第六話 買い物がモノだけとは限らない
トンネルを抜けるとそこはエルトリンシティだった。
うん、なんて文学的才能に溢れた俺。まぁトンネルは無かったがな。
え?パクリ? 某文豪に謝れ? 聞こえませんが何か?
というわけでジオだ!あれから一月、俺は今念願のエルトリンシティにいる。
昔《New World》をやってたころパソコンのディスプレイ越しに何度も行き来した町並みを実際に自分の足で歩いているとやっぱりなんだか変な感じがする。
ワトリアはそういうことを考える前にもう文字通りの第2の故郷になってたからそんなにそういうこと思わなかったんだけどな。
あとやっぱり町の規模がワトリアとはだいぶ違う。
これでも《New World》の中では中ぐらいのサイズなんだが、十分でかくて立派な町だわ。
エルトリンシティでこのサイズとか、アサイオンとかギーレンとかどんだけのサイズなんだよ、おい………。
「ではな、息子よ。決して危ない事はしてはいけないぞ? サバン、イナ、頼んだぞ」
何度も同じ事を繰り返して泣く泣く王宮に向かう父上。
どうも王様から呼び出されているらしい。
あ、ちなみにサバンっていうのはうちの執事のじいの名前だ。
今回じいとイナ先生は俺のお目付け役として今回のエルトリンシティ行きに随行してきたのだ。
………さてと、今回やらなきゃいけないことは4つ。1つずつ用件を済ませて行くか。
「じぃ、先生。じゃあ行こう~」
そう言って俺はすばらしい天気の元、この人生初のエルトリンシティの街を歩き出した。
◇◆◇◆◇◆◇◆
やっぱりゲームと実際は違う。
地図は頭に入っているんだけど、それでもいろいろ物珍しさにうろうろしていると何度か道に迷いそうになってしまい、イナ先生に首根っこ摑まれてメインストリートに戻されるってことを何度か繰り返してしまった。
まるで子供みたいだ、ハズカシイ………。
そうこうしながら商店が集まるメインストリートを抜け、光の神エリーオンの神殿の入り口まで行くと………いた!
ゲートキーパー独特の白い大きなローブを着たお姉ちゃんが!
俺はうれしさのあまりダッシュで駆け寄る。
「おね~~~~ちゃ~~~ん、登録お願いしま~~す!」
ゲートキーパーのお姉ちゃんは、俺の声に気がついて振り返り、俺を見て固まった。
困ったような顔をしながら俺に聞いてくる。
「ボク、お父さんかお母さんは?どこにいるのかしら? ゴメンナサイね、お姉さん冒険者の人たちの為にお仕事してるから坊やみたいな小さな子のお手伝いは出来ないのよ~」
そう言って俺の発言をスルーしてくるお姉さん。
まぁ当然の反応だな、俺10歳児だし。
さてと、では食らうがいい!
幼女様直伝の上目遣いスキル&俺のチートによる非常識のコンボを!
「だから~僕お姉さんに助けて欲しいんだ~♪
ほらほら~調べてみてよ~、僕ちゃんと冒険者なんだよ~」
「はぅ!そんなキラキラした目で私を見ないで!
分かったわ、ちゃんと調べるからってそんなまさか………って本当に?」
ほぅら、驚いてる驚いてる。
年頃のお姉さんがああも口をあんぐりと開けて………あらまぁ。
いつ見てもこの瞬間はいいねぇ………。
チートな自分がいかにチートかを再確認できるこの瞬間はよ!ウケケケケケ!
やがて驚きから開放されたお姉さんは、「ありえないわ」とか「信じられない」とか言っていたが数分たってようやく自分を取り戻すと、俺のゲート使用認証をしてくれた。
よし、今回最大の目標は達成した!あとは口止めっと。
「お姉さん~登録ありがと~♪
それでね、お願いがあるんだけど~聞いてくれる?」
「え、えぇ。何かしら坊や」
動揺しすぎだよお姉さん、かわいらしいけどな。
「あのね~僕変な子って思われたくないんだ~。
だから僕のことはあんまり話さないで欲しいな~。
もし僕のことがいろんなとこに知られちゃったらお姉さんのせいだとおもうからね~。
お姉さんのお仕事って守秘義務?だっけ、大事だよね?
