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ニューワールド  作者: 池宮樹
ある男の回想 前世から幼年期まで
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第九話 世界で一番いい買い物

あ~なるほど脚気か壊血病かまでは分からんけどどっちかだな。そら動けなくもなるわ。


玄米があればいいけど、なければ柑橘類かキャベツいっぱい食べさせないと。


ん~なんでこんなに知識があるんだろ?

確かに気まぐれで脚気や壊血病について調べた事もあったけどな~。


どう思う?実は結構歴史マニア、医療モノマニアだったジオが通りますよ~。

(インターネットってほんと便利だよね。)



今アリアちゃんの妹のエリアちゃんの診察が終わった。


ていっても俺の知識の中にあった診断方法を試したら、結果が脚気、つまりビタミンB1の不足が原因かなと、見当がついたってとこだ。


とりあえず体力の回復用に俺のポーションを一日3回水で10倍に薄めて飲むようにいって、後は食事を改善したら治るだろうとシランさんに伝えておいた。


レモンをいっぱい食わせてやってくれと。


シランさんも病気の原因についてびっくりしていて、これから奴隷の人たちの食生活の改善を主に提言すると約束してくれた。


あと何気に彼を驚かせたのがうれしかった!


そんなことを考えながら先ほどまでとはうって変わって穏やかな顔で眠るエリアちゃんの顔を見てなんだか俺自身がほっとしてしまう。


頬が少しこけてしまっているが、今は少し血色も良くなってきている。


将来はお姉ちゃんのアリアちゃんともどもすごい美人になるんだろうな~、と思わせる顔立ちだった。


汗で濡れたおでこに貼りついた赤い髪を取ってあげると、彼女は少し身じろぎしてまた静かな眠りの中に戻っていった。



せっかく寝付いたのだ。

起こすのはまずいと部屋から出ようとすると、俺の後ろから泣き声がする。


………嫌な予感とともに振り向いてみると、またアリアちゃんが俺に涙を流しながら頭を下げていた。



やっぱり土下座で。



ヤメテ、これ以上俺のトラウマ刺激しないで!



この状況を打破する為には声をかけないわけにもいくまい………。一応俺が主だし。



「え~アリアちゃん。まずお願いだから顔を上げて、ね?」


「ご主人様、アリアとお呼びください。

妹を、エリアを救っていただいて、本当にありがとうございました。

今日この時より私達の全ては、ご主人様のものです。

どんなご命令も、ご主人様の為なら、喜んでさせていただきます!


末永くお傍でお仕えさせてくださいませ!」



そうして顔を上げて俺を見る彼女の鳶色の目には確かに言葉通りの決意が見て取れる気がした。



やばい、一切聞いてくれていない。そしてコレは予想外だ。



嫌な汗が止まんねぇ。



だって奴隷って基本主人なんて大嫌いで仕方ないから従ってるっていうのが普通じゃないの?

確かにエリアちゃんを助けた(まだどうなるかは分からないけど)のは俺だけど、俺だってちゃんと打算があってのことだから逆に彼女のこの気持ちはどう扱っていいのか正直わからん!



そして俺にそんなキラッキラした目を向けられても俺は断じてロリじゃねぇ!



とりあえず容態も落ち着いてる事だし、待たせている他の皆さんを見て、どの人を連れて帰るか決めなきゃな。



深呼吸。



「えと、じゃあ、ア、アリア。」


「はい!ご主人様!」


頼むからそのキラキラした目で心の汚い俺を見るのはやめてくれ………。


「俺はこれから他の人たちを選んでくるから、君はエリアちゃ、エリアのことをちゃんと見てまた苦しそうにしたら俺を呼びに来てくれ。いいかな?」


「はい!かしこまりました!ご主人様。いってらっしゃいませ!」



そういってアリアは立ち上がりドアを開けて俺を送り出してくれた。



今の俺の状態はいわゆる『日本の平均的な男子中高生の夢』だ。間違いない。



それが現実になるとこれだけ胃にクルものだとは………あの頃は想像もできなかったな。



◇◆◇◆◇◆◇◆



その後俺はシランさんの意見も聞きながら数人従者候補を選んでいった。



驚いたのが奴隷達の中にダークエルフと獣人族の一方、猫人族ワーキャットの女の子までいた事だ。


確かに《New World》の『奴隷市場』ではヒューマン以外の種族も売りに出ていたからそういう意味ではおかしくは無いのだろうが、俺がこの世界で10年過ごしてきてヒューマン以外の種族を見たのはワトリアのドワーフの鍛冶屋のジョフ爺を除けば、今日ここに来るまでに会ったエロいダークエルフのお姉さんを含めても、5人いるかいないかだったからだ。



