?
ひどくおびえた目で俺を見つめていた。彼女の前に膝立ちで座り、その目を見る。
高い魔力を感じさせる鳶色の瞳。
うん、魔法職としての才能は十分だろう。
まず一人、決まりだ。
「シランさん、彼女を。」
ほぉっといった感じの顔を一瞬浮かべたシランさん。今何考えた?まぁいいけど。
「はい、かしこまりました。
アリア、旦那様はお前の事をお買い上げくださるそうだ。
これからお仕えするご主人様にきちんとご挨拶しなさい。」
赤い髪の女の子は挨拶をしようとするが、おびえたように口ごもる。
俺は(嫌われてんのか?)と若干ショックを受けつつ、シランさんを見る。
シランさんが困った顔をして口を開こうとしたその瞬間少女が声を上げた。
「あ、あの!ご主人様にいきなり失礼なお願いだと分かってます!
でも、私とエリアをバラバラにしないでください、私をお買いになるならエリアも!
お願いいたします!私の妹を助けてください!」
目の前の少女、アリアの突然のお願いにびっくりする俺。
え~~とまずエリアって誰?助けるってどういうことかな?
と考えているとシランさんが彼女の顔を叩いた。
わぉ、シランさん顔がマジだ。そして痛そうだ。
「申し訳ございません、旦那様。
私どもの奴隷が大変な失礼を申し上げました。
この娘にはすぐにいいきかせますので、どうか平にご容赦を。
お気に召さなければ他にも旦那様のお眼鏡にかなうものはいるかと思います。
いかがですか?この子はおやめになさいますか?」
俺は正直一切何も怒ってはいなかった。というか訳が分からなかっただけなんだが。
てゆっか全部っていったのにな~とも思ったのだが、それ以上にこれだけ人がいて全部じゃないのか?
むしろそっちに驚くわ!て感じだぜ。
ということで分からない事は聞こう。
「シランさん、まず彼女には妹さんがいるの?それと助けてっていうのはどういうこと?」
「これはこのような事をお耳にお入れするつもりはなかったのですが。
はい、確かにこのアリアには妹がおります。
エリアといいまして、このアリアの双子の妹です。
ただ今………エリアは患っておりまして。」
なるほどそれでここにいない。人前に出せる状態じゃないのか。
ふむ、彼女の双子の妹なら魔法職としての才能はかなりのものだろうし………。
よし、決めた!
「シランさん、二人でいくらかな?あとそのエリアちゃんだっけ?いくらあれば治せる?」
さすがに驚いた顔を隠せないシランさん。ようやく一本取れたらしい、ザマミロ。
驚きながらも俺に確認してくる。
「よろしいのですか?それなりの金額が必要かと思いますが?」
「かまわない。薬が必要なら俺が作る。
診察が必要なら最低限ならそれも俺が出来る。
それでダメでもあてはあるし。
もし魔法による治療がいる状態なら今すぐ神殿に運び込んで」
アルケミストは錬金術師にして科学者と医者の顔を併せ持つ。
そしてその最高峰たる『ヘルメス・トリスメギストス』の由来の一つは、ギリシャ神話のヘルメス神。
彼の杖たるケーリュケイオンは、しばしば同じくギリシャ神話における医療の神、アスクレピオスの杖と混同される。
故に俺が最初に父上から受けたアルケミストとしての教育は、医療に関するものだった。
目の前に手の届く命があるなら助けてあげたい。単純にそう思った。
「それは! ………かしこまりました。
では、2人で5000Gでいかがでしょうか?
ちなみにこれはアリア1人をお買い上げいただく金額と同じでございます。
先ほどのアリアの失礼のお詫びも含めまして。いかがですか?」
「買った。」
部屋全体がどよめきに包まれる。
それが静まるのを待って、俺はもう一度アリアちゃんの顔を覗き込んで笑った。
「これでいいかな?これからよろしくね、アリアちゃん。」
その言葉を聴いたアリアは初めは何が起こったかわからずにいたのか、固まってしまったがその後我に返ると涙を流して俺の足元に土下座してしまった。
ちょっ~~と待ってくれ。俺は女の子の土下座にはあまりいい思い出が無いんだ………。
アレを思い出すからさ!アレを!
そんなこんなで彼女の顔を上げさせようとあわてる俺に彼女は涙に濡れた眼を向けてこう言ったのだ。
「ご主人様、アリアはご主人様に生涯絶対の忠誠をお誓いいたします。
妹のエリアと一緒に、どうぞご主人様のお好きなように私達をお使いくださいませ。」
ン~~~~~~~~ナニ?コレ何ノフラグ?
お読みいただきありがとうございます。
ご意見、ご感想、誤字脱字の指摘など幅広くお待ちしております。
主人公はMMORPGをやった事のある方なら良く分かると思いますが、決して無敵系主人公ではありません。
MMORPG未経験の方は、分かりにくい例かもしれませんが、ドラOエ3の賢者の魔法を使える武道家、FOならFO3の忍者ジョブと賢者ジョブを一度に同じように使える能力と思ってください。
一見最強ですが、二つの能力を持っていても基本一度に行動できる限界は1回ですから。
1ターンにベOマと攻撃をすることも、しゅOけんを投げながらケOルガをかけることも出来ません。
一人で普通にゾOマと戦えば負けます。
同じように暗Oの雲にも負けます。
そういう意味ではチートですが、決して無敵ではないんです。
あと主人公は未だに基本現代日本人の感覚を多く引きずっている為に自分の言動の異常さが頭ではなんとなく理解していますが、本質的にはまったく理解できていませんってことですね。