話していいことと悪い事の差くらいは分かるよね?だからお願い~~~~。
………まぁ仮に話したとしても誰にも信じてもらえないと思うけどね」
俺のかわいらしいお口からでる話の内容と、それにまるで似つかわしくない口調のアンバランスさに顔面蒼白になりながらハイスピードで何度もうなずくお姉さん。
うん、動揺しすぎだから。
「じゃあまったね~お姉さん~!」
こうして俺は今回の最優先事項をクリアした!あと3つだ!
◇◆◇◆◇◆◇◆
次に俺は冒険者ギルドに向かった。
《New World》の世界ではギルドというのは2種類存在する。
一つはNPCが運営するクエストを受ける為の施設としての『ギルド』。
これは各町に存在しており、スキルの習得やレベルアップなどのサービスを受けられる所だ。
もう一つがプレイヤー同士の互助組織としての『ギルド』だ。
MMO型オンラインRPGにおいて何かやるのに単独ではほとんど何も出来ない。
そんなゲーム内で気の合う仲間やあるいは利害でつながった仲間同士が結成するコミュニティーの事である。
例えばかつての俺は『不人気職アルケミストの頂をともに目指す互助組織ギルド』、『十七人の賢者』ギルドの一員にしてその代表、ギルドマスターだったしな。
ちなみに『十七人の賢者』の名前の由来は、結成当時に集まったアルケミストおよびその予備軍の人数が17人だったから。
後に《New World》内で、その頂(レベル70)に至るまでは、
『傷のなめあいギルド』だとか、
『もやしっ子の集まりギルド』だとか、
『アルケとか何が楽しいの?』だとか、さんざん罵られ、
そして俺達17人がその頂を上りきった時
『17人の悪魔のギルド』だとか、
『公式チートどもは戦争に来るな』だとか、
『大規模環境破壊ギルド』とか、
とにかく俺たちのギルドがさんざん言われたのも今では遠い思い出だ。
あぁ、俺達にさんざん失礼な口効いたやつらは後で全部《核熱》で焼いたよ?
コレハアタリマエデス。
これでギルドって言葉に二つの意味がある事は分かってもらえたと思う。
さらに、前から話してた『クエスト』にも実は2種類あるんだよね。
一つは《New World》の世界の普通のNPCから受ける『一般クエスト』。
基本的にもらえるものは特殊なアイテムだったり、何かの権利だったりする。
例を挙げれば前に話した『オツカイ』クエストとかあとは転職する時受ける転職クエストなんかがそう。
まぁ普通の人から頼まれていろいろお仕事をするって感じのクエストだ。
もう一つが『討伐クエスト』。
これは冒険者ギルドで受ける事のできるクエストで、決まった内容の中から選んでクエストを受け、それぞれ特定の敵をたくさん倒す事で報酬を得る事ができるっていう、まぁプレイヤーの為のお金儲け用のクエストである。
二つ目の目的はこの『討伐クエスト』を受ける事。
これを受けられるのは各エリア(つまり国)の城のある町の冒険者ギルドだけなんだよね~。
つまりワトリアでは無理なのです。
これが可能になると普通の狩りでの収入がかなり底上げできるから早めに来たかったんだ。
ということで登録だぜ!
………まぁ詳細はさっきのゲートキーパーのお姉さんとほぼ同じ内容が繰り返された為省略するわ。
依頼に関してはちゃんと受けられた。
今回受けたのは、『イアナゴブリン討伐』。
報酬は1匹 1G
職業持ち・下級(ゴブリンにもファイターとかアーチャーとか職業持ちの奴がいる)は一匹5G
職業持ち・上級は10Gって内容。
これで収入アップだぜ!
これで2つ!あと2つだ!