この世界は広い。今日改めてそれを感じた。



ダークエルフの女の子はシルウィ。

エルフ族、ダークエルフ族に共通する細長くとがった耳。

整いすぎているほどの顔立ち、美しい銀色の髪と夜色の肌を持つ女の子だ。


ただ、この中で『奴隷市場』でいじめられていたのか、よほどつらい目にあったのか。


「………シルウィです。………以後よろしくお願いします。」


まるで人形のように無表情な顔で俺に忠誠を誓ってくれた。



そのあまりの感情の無さは、全てを諦めてしまっているのだろう。


その顔を見ていると、訳の分からない罪悪感に胃に鉛でもぶち込まれたかの様な気がしてくる。



本当にキツイ。この世界の負の現実をそのまま突きつけられているようで。



もう一人の猫人族ワーキャットの女の子の説明をするまでに少し獣人族について話した方がいいだろう。


獣人族はこの世界には現時点で二種族存在している。


人狼族ワーウルフ猫人族ワーキャットである。


人狼族はあらゆる点で力が強く、戦士としての素質はおそらく全種族最高である。

義理に厚く、信義を大切にしているが、同時に融通が利かない性格をしている。


猫人族は好奇心旺盛で気まぐれ、楽しそうな事にすぐ首を突っ込むところはあるが、その

一方で彼らの野生を秘めたスピードは他の種族の追随を許さないまさにハンターだ。


彼らが他の種族に劣っているのは、分かりやすい意味での攻撃魔法と召喚魔法全般が使えない事である。


彼らの魔法は独特であり、人間やエルフ、ダークエルフのものとはまったく別物であるといえる。


あと付け加えるなら、人狼族がエルフ達の聖地である『世界樹の森』に、猫人族はダークエルフたちの聖地である『常夜の森』に暮らしていることくらいだろうか?。



いや、大事な事を忘れていた。彼らの姿は非常に独特なのである。


人狼族の男性は、体はヒューマン族に良く似ているが尻尾を生やし、首から上は狼そのものである。

まさに狼男。


女性の場合は逆にほとんどヒューマン族の女性と同じだが、頭のてっぺんから飛び出した狼の耳とお尻に生えた尻尾を持っており、彼女達もひと目で人狼族だと分かる。


また猫人族のほうも負けてはいない。

猫人族の男性は、ヒューマン族の10歳程度の子供ほど大きさの歩く猫そのままである。

2足歩行で歩く猫、である。


我輩は猫………ゲフンゲフン。


一方女性は、人狼族と同じように頭から突き出た耳と尻尾以外はヒューマン族の女性と変わらない。

少し小柄なくらいだろう。


あと猫人族は語尾や言葉の途中に『にゃ』がつく!これは本当(公式設定)だ!



