寝坊しなかったら遅刻しなかったのに。
東京ドーム。
ライブ開始まで、あと三十分。
控室には六つあった椅子が、今は五つしか使われていなかった。
誰も座っていない一脚。
それは、かつてボンゴ担当だった伊豆井神威の席だった。
高校三年の夏。
神威は未成年での飲酒と喫煙が発覚し、退学処分となった。
バンドも活動を休止しかけた。
裏切られた。
応援してくれた人たちを悲しませた。
その事実は簡単には受け入れられなかった。
誰も神威を許せなかった。
連絡を取ることもなくなり、神威はメンバーの前から姿を消した。
文化祭。
神威がいなくなり、五人で出るか辞退するか。
何度も話し合った。
その時だった。
晶哉「文化祭で演奏してくれ。」
生徒会長・島津晶哉が頭を下げた。
隣には生徒会役員の真紫瞳と恵比寿心菜が立っていた。
瞳「みんな、このライブを楽しみにしています。」
心菜「五人でもいい。だから演奏してください。」
辰哉は仲間たちを見る。
奈美「やろう。」
名寄「逃げたくない。」
藍「音楽まで嫌いになりたくない。」
狛似「神威がいなくても、俺たちは俺たちだ。」
五人は文化祭のステージに立った。
その日、一曲目が終わった瞬間。
会場は大歓声に包まれた。
ライブの後。
辰哉は父・目白蓮に呼ばれた。
活動休止から初めて会う父だった。
目白蓮「いいライブだった。」
辰哉「ありがとう。」
父は少し笑う。
目白蓮「音楽は、誰かを傷つけることもある。」
目白蓮「でも、それ以上に誰かを救える。」
沈黙が流れる。
そして父は、一枚の名刺を差し出した。
目白蓮「デビューしろ。」
辰哉「……え?」
目白蓮「俺の知り合いのレコード会社だ。」
目白蓮「お前たちの音は、本物だ。」
その一言が、おはよう靴下ーずの人生を変えた。
数年後。新人賞。オリコン1位。
伝説のロックバンドとなった。
生徒会長の島津晶哉、真紫瞳と恵比寿心菜はそれぞれ素敵な人生を歩んでいるらしい。
そして――。
東京ドーム。控室。
ライブ開始十分前。
五人は円になって座っていた。
奈美「高校の部室、覚えてる?」
藍「神威が毎日ボンゴを叩いて怒られてた。」
狛似「先生、毎日『うるさい』って言ってたな。」
5人は揃ってこういった。「あいつはクズ。」
名寄「バンド名も、よくこれで売れたよ。」
全員が笑う。
辰哉は静かに口を開いた。
辰哉「彩のこと……やっと受け入れられた。」
部屋が静かになる。
姉・彩は、失踪したのではなかった。
家族にも知らされないまま、すでに亡くなっていた。
その事実を知ったのは、デビュー後のことだった。
辰哉は天井を見上げる。
辰哉「父さんも、俺を守るために黙ってたんだな。」
奈美が辰哉の肩を軽く叩く。
奈美「今日はきっと、彩さんも聴いてるよ。」
辰哉はうなずいた。
コンコン。
ドアが開く。
スタッフ「おはよう靴下ーずの皆さん、本番五分前です!」
五人は立ち上がる。
円陣を組む。
奈美「行こう。」
名寄「日本一のライブ。」
藍「いつもどおり。」
狛似「思いっきり楽しもう。」
辰哉は仲間を見渡した。
高校の軽音楽部で出会った、大切な仲間たち。
辰哉「ありがとう。」
五人は笑った。
ステージへ向かう扉が開く。
数万人の歓声が響く。
「おはよう靴下ーず!」
「おはよう靴下ーず!」
大歓声の中、五人はステージへ歩き出した。
あの日。
学校へ行くこともできなかった少年は、
仲間と出会い、
音楽と出会い、
再び笑えるようになった。
一つの青春は終わる。
だが、おはよう靴下ーずの音楽は、これからも誰かの朝を照らし続ける。
―完―
タイトル関係無さすぎる。