◇◆◇◆◇◆◇◆
次に俺が向かったのは街のはずれにあるマジックアイテムの専門店だ。
うん、店の雰囲気がまじでエキゾチック。
蛇とか出てきそうだもの。ガクガクブルブル。
そうやって中を覗いていろいろ見ていると肌の黒い妖艶なお姉さんが声をかけてきた。
「あら、かわいらしいお客様だこと。坊や、何かお探しですか?」
おぅ………なんてエロくてきれいな姉ちゃんなんだ………。
まるで完璧な彫刻のように美しい顔、輝くような銀色の髪、人でないことを示すとがった耳、そして闇色の肌を見せそうで見えないけど、素敵過ぎる大きな胸はほぼ見えてるという薄手のローブを身に纏った美女がそこにいた。
ダークエルフ。
森の負の部分を象徴し夜に属するエルフ族にして、黒い肌を持つエルフの合わせ鏡。
その人ではありえないきれいなおねえちゃんが俺の前に座り込んでニコニコ俺を見ていた。
う~~ん、まだ子供でよかった。
大人になってたら前かがみで立てないところだったぜ、目の前の光景。すげぇ破壊力。
俺はもじもじしながらも目当ての商品を指差しながら美人のねーちゃんに告げる。
「え~と、コレをくだしゃい!」
やべ、動揺しすぎて噛んじゃった。
「ウフフ、かわいい。ねぇ坊や、お姉さんとあとで仲良くしよっか?
まぁそれはあとにして、欲しいのは………念話石、か。
ふ~~ん、なるほどぉ………、まぁいいわ。
坊や、いくつに加工するの?」
「ん~ととりあえず………30個!」
お姉さんはいぶかしがりながらも、俺の注文を聞いてくれた。
そして仲良くするのは、俺も是非お願いしたい!
マジックアイテム『念話石』。
同じ石から加工された石を持つもの同士が、相手のことを思いながら石を持って集中すると
遠く離れたところにいる相手でもまるで電話のようにテレパシーでの会話(?)が可能になるアイテムだ。
ゲーム内ではこれはゲーム内で仲良くなった友人達といつでも話したり出来るようにするため(これをフレンド登録といいます)に必要なアイテムで、一度契約すれば一方が登録を抹消しない限りその回線はいつでも使えるという優れものだった。
つまりコレさえあれば携帯電話を持っているのと同じになるのだ。
死ぬほど便利。情報を制すものはすべてを制す!ですよ!!
やがて魔法による加工が終わり、お姉さんが小さな皮袋に念話石を入れて渡してくれた。
お代は30個で3000G。
効果と比較すれば非常に安い買い物だ。ていうかありえないなこの安さ。
金を払い俺が店を出際、お姉さんに元気よく
「ありがとうお姉さん!また来るね!」というと
お姉さんがまた俺の目の前に座り込んで俺をぎゅっと抱きしめ(勿論顔に巨乳様がぴったりと!ビバ!おっぱい!)さらに離れ際ほっぺにチュウまでして「また来てね、坊や!」と言ってくれた。
10歳でよかった!心の底からそう思う!
そうして俺は超高いテンションで店を出たのだが、次に行かなくてはいけないところの事を思い出しさっきまでのテンションが下がって行くのを自覚せずにはいられないのだった。
とりあえずこれで3つ。残るはラスト1つだ。
………ラストの場所は元日本人としては少しというかかなり気が重いんだけどな。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「若様、こちらでございます。」
「うん………、じぃ」
じいに案内されながら俺は町の中心部から少し寂れた、もうちょっと正確にいうと退廃的な一角にいる。
よく言うと夜の歓楽街、悪く言うとスラムだ。
まだ昼間だから先ほどまでの明るい町並みとのコントラストの鮮やかさに思わず胸が痛くなってしまう。
ちなみに生き死にという点では怖くは無いよ?