まぁこれで少しはこの二つの種族の事が分かってもらえたと思う。



さすが日本人の作ったMMORPGの最高峰《New World》。



初めて画面でそれを見た時、本当にお客のニーズを的確に捉えていると思ったものだ。



捉えすぎだろうと。


え?人狼族は語尾に「ワン」とつかないのかって? 付きませんよ、そんなの。


閑話休題。



そんな好奇心旺盛で気まぐれで底抜けの明るさが特徴の猫人族の少女のはずなのだが、彼女は俺が近づくと体を震わせながら、

「リューネといいますにゃ。

ご主人しゃまのいうこと何でも聞きますから、どうかひどい事しないでほしいにゃ………。」


と完全に脅えきった状態で俺に挨拶をしてきた。


へたりきった耳と尻尾はきれいな橙に近い茶色、髪は薄めのブラウン。

ヒューマンとさほど変わらない顔立ちだが、やはりその顔はどこか猫っぽくてかわいらしい。


しかし俺の目を引いたのは彼女の容姿ではなく、彼女の体に刻まれたものだった。


薄汚れた服からのぞく肌のそこかしこに見えるムチの跡。


俺は見ていられなくて目をそらしてしまった。


同時に元の世界のことを考えてしまう。



元の世界の奴隷の歴史について思い返し、

「あんなに平和そうな世界もこんなに不幸な人たちの過去があったからなんだな」

とガラでもなく考えてしまった。



そんなかわいそうな二人を俺は二人あわせて20,000Gで『買った』。



なぜなら彼らはヒューマンにはない力を使いこなす者になる可能性があるから。



それは俺の目的の為にはすごく『有用な力』だったから。



どうしようもない外道だと自分をこんなにも呪いたくなったのは、昔と今をあわせた人生でもこの時が初めてだった。



俺は何の言い訳もしない。



そんな事出来るわけがない。



◇◆◇◆◇◆◇◆



俺は他に俺が今度うちの庭に作る俺のための植物園の世話をしてくれる人間を男女2人ずつ買った。

これはシランの推薦で選んだ。


あのデキる彼の推薦なら間違いないだろう。


あと元冒険者の奴隷だが今回はやめておくことにした。

かなりお金を使ってしまったし、無理してまで欲しい人材がいなかったからだ。



いや、正直に言おう。人を『買う』という行為に俺はもう限界だった。



そうしてこの世界で一番不愉快な買い物を終わろうとする時、不意に小さな声が俺を呼び止めた。




自分の運命を変える声というのを俺は初めてこのときに聞いた。







「だ、旦那様。僕を買ってくれませんか?」



そこにいたのは背の低い小柄で何の変哲も無い黒い髪の少年だった。


その言葉に俺が驚いていると、少年は意を決したように言葉をぶつけてきた。



「僕、今は何のとりえもありませんが必ずあなたの役に立つ人間になって見せます!

だからお願いです!僕を買ってください!」



元々カラカラだった俺の喉がさらに渇いていく。


言葉がのどを通して出てくる気がしない。


それでも聞かなくちゃならない。


ひび割れた声をのどを割って絞り出す。



「………どうして俺なんかに買われたいの?」



「あなたの側にいれば僕でも、力の無いただの無力な奴隷の僕でも未来が見れる気がするからです。

それがどんな未来でもかまいません!お願いです、僕を連れて行ってください!」



………このとき初めて俺は理解した。人が人の命を背負うってことがどういうことか、ということを。



今から自分のしようとしている事がどういうことで、どういう覚悟をしなければいけなかったのかを。



改めて自分に言い聞かせる、いや全ての認識を入れ替える。



俺はこの世界の人間だと。



この世界で生きて、死ぬのだと。



熱くなって来た目を上に向けて、少年に分からないようにしながら俺は彼に尋ねる。


「君、名前は?」


「テトです。」


テトか。長い付き合いになるなら呼びやすい名前は大歓迎だ。



「テト、俺の名前はジオ・パラケルスス・ラ・テオフラストゥスだ。


俺は天空まで駆け上がるぞ!遅れないようについて来い!」



「ハイ!」




結局この日俺が金で買ったものは、たくさんの家族とこの世界の人間として生きて死ぬという覚悟だった。



俺はこの日世界で一番いい買い物をしたのだろう。その事だけには自信がある。

お読みいただきありがとうございます。


書き始めるまでここまで重くて重要な話になるはずではなかったんです。


だって最初書き出しの時につけてたタイトルが

『俺は断じてロリでもショタでもない』ですから。


実力以上のものが出た感じがしていて自分的には満足です。


ヒロインのうち4人が今回出てきました。


赤毛の双子の姉妹、アリアとエリア。

ダークエルフの少女、シルウィ。

猫人族の少女、リューネです。


これで主人公が立てたフラグは5本目。


さて主人公はこの先何本のフラグを立てるのでしょうか?

作者の現在脳内でカウントしている数で止まる事ができるのか!ジオの腰は大丈夫なのか?それは誰にも分からない!


そんな感じです。


あとそろそろ他の人の視点から、閑話をいくつかはさんだほうがいいでしょうか?


あと二話消化できれば一章終了でちょうど切りがいいので。


閑話で扱う予定の話は、

ジオ父を初めとした回りの大人たち視点の話。

マリエル視点の話。

あとは奴隷少女4人組視点の話。

あとは短いですがテト少年の視点での話でしょうか。


まだ早いかなという気持ちもありますので微妙といえば微妙です。

書かないほうが読んでくださっている皆さんの想像力を掻き立てる気がして………。


書く場合は本編がその分遅くなりますしね。


あと前回お話の中でその強さ加減を説明したダブルジョブが主人公の一番のチートではありません。

既に各所で片鱗を見せている別の能力が、実は最高にチートなのです。


ある意味無双が可能なほど………。



ご意見、ご感想、誤字脱字の指摘など幅広くお待ちしております。

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