閑話 前世(むかし)を思い出して
これはジオ・パラケルススの名が大陸全土に鳴り響いた後のとある冬のある日のこと。
場所は十七人の賢者のギルドハウスの一室。
外は地面に届く前に霧に変わりそうなほど細い細い雨が降り続いていた。
それにしても今年はやけに長く雨が続く事だ。基本地中海性気候だと思われるエルトリンでは冬は雨季であり、結構な雨が降るんだがこちらに生まれなおしてから20数年の中でもこれほどの長雨は珍しいと思う。
しとしととガラス越しにふり続ける雨を見ながらふと前世のことを思い出した。
そういえば昔ならこんな日は下宿先の家から一歩も出ずにひたすら《New World》してたもんだけど、そういやあいつらどうしてんのかなと。
そうしたら昔懐かしい、顔を知らない友人達のことを思い出した。
――あいつらがこっちにいたらどんだけ化け物なんだろうな~という意味で。
自慢じゃないが、集団戦、対人戦、対PK戦、そして1対1の純粋な力を比べるチャンピオン戦の全てで、俺は鬼の住処以外の何者でもなかった1stサーバーでも屈指の実力者だったと思う。
だがそれは決して俺が無敵なわけでも最強だったわけでもなかった。職同士の相性もあったが俺に匹敵する、もしくは勝率でいいとこ5割のプレイヤーたちは両手の指では足りないくらいはいた。
中でもサーバーの統一意見として最強だった男がいた。
――やつの名前は『September』、俺が知る限り紛れもなく《New World》最強だった男。職はヒューマン盾職の一角、マシナリーナイトの到達職たるウォーロード。マシナリーナイト、ひいてはウォーロードという職の特徴は良くいえば万能、悪くいえば器用貧乏である。同じヒューマンのパラディンやその到達職たるブレイヴハートほどは堅くないし、火力職ほどの火力はもちろんなかった。
ただ俺はあいつがチャンピオン戦以外の場所で死んでるのをみた事がない。いや、厳密には1回だけある。……ただあの時はそのネタで掲示板が大炎上したからな。
こんな風に。
A: せぷ(『September』の通称)が死んだとかマジで?
B: おぉ。SSとった!
A: まじで? みせてみせて! ていうか明日やばくね? 雪でも降るんじゃねえか? 夏だけど。
B: 雪ですめばいいけどなぁ……。槍とか降りそうでこええよ。
なんていうチャットが一回死んだだけでサーバー全体でくり広げられるってどうよ?
そして何とか負ける姿が拝めることもあったチャンピオン戦ですら、俺も含めた1stサーバー勝率ランキングトップ29人に対する平均勝率が8割超えてるってどうよ?
俺も含めて勝率が5割付近あったやつが7人しかいないとかお前ほんとに人間かと何度奴の動きを見て思ったことか。
ちなみに俺は4位。1位は当然『September』、2位がネクロマンサーの『ウフフ』。三位がソードマスターの『まさむね』だな。あいつらマジチート過ぎ。こいつらも含めて十数人は俺が魔法を指定する場所を読みやがったからな。アルケの唯一の優位性を殺すんじゃねぇ。
そう思うと今の俺でも絶対戦いたくねぇ~。
リアルチートは他の英雄どもだけで十分だっつ~の。
そう思いながら揺り椅子で揺られていると暖炉で薪がはぜる音と外から聞こえる静やかな雨音が子守唄代わりになったのか、急に眠くなってきた。
というわけでおやすみなさい。
ちなみに1stサーバーのお友達たちが彼のこの述懐を聞いたら口をそろえてこう言うでしょう。
「お前にだけはいわれたくねえよ、『ぱら』のアホ!」と!
お読みいただきましてありがとうございます。
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まぁ、所詮チートは転生前からチートだったということで。
トップ3からのコメント。
『September』さん あの腹黒だけにはいわれたくねぇ。ていうかこっちの動き読んで『爆発』を設置していくのやめてくれないかな?
『ウフフ』さん え? 何? 俺あいつとの対戦成績4割切ってんだけど? ていうかあいつも短剣以外にはほぼ負けないじゃん。あいつのほうがよっぽどおかしいだろ。
『まさむね』さん あ~『ぱら』ね~。うん、正直先に当てたもんがちになるんだよな~あいつだけは。頼むからこっちの射程範囲を読まないで欲しいわ。カマイタチ当てられない魔法職とかどうなの?
というありがたいコメントをいただきました。
ていうかMMORPGのトップってみんなこんな感じだよね。彼らは多分エスパーと思うんだ。