狩りの時に飛び出してくる獣やモンスターのほうが命の危機的には怖いからね。
でもこの澱んだ空気が何とも言えず怖い………、人間の業のオソロシサを感じるよママン………。
通りにあるのは酒場か娼館だけ。
時々やたら色っぽいきれいなオネエサンが俺に気づいて手を振ってくれる。
………もうちょっと育ったらお相手お願いしまっす!おっぱいが、おっぱいがステキだ………。
あぁ、マリエルが恋しい………マリエル分が不足してる………。
そんなこんなイロイロと妄想しながらある意味何よりも人間らしい一角を抜けてたどり着きました、今回の旅の目的の最後の一つ。
『奴隷市場』に。
《New World》は、MMORPGとしては最後発のタイトルといっても過言じゃなかった。
故に既存のネトゲのいい点、悪い点を徹底的にリサーチして『日本人が一番楽しめるMMORPG』を目指して作られたネトゲであり、その成果はゲーム内での快適なプレイ環境と魅力的な内容によって遺憾なく発揮されたといっていいだろう。
その快適なプレイ環境を支えた数あるシステムの一つが『従者システム』である。
『従者システム』とは『奴隷市場』(という名前なんだよ!ホントに!)でサブキャラクターを購入し、半自動で動くプレイヤーの仲間を育成しながら使用可能にするシステムである。
このシステムのいいところは普通の家庭用RPGの経験しかない人には分かりにくいかもしれない。
なぜならこのシステムは『オンライン型MMORPGはやりたいけど、人によってはめんどくさい他のプレイヤーとの関係を出来るだけ少なくしたい』という何のためにオンラインゲームやってんの? っていう人向けのお助けシステムだからだ。
つまり端的に言うと『プレイヤー一人でパーティーが組めるようになるシステム』ということである。
このシステムの分かりやすい使い方は、例えば戦士系職のプレイヤーが回復役の魔法職の従者を使ったり、逆に魔法職のプレイヤーが前衛の戦士職の従者を盾役として使ったりなどだ。
勿論制限やデメリットもちゃんと設定されている。
キャラメイキングはちゃんと各種族、各職業からすべて主人であるプレイヤーが選んで決められるし、プレイヤーキャラと同じように従者キャラも成長していく。
でも一度に連れて行ける従者の数は3人まで。
経験値は普通のパーティプレイと同じ様に分配されるし(オンラインゲームでは拾ったアイテムやお金、経験値はパーティプレイの場合、普通は自動分配されるようになってます)
従者のレベルUPに必要な経験値は一般プレイヤーの倍。
さらに当然一人ひとりに装備は必要だし、そのためのお金もたくさん必要になる。
あと最大のデメリットとして、所詮指示した行動やマクロと呼ばれる自動行動によってしか動かない為に、一般プレイヤーが動かすアバターとはその有用性が比べ物にならないことだ。
攻撃、防御の切り替えや回復のタイミングなど、ネトゲでは『レベル以外の熟練度』が必要とされる為、瞬間的な判断など不可能な従者システムは、高レベル狩場になればなるほど使いにくくなるシステムだった。
このシステムはなかなか人と仲良くなれないシャイな人や、性格的にちょっと………って人でもネトゲが楽しめるように、という運営側からの救済システムだといえる。
逆に本当の意味での高レベルプレイヤーには、良い人間関係を構築する能力がないとそこまで至れないとも言えた。
他にもまだメリット、デメリットは存在するが、基本的なのはこのあたりまで。
あとこのシステムを用いての自動行動プレイ、いわゆるBOT行為は事実上不可能だった。
(BOT行為っていうのは、アバターを自動で動かす事によって24時間人がいない状態でもお金や経験値を稼ぐという迷惑行為のことです。
知らない方の為に説明☆キラッ)
やろうとした人は絶えなかったが、BOT対策が100%充実していた《New World》において、それらの行為を行う不届き者共は、すべて粛清されていったのである。
《New World》の運営はマジですごかった。
迷惑行為に関しては徹底的に洗い出して悪質なプレイヤーはプレイ停止や禁止とか迅速かつ適切にやっていたからな~。
というわけで俺は今そのシステムが具現化した結果の『奴隷市場』の前にいます。
前世のお父さん、お母さん、兄貴、親戚一同と友人や関係者各位の皆々様。
ゴメンナサイ。俺悪い子になっちゃいましたヨ。
お読みいただきありがとうございます。
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